風のささやき

幸せと名付けて

幸せは名前をつけていくこと
幸せの名前を与えること
何気ない日常から一つ一つを拾い上げて
幸せと名付けよう

いつからか幸せは遠い物
手に届かない物と思い定めて
見失うあれは不幸せこれも不幸せ
どこかに身を焼くほどの幸せがあって

手を伸ばす虚空の闇に
飲み込まれて見失う足場を見れば
爪先立ちの立ち位置もすべて
黒に塗られて失っている色の眩暈

幸せの名前で呼ばれれば
その指先に触れられ名付けられれば
魔法を解かれた鮮やかな色合いが
あふれていることが分かるのに

最初はおずおずとでも良い
それを認めてしまえば
負けてしまうようにも思えて
素直になれない頑なな自分がいて

春の花の便箋に手紙をしたためて切手を貼るときめきを
夏の砂浜に足裏を焼かれて一目散に皆で海を目指す楽しさを
秋の銀杏あなたの髪に落ちてきて取り除く指先の恥じらいを
冬の夜に温かな子供たちの間に挟まれて眠る心地よさを

朝に目覚めさせる陽ざしの眩しさを
昼の空に見る雲の姿の長閑さを
夕刻に沈んで行く眼差す夕日の優しさを
夜のしじま一人を守ってくれる静けさを

昨日見た花の色の可憐を
今日手をつないだ時の安心を
明日耳にする言葉の新鮮を
未来へと込める願いの喜びを

すべてを幸せと名付けて
自分の物として胸に拾い上げて行くこと
幸せになることに選ばれることはない
幸せは日常の豊かさとの語らい

幸せは素直
素直に喜べる心模様
喜びを分かち惜しまない
諦めることのない心