口ごもる夏の駅で
向日葵だけが咲いている 無人駅のホームに電車を待っている 夏の陽射しが汗を誘い 古い駅舎の庇に逃げ込んで ふいにあなたが尋ねる それとも胸の内に その問いを秘めていたのかな 「遠くへ旅をするのならば何処かいい?」 僕は少し口ごもる 高鳴る鼓動に合わせるように 踏切の警告音が鳴って 「あなたと一緒の 旅であればどこでも」と呟く 「何、聞こえないよ」と あなたはもう一度 僕の言葉を確かめようとする 心に隠した言葉が急に 熱を帯びたように膨らむ 電車が軋み滑り込む音に合わせ 「あなたと一緒にいられるのならば どこでも、どこまでも」 それもまた、聞こえなかったと 聞こえないように呟いたから 空には 大きな入道雲が 無関心を装いながら その思いを伝える 自信に満ちていない僕を 静かに見下ろしていた