風のささやき

春疾風

春疾風
強い向かい風が
僕を押し返す
この先には進むなと叫ぶ

地に伏す犬フグリの群れは
この世の終わりに恐れおののき
撓んだ新緑の小枝は
芽吹きを千切られている

透明な生暖かい獣が
暴力的に通る
青空も顔色を変え
遠くで息をひそめている

踏みつけられた
タンポポや土筆の首は
地面と水平に折れたたまれて

風圧に耐える首
歯を食いしばり血管も浮きたつ
怒っているのか 風は
無謀にも進む
僕への忠告めいた唸りで

砂礫は目をふさぐ
見るべきものさえないと
獣のような遠吠えは
聞くに値しない
文句ばかりだと耳をふさぐ

胸の奥深くまで風は荒らしまわる
糸の切れた風船のように
散り散りになり思いは形を失う
悪い予言となり吹き狂う

それでも この一歩を
前へと進めなければいけない
吹きすさぶ風と
来るべき終わりを予感しながらも
胸の奥底には諦めない明日の光を感じる

傍若無人な風の向こうに
蜂蜜色の陽射しは降りそそぐ
雨上がりの初夏の
湿った香しい花の匂いをきっと感じられる

ここに僕を縛ろうと
風は猛るのか
歩こうと止まろうと
さして変わらない憐みに

僕は 試されているのか

なお風は力をこめる
それはお驕りだと笑うように
愚鈍な僕を叩き伏せるのだと
確かに風は 強く激しく吹いてくる