風のささやき

港の見える公園で

港の見える公園の夕暮れに
吹いてくる潮の微風は
あなたの髪を湿らせた

マッチをつけたような夕日が
海を赤く鈍らせると
沢山の子供たちも帰った
めっきりと人影は少なくなって
街灯がぽつりぽつりと点る
テトラポットに砕ける波も
今日の終わりに力をなくした

そういえば 風が欲しがって
奪い去った青い風船は
どこへ飛んで行ったのだろう
もう空に溶け込んで消えたのだろうか

それともまだ 銀河の彼方をめざして
あてのない旅を 続けているのだろうか
いずれにしろ 子供はキョトンと
手のひらを見つめ 大声で泣いた
失ってしまう驚きが
波紋のように胸に広がった

歩きつかれて足を休める
ベンチが夜に包まれようとする
剥げ落ちた白いペンキに
置き去りの寂しさを感じて

こんな公園にも不意に
痛みの神経を掴まれるように
諦めの悪い苦さに胸の奥が疼く

風や太陽と海の戯れに比べれば
あまりにも短く急ぎすぎる生に
どれぐらいの時間を
あなたと一緒に過ごせるだろう
港の見える公園に風に衣を引かれ

ゆったりとした海原には
失われた日々の記憶が
濃厚に溶けている
僕の時間もやがてはそこに飲みこまれ
もどかしいほどに言葉をなくすのだろうか

どこの国かの客船が停泊している
船首には 遠い国の文字が滲む
涙のせいかな この目に映るものは
直ぐにかすれて朧げになる

汽笛が大きく一つ響いて
きっとどこかに 旅立つ船がいるのだろう
無事にその航路を 終えてくれればいいね
時折は 灯台に導かれてもいいから と

旅立ちの遥かさに耽っていたら
いつの間にかあなたの顔が
夜の影に見えにくくなったよ

それで慌てる自分を隠そうと
言葉がもつれ もどかしくなり
もっと 寂しくなった 僕だった