風のささやき

初雪や仕事の熱も奪いおり

荒れる海雪も孤独も呑む波濤

凍空に布団干しおりおねしょした

初雪や深夜のホーム一人きり

寒空や手の冷たさで鬼ごっこ

都会には憂い眼のうつた姫

朝北風（あさきた）やもう少し寝る日曜日

初雪に得心する肌痛くあり

片頬を窪ますビルや冬日燦

冬満月餅つき兎も白き息

上気して雪のどっしり動かせり

残る葉の意気地を挫く寒の雨

木枯やおねしょ冷たし目覚める子

直ぐほどけ眼鏡の縁の街の雪

時止める術を見せてや夜半の雪

冬茜熱に焼かれる子を焼くな

冬の風饒舌な子も形無しで

陽の中で思い巡らす迷い雪

寒風が海打ち鳴らす凄まじく

霙れるや村落棚田白き海

靴跡を比べ見るなり雪の街

寒晴れやまた浴びる青有難し

冬日さす墓地の御霊のなお燃えて

人混みや染みる寂しさ寒の月

吹雪く海鴎追い越す列車から

パパという子も眠りおり寒の月

寝過ごすも昨夜のままや雪景色

雪の朝季節跨ぎの花屋かな

雪の朝赤き車の誇らしげ

雪白し可憐な唇盗み見る

加湿器や子の咳止めろ冬旱

初雪や一夜に街の白さかな

洗い物燃えているのか冬茜

冬晴れや偽りまみれぬ青さあり

雪は降る子らにこれから何を語らむ

欄干に丸き鳩なり冬茜

見たいなと言った子の街今日の雪

残る実は雪の重さに耐えにけり

踏切の警笛溶け行く冬の空

トンネルの出口眩しき雪景色

来る日の希望が支え枝の雪

冬晴やレールは空の青さかな

初雪に仕事のほてり鎮められ

冬茜濡らし切なき百日紅

散髪の僕待ち伏せて北の風

野良猫も恨めしげに鳴き冬の雨

口ごもる言葉を聴くか冬の星

湯煙に松とりこぼしたる雪を聞く

一歩ごと壊してまわる牡丹雪

北風の背の圧泣けとのいじめかな

冬空や切れ目鋭きビルの群れ

冬空や紙飛行機の自由かな

一息の暖にも残れず雪淡く

木枯が食い散らかして一葉かな

北吹くも施無畏印（せむいん）持して石仏

狛犬の毛並み濡らしてさす冬日

初雪を窓辺の影絵と眠る夜