序  言


 近年、考古学に関する、辞書、事典類の出版は多い。学界の繁盛を慶賀するとともに、その出版を支える執筆者・協力者・購入者の労苦を思い感嘆に耐えない。そのような中で、編者が自ら購入した、すなわち、その出版を待ち望みあるいは突然の出現を喜んだ事典が2つある。日本土器型式事典縄文時代研究事典である。編者はこの2つの事典の恩沢を受ける日々を過ごしているわけだが、やはり、いかなる事典にも完全が望めぬ以上は不満が生ずる。第一は、大漢和・大百科・国語大辞典のような学者が一生を捧げ出版社が社運をかけた化け物とは異なり、わずか1巻の中辞典であるとはいえ、当然に取り上げられるべき重要な型式が多数漏れており、まして、学史の片隅に埋もれた型式や、提唱されたばかりの型式はほとんど載っていない。このような型式名が論文やら報告書に現れたときの参照には耐えられない。さらに、編者がよく知る型式の記述を見ると、現在の研究の到達点に遙かに及ばぬ黴の生えたような記述があるばかりか、素人が書いたのかと思わせるような出鱈目な記述すらある。著名な型式名が誤って記載され索引にまでそのまま載っていたりすると、設定者に何か含むところでもあるのか? と、あらぬ疑いまでいだいてしまう。それらは、限界をわきまえて利用すればよいのだと割り切るにしても、重さが片手で扱うには耐えない。寝ころんで暇つぶしに読むことができないのは当然としても、携帯できないのは実用性を損なうといえる。
 実は、両事典の出版の前からオンライン土器型式事典という構想を練っていた。その書式も作り、いくつかの型式について記述したものの、ひとつひとつの型式群について代表的な編年案の要約まで含めようとしたものだから草創期で挫折してしまった。それとは別に日本全土についての編年の現状を把握しようと各種文献を元に表をまとめていく中で、あまりに多数の型式名があらわれ、同時にすべての型式の代表的特徴を覚えていられなくなった。すなわち、自分でまとめた表でありながらその表に書いてある型式がどのようなものか思い浮かばないのである。たわけたことだ。
 これらの事情から、自分なりのメモ代わりに各型式の概要や細分案を記し、電脳内に蓄積して携行せんとしたものである。すなわち、この一連のデータの目的は「辞典」であって「事典」ではない。もちろん、項目により、内容の多寡が激しく異なり、多いものは「事典」の域に近いということになるかもしれない。それは、編者が熟知する型式について研究の現状を精一杯短くまとめたものと理解していただきたい。すなわち、この辞典をごらんいただくと、それぞれの型式について編者の勉強がどの程度進んでいるかがばれてしまうともいえる。やばいなあ。
 各型式の解説にはHTML言語の特性を活かし、関連する型式へのリンクを張りまくった。これこそが縄紋土器の縦横連鎖構造だ、などといってみる (^.^;)
 願わくは、このささやかな辞典に刺激されて、優秀な研究者多数による本格的なオンライン考古学事典が構築されんことを。
98.2.11 編者記
このような便利なHTML言語を開発し、普及するために努力された諸氏・諸機関に感謝します。
I.E.3という手頃なブラウザを提供して下さった MS-OFFICEユーザーに同情しつつ感謝します。

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