Nifty 歴史フォーラム 本館 縄文会議室 への発言を再録 00176/00922 HFC03726 早傘 RE:縄紋土器の由来 (14) 98/07/06 23:37 00174へのコメント コメント数:1  ロクジさん、川崎さん 今晩は。  議論の内容が、以前に私が公約した内容に近づいてきてしまったようです。  どうもうまくまとまっていないのですが、いくつかわかった範囲を述べて参  りましょう。    まず、「縄<紋:文>[式]土器」の名称論に関して。    この一群の土器がどう呼ばれてきたか、江坂輝弥氏がかつて「考古学ノート2   先史時代II」(昭和32年)にまとめられた表を参考に概要を紹介します    E.S.モースは Cord marked pottery と呼びこれは「索紋」と訳された  明治時代には主に「貝塚土器」、次いで「縄紋土器」という名称が用いられ  「縄文土器」と記した事例も有る  大正時代に石器時代人=アイヌ説が有力になると「アイヌ式土器」あるいは  「アイヌ派土器」の語が愛用された。   浜田耕作は以上の名称の全てを使用したことが有るばかりか「貝塚式土器」  「縄紋式土器」の語も発明した。   後藤守一は土器群の特徴をもって呼称するのが適当ではあるが、縄紋の無い  ものも含むから「式」を挟んで「縄文式土器」がよいとした。なぜ「文」かと  いうと縄目文様の省略だから   昭和15年に人類学会主催の「人類学・先史学の用語に関する座談会」が  帝大赤門前の喫茶店で開かれた。「縄紋土器」と「縄文式土器」で意見が割  れた。「弥生式」は意見が一致した。   戦後、漢字簡略化の風潮と明大考古学研究室の活躍により「文」が優勢になった。    という具合のようです。    山内清男の用語法については、調べかけては面倒くさくなってやめるという  繰り返しなので、あくまでおおざっぱに論文集に目を通し、いくつかの論文での  事例を数えてみての所見ですが、    弥生式以前の土器総体の名称としては「縄紋土器」がもっとも多いが「縄紋式  土器」も結構使用している。同一文献の中でも混在するし、執筆年でも画然と  分かちえない。また、土器総体を差して「縄紋式」とのみ呼ぶことも多い  (「縄紋式土器」よりも多いかも知れない)。しかし、「縄紋式」という用語は  それ以上に文化の名称として用いられることが多い。すなわち論文中に「縄紋式」  と書いてあった場合、「縄紋式土器」と読み換えられる場合も有るが「縄紋式文化」  と読み換えた方が適当な場合が多い。   また、用字については、山内は徹底的に「紋」にこだわっている。   これは「文様帯」は文の字にこだわるのと一対であることは、つとに指摘  されている。不思議なことに縄紋と同類の彫刻棒回転圧痕を昭和37年までは  「押型紋」としていたのに「縄紋土器総論」では「押型文」とし、文様扱い  なのかと思うと「押型文に文様は無い」と書いてあります(この用字は気ま  ぐれや誤植ではなく、それ以後の著作では全て「押型文」です)。  なお、山内は必ず「弥生式」と、式を付けています。  「弥生土器」という語がいつから発生し定着したかは適当な文献も無く、  調べるのも面倒です。そのうち気がむいたらやるかも。 01340/01342 HFC03726 早傘 文と紋 (14) 99/09/29 00:04 01331へのコメント 紋文として夜も寝られない皆さんこんばんわ  とうとう字源の話までいってしまいましたか(って、わしが誘導したのか)  「文」の字の原型は土器の縄目模様と説明する字典があるのは確かで、その 説明を初めて見たときはこれは面白いと思ったのですが、いくつかの字典を調 べると、むしろ、入れ墨すなわち文身を図化したものという説に説得力があり 有力なようです。この説では、人体を表す「文」の中央の空間に入れ墨を示す “X”などが入っている形が原型で、簡略化の過程で肝心の入れ墨の部分が省 略されたということになります。  そして「文」から「紋」が派生し、「文」の意味が文字列の方に偏っていく につれ模様の意味のモンは「紋」に集中していったという歴史は踏まえておく 必要がありましょう。  逆順辞典があれば見ていただきたいのですが、模様の種類を表すモンは普通 は「○○紋」として国語辞典に採録されています。「○○文」で模様を示す言 葉は少なく、古語をのぞけば考古学用語だらけ(縄文・直弧文・忍冬文など) です。  つまり、現代日本語では模様の意のモンは「紋」を用いるのが一般的です。  模様の意味の「文」の元となる「文様」というのは、そういえば日常用語で は無いですね。考古資料を口頭で市民に説明するときにはモンヨウを避けてモ ヨウとする人が多数でしょう。そもそもモンヨウとはなんなのか?  明治〜大正期の考古学文献を散見すると、現在の考古学者ならば「文様」と 書くような場面で「模様」と書くことが多い。モンヨウの場合は「紋様」が普 通。文献によっては「模様」と「紋様」を使い分けているようなものもある。 その中で、高橋健自、後藤守一など帝室博物館派が「文様」・「○○文」を使 いだした。  あらためて国語辞典を読むと「文様」の説明に「有職文様の略」と記されて いることが多い。有職文様とは奈良・平安時代以来の由緒ある文様のことで、 熟語として確立しているらしい。有職故実とあれば帝室博物館派が得意なとこ ろ。かれらからすれば「紋様」など教養の無い連中の使う言葉で、「文様」こ そ由緒有る用語となるのだろう。さらには模様の名称も「○○文様」を略して 「○○文」だという考え方なのであろう。そして、後藤や森本、杉原、小林行 雄などが教育や概説書をとおして普及させた結果、考古学界では「文」が一般 化したのであろう  過去から現在にわたる縄紋文化関係の論文を見ると、「文」「紋」問題につ いて3つの立場があるようだ。 ・糸編派    縄紋  紋様  八幡一郎、佐原真など。過去主流現在少数 ・ブン派    縄文  文様  後藤守一、杉原荘介など。現在の主流 ・使い分け派  縄紋  文様  山内清男など。現在は土器研究者に多い  使い分け派の場合、例えば 押型モン、爪形モン、渦モンをそれぞれどう表 記するか、意見が分かれると思う。  現在の僕は使い分け派で、押型紋、爪形紋、渦文という風にしている(単純 なパターンは「紋」、図形は「文」)。区別に困る場合があるのは確かで、ど ちらかに統一すればよいとも思わぬではない。  その場合は、日常用語に揃えて「紋」で統一した方がよいと考える。「縄 文」はもはや大抵の人が知っている言葉だから変える必要が無いとの意見も有 ろうが、「有文土器」などという言葉が出てくると途端に不用の誤解を招くの であり、考古学界特有の「文」の乱用をとりやめるべきではなかろうか。 P.S.加茂鹿道さんへ 大村裕さんの論文は読んでいません。きっと、もっと踏み込んだ内容なのでし ょうね。 01357/01357 HFC03726 早傘 RE:文と紋 (14) 99/10/03 00:22 01351へのコメント HONさん 加茂鹿道さん どんたくさん こんばんは “辞書に見る「紋」と「文」”第3弾は、日本語IMEの辞書 手順はこう 1) ATOK12の標準辞書から全ての名詞とサ変名詞をテキストに書出す 2) データベース(桐)に読み込み 3) 読みに「もん」を含み、表記に「紋」または「文」を含むものを抽出 抽出された約50語を見ると、模様の意味の「もん」は20数例。そのうち「文」 は「文様」と「縄文」だけ。「紋」はその他のすべてと「紋様」。「縄紋」は 無し。 MSIME98で同様の作業を試みたら、どうも標準辞書の単語がテキストに書出せ ないらしい。やむをえず、ATOKで抽出された模様の意の“もん”を含む単 語を変換させてみると、やはり、「文様」と「縄文」の他は、1例だったかを 除き「紋」ばかり IMEの辞書は用例データベースを基本として、変換効率や営業上の都合、編 集方針などによる捨取選択を加えて構築されているという。単語の選択はとも かく用字は用例に基づいて選んでいるはずで、現代日本語で模様の意の“もん” は「紋」が普通であるという傍証になる。 マスコミや出版社は、専門用語の表記は学界の標準的用法に従うのが原則だから 考古学界が世間の用字にならって模様の意の“もん”を「紋」に戻すべきではな かろうか 言葉は生き物というのはそのとおりなのだが、それに逆らって「文」を濫用した 結果が「縄文」だという歴史的な経緯を御理解いただきたいんです とはいいながら、別に他人に「縄紋」を強要するつもりはさらさらない。 自分自身、仕事で書く無記名の原稿は「縄文」を使って平気。 だから会議室名を変更せよ! などとはいわない (^^) でも、変更してくれたらとってもうれしいなと思ってはいる (^O^) この件はこんなもんで打ち留めかな