旧石器文化研究10団体の共同声明

宮城県上高森遺跡・北海道総進不動坂遺跡における旧石器発掘捏造問題に関する声明

 前東北旧石器文化研究所副理事長・藤村新一氏による今年度の宮城県上高森遺跡、北海道総進不動坂遺跡における前期旧石器発掘捏造問題は、日本の旧石器時代研究に深刻な打撃と不信感をもたらしただけでなく、わが国の考古学に対する信頼を失墜させる背信行為であります。私たちはこの問題を深刻に受けとめると同時に、このような行為を防止できなかった旧石器時代研究者の責任も重く、反省しているところです。
 今回捏造がおこなわれたのは上高森・総進不動坂の2遺跡のみと伝えられますが、藤村氏が関与したその他の旧石器時代の遺跡の発掘調査についても疑惑がもたれております。これらの学術的な意義を確かめるためには、再発掘等による検証が不可欠です。また、多くの研究者が検討するためには、上高森遺跡・総進不動坂遺跡その他関連する遺跡の発掘調査にかかわった研究者・団体・機関等が報告書を刊行することが急務であると考えます。その一方で、捏造を見抜けなかった発掘調査方法そのものの検討を通じ、再発防止のために努力していかねばなりません。
 日本の旧石器時代研究は、考古学のみならず、地質学、地形学、火山灰編年学、古生物学、古生態学、人類学、年代測定学等さまざまな自然科学分野と連携し、相互検証のもとで研究基盤を構築してきた分野でもあります。いまや日本列島で発見された旧石器時代遺跡は約5000カ所にもおよび、膨大な資料の蓄積とともに、地域ごとに研究が深められています。ただ、こうした研究状況は後期旧石器時代を中心としたものであり、前期・中期旧石器時代については、ようやく西日本をふくめた全国的な規模での探索と本格的研究に着手しようとする段階にありました。今後は全国的な視野での研究をさらに推進するとともに、遺跡と出土遺物に関する十分な検討や学説に対する忌憚のない相互批判をおこなうことが重要です。また、関連学問分野との協力による相互検証をさらに深める必要があります。
 日本の旧石器時代研究では、相沢忠洋氏による岩宿遺跡の発見に示されるように、新たな資料の発見や調査において民間の研究者・研究団体が大きな貢献をなしてきたことは明らかな事実です。私たち地域研究団体も、そうした伝統のうえに立ち、個々人の所属する学会・職種等の違いをこえ、地域の旧石器時代研究を推進する目的で自主的・自発的に組織したものです。今回の捏造によって民間の研究者・研究団体の発掘調査へのかかわりに疑問がなげかけられているのは遺憾であります。日本列島における前期・中期旧石器時代の研究を推進するためには、固定的な観念にとらわれない新鮮な問題提起と意欲をもった多くの研究者・愛好家の協力と粘り強い努力が必要であると確信します。
 今後の再調査と関連資料の再検討に多くの時間と労力が必要とされることはいうまでもありません。こうした困難な事情を抱えながらも、私たちは積極的にこの問題に取り組み、地域研究団体間での連携はもとより、各関係機関との協力体制を強化しながら、今回損なわれた日本の旧石器時代研究の信頼回復のために尽力していく所存です。
以上    
  2000年12月24日
北海道旧石器文化研究会     
東北日本の旧石器文化を語る会  
石器文化研究会         
長野県旧石器文化研究交流会   
北陸旧石器文化研究会      
東海石器研究会         
近畿旧石器交流会        
同人会旧石器文化談話会     
中・四国旧石器文化談話会    
九州旧石器文化研究会      

このページへの御意見等は早傘(HFC03726@nifty.com)にお寄せください。