天牛と戦う

                  朝日新聞2000.11.16朝刊

朝日新聞の『窓』欄に掲載された同紙論説委員室からのものである。

この記事はムシを退治することと,人への被害を食い止めることの難しさを伝えている。以下に報道文の紹介をする。(一部私が手を加えたり,削除している)

***印に挟まれた文章が記事。

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カミキリムシに興味を持っている方には常識であるが,中国ではカミキリムシのことを天牛という。その天牛が中国北部(東北,華北,西北)で猛威を振るってきた。

この地域では森林が失われ,砂漠化が進んでいる。これをくい止めるため二十年以上前から大規模な植林計画が実施され,ポプラが植えられた。壮大な『緑の長城』計画である。

ところがこのポプラが天牛の大好物であった。光肩星(ツヤゴマダラ),黄斑星(キイロゴマダラ)の天牛二種類が大発生し,ポプラの葉や枝を食いちぎった。幹に産み付けられた卵から孵った幼虫は,幹の中を食い荒らした。葉を食べるのは後食,枝を囓るのは後食か産卵のための傷つけであろう。おそらく葉,枝の食いちぎりはポプラにとって致命的ではなかろう。ポプラにとって問題となるのは幼虫が幹内部を食い荒らし,孔を無数に穿つことであろう。

被害の大きさに中国政府は日本の専門家による技術協力を要請し,六年前から途上国援助(ODA)で『中国寧夏森林保護研究プロジェクト』が始まった。

実験の結果,天牛は新彊のポプラが嫌いであることがわかった。そこでポプラを新彊ポプラに植え替えた。そして天牛は制圧されたかに見えた。

しかしその後,嫌いなはずの新彊ポプラを食い荒らし始めた。食料がなければ嫌いなものでも喰い育ち,種を守ることはカミキリ愛好家には知られている。まさに中国でも同じことが起きたといって良い。国際協力事業団の飯島智志さんは『これが自然の摂理です』と説明したという。

そこで天敵のサビマダラオオホソカタムシを放したり,死に至る微生物に感染させたり,ナイロン編みや粘着材を仕掛けて捕殺したりと,あの手この手の作戦が展開されている。

昨年終わる予定だったこのプロジェクトは,二年間延長された。そうはいっても地元の人々からは天牛退治事業は感謝されているという。

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日本におけるゴマダラカミキリが食べる樹種は広葉樹から針葉樹にまでいたる。特にイチジク,ナシ,柑橘類など栽培者にとっては重大な害虫となっている。その他には楓,杉,バラ,ヤナギ,ナラ,シイ,カシ,桑などがある。カミキリムシは一般に食べ物への嗜好性が強いと思われているが,ゴマダラは異なり,多くの樹種を食べるものの一種である。やっかいなことは,多くのカミキリが枯れ木や衰弱した樹木などを産卵場所とすることが多い中で,ゴマダラは生木に産卵しこれを食料としていることであろう。生木ならたいていのものは食べるとなると,これを退治することは困難を極めるであろうことは容易に推測される。よほどの名案がないと成功しないのではなかろうか。

 私案を一つ。上手く行く保証は全くない。あまり好みではない新彊ポプラをたくさん植えるとともに,ゴマダラの好物の樹種を少しばかり所々にせっせと植裁を繰り返す。好みの食べ物の量が少なければ発生量も抑えることが可能であろう。また,好みの樹種に集中したところを幼虫期にまるまる退治することで,翌年の発生量を抑えることもできる。これで新ポプラの生存率は上がるかもしれない。