ナガバヒメハナカミキリPidonia signiferaの地域変異

ナガバは全国に分布するが,その地域変異については不明な点も多い。

ここでは日本海側と太平洋側における姿の違いを示したい。

また,近縁種と思われるホクリクヒメハナP. jasha ,

ヒスイヒメハナP. tsutsuii

トウホクヒメハナP. michinokuensis

などとナガバとの関係は興味がもたれるところである。

日本海側と太平洋側のナガバ

写真1から4は

新潟県六日町広堀川のナガバ♂表面・腹面と♀の表面・腹面である。

写真5から8は

東京都奥多摩町孫惣谷のナガバ♂表面・腹面と♀の表面・腹面である。

♂を見ると,太平洋側の丹沢と武州武尊山はほぼそろっている。

一方新潟の♂はそれより大きな値で,太平洋側の♀の値と同等である。

♀についても新潟のものは♂ほど顕著ではないが,より大きな値を示すことがわかる。

腿節の色は新潟県広堀川のものは黒化しているが,孫惣谷のものは黒くない。

しかし鞘翅の黒紋は孫惣谷の方が発達している。

腿節と鞘翅との黒化の傾向がクロスしていることは注目に値する。

(太平洋側でも腿節が黒いものも存在する)

特に鞘翅の黒紋である側紋では広堀川のものはLb紋とLm紋はかろうじてつながるが,Lp紋とははっきり分離している。
一方孫惣谷のものは側紋Lb,Lm,Lpの各紋はつながっている。

さらに鞘翅中央のS紋は孫惣谷の方がより太くなっている。

しかし小楯板近くではS紋が極端に狭くなっている。

(太平洋側でもS紋が小楯板の幅と同程度のものも出現する)

広堀川のものは小楯板近くでS紋は狭くなるが,
小楯板の幅とほぼ同程度の幅を有して小楯板とつながっていることがわかる。

腿節と鞘翅の違いを考察すると

黒紋の発達は一般的には身体全体に及ぶと考えて良いのではないだろうか。
この考え方を肯定するなら,上記二地域の黒紋の変化,腿節の黒化は普通ではないと思うのである。

紋の発現スタイルに変化が有るのは,自然界では当然のことであろう。

どこまでが許容されるかはあろうが,環境圧あるいは分布経路の違いによる変異と受け止めることができないわけではない。

しかし,体型の違いは,環境圧などによる近年の変化範囲というよりは,

歴史的変異(時間的に長い間隔離されたこと)を如実に示しているものと考えても良いのではないか。

両地域の個体群は人為的環境変化あるいは個体群の人為的移動が今後ないとすれば,

将来にはかけ離れた種群へと分離独立して行くことを想像する。

二つの地域の個体を見ると体型に違いがあることに気がつく。

肩幅に対する鞘翅中央部の幅

孫惣谷のものは肩幅より翅端に向かい,明瞭に狭くなる。

広堀川のものは肩幅と中央部の幅はさほど変わらない。

日本海側/太平洋側のそれぞれについて

肩幅に対する鞘翅中央部の幅を測長しグラフにしたものを図1に示す。

写真6 東京都奥多摩町孫惣谷♂腹面

写真5 東京都奥多摩町孫惣谷♂表面

写真7 東京都奥多摩町孫惣谷♀表面

写真8 東京都奥多摩町孫惣谷♀腹面

日本海側は新潟と示したが,主に広堀川のものである。

太平洋側の個体は丹沢と武州武尊山のものである。

図の横軸は体長,縦軸は肩幅に対する鞘翅中央部の幅である。
図中の塗りつぶしは♂,塗りつぶされていないマークは♀である。

図1 日本海側と太平洋側のナガバの体型の違い

(体長ごとの鞘翅中央部の幅と肩幅の比)

写真4 新潟県六日町広堀川♀腹面

写真3 新潟県六日町広堀川♀表面

写真1 新潟県六日町広堀川♂表面

写真2 新潟県六日町広堀川♂腹面