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01 うちなーぐちの楽しみ
 以前はあまり出版されていなかった沖縄方言の文法的解説書がこのところ立て続けに出版されている。古くは国立国語研究所の「沖縄語辞典」が出版されたぐらいです。

 沖縄語の入門 西岡敏・仲原穣著 白水社(2000.4)
 うちなーぐち講座(首里のことばのしくみ)
        宮良信詳 沖縄タイムス社(2000.3)
 実践うちなあぐち教本 吉屋松金 南謡出版(1999)
 美しい沖縄の方言(1) 船津好明 沖縄タイムス社(1988)

 実はこの手の方言研究は単語レベルの研究は多く、単語集のような本が数多く出版されています。「○○ことば」であったり「○○弁」などとかかれた本のほとんどは共通語と異なる単語を羅列しています。では動詞や語尾がどう変化し、どのような意味を持つのか、発音の特徴はどうなっているのかなどを詳しく捉えた本、すなわち方言文法をまとめたものは「ケセン語入門」ぐらいでしょうか。(特殊な研究書は除く)
 沖縄の方言についてもしかり。ようやく方言文法というかたちで買いやすく、読みやすい本が出版されるようになたのはうれしいかぎりです。
 「美しい沖縄の方言(1)」の著者は沖縄生まれではないものの沖縄をこよなく愛し、この本は文法としてまとめようとした数少ない本でした。(2)以降が出てないような気がするがどうなのでしょうか。
 このての方言文法の問題は、表記法でしょう。あくまで口語であるので表記法は確定していません。それぞれ聞こえたように記載するのですが、「美しい沖縄の方言(1)」のように独自の文字を開発するというのはある意味では興味深いことであります。また「沖縄語辞典」のローマ字表記はひとつの指針になるのかもしれません。
 また別の問題として、方言の標準化が行われていないときにどの方言を表記するかということでしょう。なかなか難しいものです。
02 うちなーぐち事情
 沖縄を訪れると気づくのですが、ラジオなどで沖縄方言のコマーシャルが流れたり、時には沖縄方言だけの番組もあります。琉球放送ラジオ沖縄の番組表をインターネットで見てみるだけでもそのタイトルに方言が使われているものを見つけることができます。
 そもそも沖縄方言は島が多いと言う関係で例えば八重山と沖縄本島ではかなりの違いが出てきます。以前新民謡を紹介する「みいうたでーびる」という番組を聞いていたところ、アナウンサーが歌詞紹介のときにでつっかえつっかえ読んだ後で「八重山の言葉なのでよく分からない」と沖縄方言で言っていました。沖縄の人が分からんようじゃ本土の人間にはどないせいと言うのだろうか。
 国立国語研究所が「沖縄語」と言う表記を使っていましたが、もしこの方言を独立した別の言語とみなすと、日本語と親縁関係が証明できる唯一の言語と言えるでしょう。独立の言語か方言かは言語の特徴ではなく政治的な線引きなので、その考え方が正当かどうかは分かりません。世界言語概説と言う本のには琉球語として日本語とは別の項目を立てて解説しています。
03 うちなーぐちとやまとぅぐち
  「うちなーぐち」と本土の言葉である「やまとぅぐち」と比べてみると確かに興味深い点がいくつかあります。うちなーぐちの特徴のひとつは声門閉鎖でしょうか。母音で始まる単語の先頭には声門閉鎖が存在しています。声門閉鎖というのは喉を一瞬緊張させて声門を閉めることで、その後で閉めた声門を一気に開放して母音を発音します。驚いたときの「うあー」という最初に若干それに近い状態になることがあります。この現象は実はハワイ語にもあって、一種の子音の役割を果たしています。 ハワイ語が出てきたついでにうちなーぐちは原則として母音は3個、「あ、い、う」ですがハワイ語やアラビア語なども似たように主に3個の母音からなっています。「うちなーぐち」「やまとぅぐち」という単語を見てもそうですし、「はいさい」もそうですね。母音が少ないのはいくつかの母音が同化したせいでしょうか。やまとぅぐちの「え、お」はそれぞれ「い、う」になります。長音では「えー」「おー」が現れますが、短母音としては出てこないようです。
 「ちゅらさん」というドラマが放送されていましたが、「ちゅらさん」とは「美しい」という意味で、形容詞の終止形です。うちなーぐちの形容詞は基本的に「〜さん」がついています。これは「さ(存在)、ん」で「ん」の語源は詳しくはわかっていません。「む」のなごりだとか、「もの」が変わったものだとか言われています。「ちゅらあ」とは「美しいもの、美しさ」ですから「美しさある」といった感じでしょうか。
「ちゅうや、ちゅらさぬ、やまぬぶてぃみぶしゃ…、今日は天気が良いので山に登ってみると…」
 やまとぅぐちの「き」の音が「ち」になることがあります。「きもち」は「ちむん」、「きょう」は「ちゅう」。いわゆる口蓋音化です。この現象は多くの言語でも見ることができますが、うちなーぐちでも出てくるわけです。「ペイキン」と発音していた「北京」という地名の音は今では「ペイチン」とやはり「キ」が「チ」になっていますね。