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01 出会い
 マルタ語があるということを知ったのは、Teach Yourselfシリーズにマルタ語という本があったからで、20年ほど前にその本を買って読み始めたことでした。とても不思議な言葉に惹かれて、いつかはマルタに行ってみたいと思ったのでした。
 マルタはいったいどこにあるのだろうという方もいらっしゃるでしょう。マルタ共和国はイタリアのシチリア島、地図で言うとイタリアの長靴の先に三角の島がありますが、そこからさらに南にある小さな小さな、淡路島よりも小さい島国です。首都はバレッタ、人口35万人ほど。マルタ(Malta)島、アウデシュ(Ghawdex)(ゴゾ(Gozo))島、ケムーナ(Kemmuna)(コミノ(Komino))島の大体この3つの島から成っています。
02 どんな言葉か
 イタリアにも近く、地中海に浮かぶ島なので言語状況はいったいどんなものだろうと考える方が多いでしょう。マルタの公用語はマルタ語と英語です。
 そのマルタ語というは、基本的にはアラビア語のマグレブ方言(西方言)のひとつといえますが、現在はひとつの独立した言語として扱われています。アフロ・アジア語族(旧セム・ハム語族)のなかで唯一ラテン系の文字を持つ言葉というのがひとつの特徴です。アラビア語のような語彙をラテン文字で書き綴ると言うのはとても興味深い ところです。それゆえの正書法、語形変化の複雑さがあると言えます。アラビア語などにある3つの子音が基本になって変化していくといった点や、いわゆる太陽文字の前の定冠詞が同化するなどの点がアラビア語などとの共通点を伝えています。
 もうひとつの特徴はイタリア語、特にシチリア方言から入った大量の語彙は3割近くにも達していて、現代の物事、道具の名前などではおびただしい数のネオロマンス語系の単語が流入していて、ちょっと聞くとイタリア語のような単語が頻繁に聞こえ、街の看板や案内に書かれたマルタ語はなんとなくわかるようなところが面白いといえます。
 
03 マルタ語の文字の楽しみ
 マルタ語のアルファベットのなかでいくつか特別なものがあります。

 特に面白いのは「H」に横線が入ったものとこの文字に「G」を前置した文字でしょうか。特に2文字で1字扱いの文字は語源的に重要であるにもかかわらず 基本的に発音しないか前の母音を長音にするというのがトルコ語の「G」の上に帽子が載った文字を思い出します。トルコ語のほうの文字も長音にするだけで読みませんね。因みにゴゾ島のマルタ語名であるアウデシュ(Ghawdex)の最初の2文字はまさにこの組み合わせ文字ですので読まないのです。おまけにこの文字は時に完全に落ちてアポストロフィーで書くことがあります。
  それ以外は軟音をあらわす点がついています。点のない「C」はありません。「G」は「グ」という硬音、「Z」が「ツ」というイタリア語からの借用語でのみ使う文字。そのため点のある方はなぜか「ズ」と言う音になります。
「H」に横棒のついた文字は帯気音です。一方の普通の「H」は読まないところがイタリア語的です。
  もうひとつ特徴ある音は「Q」でいかにもアラビア語といった声門閉鎖音です。国際空港の名前が「Luqa」で「ルカ」から来ているのでしょうがマルタ語で読むと「ルッア」となるのです。
  さらに「X」はポルトガル語などのように「シュ」と言う音になります。なぜGhawdexをアウデシュと読むのがこれでお分かりいただけるかと思います。
「J」は半子音でヤ行の子音部分で「ジュ」とは読みません。「ジュ」は点のある「G」ですね。
  実際の例を見て見ましょう。これはアウデシュ島とマルタ本島を結ぶフェリーのラウンジ内の書かれていた表示で、幸い英語とマルタ語の両方が書かれています。
  ご覧のように、「H」に横棒についた文字や、「Z」の上に点がついた文字が見えますね。ハイフンが正書法に重要な役割を果たしていることも実は重要な特徴といえます。