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042 筆談の落とし穴

 中国の生んだ偉大な国際文字、「漢字」。日本や朝鮮半島にも広がり、読み方は違っても漢字と言う架け橋で意思の疎通が出来る、そんな期待があります。

 漢字は中国から朝鮮半島に伝播し日本に伝播してそれぞれの国で自国の文化の一つに取り込んで育ててきました。その結果最初は小さかったであろう違いが広がりました。一つ一つの漢字の意味も微妙な違いが現れたのはまだしも、熟語にいたってはそれぞれの国の独自のものが誕生しました。

 日本の場合明治時代に西周氏ら漢籍に通じた人々が西洋の事物を取り入れる際に漢字を使って造語をしていきました。これらの造語は本国の中国に逆輸入されたり朝鮮語に取り入れられたりと影響力は大きなものでした。中国台湾などで西洋の事物を積極的に訳し造語しているのと同じような状態でした。しかし全てが共有されたわけではありません。

 訳すだけでない造語もあります。中国の「結束」。ラジオ番組表の終了のところにこの単語が使われています。日本語では「結束する」としか使いませんよね。朝鮮語で「門団束」とは「戸締り」、「未安」は「すまないという気持ち」「人事」は「あいさつ」などなど。

 筆談と言う手段があります。中国や韓国で言葉がわからなくても筆談で通じると言う可能性が漢字にはあります。ところがそれぞれの国で育ててきたものが一体どれがどれなのかは解らないことが多く、反対の意味を伝えてしまったり誤解を生じたりという危険も含んでいます。それだけではありません。中国にいたっては簡体字と呼ばれる独自の略字が壁になり、日本の若い世代には韓国や台湾で使用しているいわゆる旧字体がわからずこちらも壁になります。筆談すれば大丈夫なんて思っているととんだところで落とし穴に落ちる危険があるのです。 

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