デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年9月9日放送
#9「脳波妖獣ゴンドローマ」
演出・鈴木 実 脚本・高久 進(クレジットは辻 真先) 作画監督・白土 武 美術監督・横井三郎

ミキ「え?なんて言ったの?」

「お前の力を借りたい」「そのお言葉、一日千秋の思いで待って おりましたぞ」あらゆる動物の脳波を自由自在にコントロールする妖獣・ゴンド ローマが次なる刺客。彼の使命は動物に反乱を起こさせ、人間界をパニックに 陥れること。更にデビルマンの脳波も狂わせ、デーモン界に引き戻そうというのだ。

何か動物を飼おうとペットショップに現れるタレちゃん。その様子を伺っていた ゴンドローマは、自らの分身をハツカネズミに乗り移らせ、タレちゃんに連れて 帰らせた。

牧村夫人は捨てて来いと言うが、情操教育にいいと、牧村博士。おまけに ミキまでがかわいいと言い出し、明は今一つ面白くない。だがその夜、ネズミは ゴンドローマの指令を受け、殺意を持ってタレちゃんに襲いかかる。駆けつけた 明はそのネズミを殺す。ネズミの殺意を信じないミキは「野蛮人!」と明をなじる のだった。

翌日、ミキからこの事件を聞いた氷村は、明に嫉妬させ戦いを挑もうと、黒ネコ をミキに贈る。この黒ネコもしかし、ゴンドローマに操られているのだ。 そして夜…豹変した黒ネコの爪がミキの腕を掻き切る。明はミキを助け、逃げ出 した黒ネコを追い、街外れの廃ビルへ。ネコを倒した明の前にゴンドローマが出現、 デビルマンを自分の魔力で地獄の使者に仕立て上げる!と高らかに宣言して消える。 明を野蛮人呼ばわりしたことを、謝るミキ。だが明が気にかかるのは、ゴンドロ ーマが動き出す時である。

そして時はきた。ゴンドローマの分身はあらゆる動物に乗り移る。ペットショップ では店主がペットたちに襲われ、下水道ではネズミが群れなし、カラスが遊ぶ親子 連れに襲いかかる。ついに街には外出禁止令が引かれた。

「ゴンドローマを倒すしかねえ!」ミキたちが止めるのも聞かず、もう一度 街外れのビルに向かう明。だが一瞬の油断でゴンドローマの罠に掛かり、 拘束され、ゴンドローマの催眠光線が浴びせられる。明は、落ちていたガラス 片で自ら足を傷つけ、痛みに耐えながら意思を保つ。

催眠に掛かる振りをした明に騙され、現れたゴンドローマ。そこで明は デビルマンに変身、ゴンドローマを倒すのだった。戦い終わった明の足に すりよって甘える犬。街は救われたのだ。

1972年って、ミュンヘンオリンピックの年なんですね。で、このオリンピックで 語り草になった事件てのが、9月に厳戒な警備を潜り抜けて侵入したパレスチナゲリラ による選手村の爆破事件。日本を脱出し、ゲリラ・テロ活動に身を投じた重信房子 (2000年に帰国)がテレビ番組に登場し話題をまいたり、時折日本でも活動家が 電車を止めたり、と人々の身近な「不安」は戦争よりも「テロ」といった雰囲気が 醸成されだした頃。

選手村爆破事件はちょうどこの回と相前後した時期に起こっていて、直接のモデル ではないけれど、『デビルマン』のデーモン族が仕掛けてくる恐怖の正体って、 そういう感じがする。これ、『マジンガーZ』は一回の狂気の科学者の意思とはいえ、 大量破壊を仕掛けてくる「戦争」を採り上げていることと比較すると際立つと思う んだけど。いつの間にか日常に忍び込み、ある日「時が来た!」とばかりにいっせい に我々に牙を向いてくる感覚。

特にこの回は、ゴンドローマ自身腕を組んで立っているばかりで、 分身を世にはびこらせ、実際の活動を行わせるというデーモンである。 襲いかかってくるのは操られた動物達で、人々は殺されるまで相手の姿も目的も 知らないままなのである。感じるのは明確な「悪意」のみという。2001年9月11日 のテロでテレビを見ながら受けたショックてのも多分、コレに近いカンジですわな。

ゴンドローマの「催眠」。

「ゴンドローマ」て名前はおそらく「コントロール+魔」から来てるんだろう。 英語系というよりラテン系の不思議な語感が印象に残りますな。 で、「あらゆる動物の脳波を操る」っていう能力の持ち主なのだが、作品を 見る限り、2種類の能力を使い分けている。

一つは、指をポキン、ポキンと折り、投げるとその指がミニゴンドローマに なって、動物たちに乗り移り、意のままに操るってもの。やだなあ、この気軽に ポッキンてやる絵面が、乾いたカンジで痛そう。Aパートでは小指だけを 折って、ハツカネズミと黒ネコを操っていたが、Bパートでは人差し指から小指 までを一気にもぎ取り、盛大にばら撒いていた。後はミニゴンちゃんが思い思い に乗り移ってるようなので、個別にも多少の意思はあるようだ。

もう一つは、催眠光線。浴びたものはあたり一面真っ白に包まれ、じわりじわりと 意思を奪われる、という光線だ。これはクライマックスでデビルマンを操ろうと いう時にしか使っていない。普通の動物よりも知的な動物であるデーモン族には、 指ポッキンでは利かないということなのだろうか?人間に対しては今回一切能力を 振るってないので分からないけども。

辻氏の回想によると、ダイナミック側から送られたデーモンのラフスケッチを 見ながら、能力やらプロットやらを考えていったようだが、これも肥大した 脳ミソを持つ化け物ってのが高久氏のポイントになったのだろう。「催眠」 と言っているものの、当時は一般的でなかった「洗脳」て言葉の方が、現代の 気分には合致するかな。

さてそこで、この能力を使った今回の企みってのが、動物を操り人間どもに パニックを起こさせるというもの。コトのついでにデビルマンも操り、 更なる恐怖を人間たちに与えるという。…んなまどろっこしいコトしないで、 ガンガン喰い殺していけばいいじゃん、てのは浅はかなんで、「人間どもに 恐怖を」というのがデーモン族の基本。ヤツラ、ただ殺すだけじゃ物足りない ワケだな、知的生物だから。

そういう能力のお陰か、ゴンドローマ自身はデビルマンの洗脳に成功だ!と まんまと騙された後は、デビルカッターで切り刻まれ、デビルアロー であっさりと、ホントにあっさりとトドメを刺されている。

また、明は「すると、操っていたのはお前か!」と聞いており、ゴンドローマ の存在はどうも知らなかったようである。前回のイヤモンでは、人間体に化け ていたにも関わらず、目の光で気付いたデビルマンだったが。ゼノンが「お前 の力を借りたいとあえて言うところを見ると、別の指揮系統に属する 妖獣なのかも知れない。ザンニンさま出てこないし。

映像上の注目点としては…

絵柄の好き嫌いはあるだろうが、怒涛の鈴木実攻撃の最中、割と一貫してて 破綻の無いレベル。(いや元々パースが大アマだとか、線が勢い余ってる とか、白土作監回の特徴をあげつらってもしょうがないさね)壁や物陰に じわーっと影が浮かび上がり、実体を現すという、ゴンドローマを何とか 描こうとしている。

で、案外見逃せないのが、ミキの表情。コレ、個人的には友永和秀さんの功績 なんじゃないかと思ってるのだが、実に生き生きと描かれている。特にAパート 中盤の氷村との絡みとか、ソレを受けた明とのやり取りとか、顔だけじゃなくて 仕草もいいカンジ。

果たして、アフレコの際に絵が間に合っていたのかどうかは分からないが、 坂井すみ江氏の演技も、より自然ぽさを出しているというか。氷村お得意の 歯が浮くような褒め言葉「キミがそうしていると、まるでルネサンス時代の 名画のようだぜ…」にぷっと吹き出すところとか、何で黒ネコをプレゼント? といぶかしむ明に「アタシが好きだって言ったわ…フフッ」と語尾が言い切れず 笑いにつながるような話し方とか、ぽっと出では出来ないような「巧さ」がある。

ところで、白土氏の絵柄には「ほおっておくとガシガシタッチを入れ始める」 というクセがあるようですなあ。氷村と対峙する時もそうですが、ラストカット の朝の光を浴びる明の顔の濃ゆいこと濃ゆいこと。いや、こういう個性的な暴走 、個人的には好きです。

脚本上では…

『デビルマン解体新書』で赤星政尚氏も触れていたが、高久進氏らしい 時代がかったセリフは確かに印象的。しかしまあ必ずしも高久氏のお得意 ではなくて、辻氏によるマーメイムの口上なんて見てると、文語調の方が 敵の組織としちゃ雰囲気であったてのもあるんだろう。

で、辻氏でない回の明が「いいひと」みたいなことを言われたりするようだが、 それ案外そうでもなくて、この回でも、ミキとの絡みで色々やってくれている。 ネズミを殺した後のミキとの口論で拗ねてしまったり、ミキが黒ネコの攻撃から逃げて 明の胸に飛び込んできた時に、「へへ、いい気持ちだ、こりゃ」なんてこと ノンキに言わせてみたりして、正面きってヒーローでござい、なキャラクター ではないことは充分強調されている。

氷村が連れてきた黒ネコがミキを襲った…てところで、明は氷村を学校の 裏山(だろう、最初ににも決闘した)に呼び出し、真意を問う。この時も 明と対決したくてしょうがない氷村の挑発「不動、牧村ミキはオレに惚れ てるぜ」なんてセリフに乗らず、ぐっとこらえて「ちきしょう!今ぁ、そ れどころじゃねーぜ!」なんて駆け出している。もう氷村殴り倒したくて しょうがないのだろうが、こらえている辺り、高久氏なりの明なのだろうか、と。

おいおいおいおい、明クン!と突っ込みたくなるのが、テレビでパニックを 目にした時に叫んだ一言。

明  「(立ち上がり)よしっ!」
ミキ 「どうしたの?」
明  「陰で操っているゴンドローマを倒さない限り、事件は解決しないんだ!」
ミキ 「え?何て言ったの?」

明クン、明クン、バレるよ!(笑)最後にゃ明クン、「脳波怪獣」とか 呼んでるが…。

ところで…

デーモン族と視聴者にバレている氷村だが、各回の行動を見ていると、 「デビルマン」に勝ちたいのか、「不動明」に勝ちたいのか、動機がイマイチ 見えませんな。コレはもう一ファンとしての妄想ではあるが、氷村自身 なんだか人間界に馴染んでミキ使って明にケンカ売るコトが自己目的化 してるんじゃないか、と。ゼノン様に怒られるぞ。メリケン使わんでも 、アンタには立派な牙と爪があるだろうに。

ドタバタを巡るメモ(その1)。
氷村の黒ネコプレゼントを受けて、ミキちゃん、ちゅ。ソレを見ていた ポチとアルフォンヌ教師としてでなく男としてショック。

ポチ・アル 「見たノダ!」
アル    「夢(ゆーめー)か現(うーつつー)か幻(まーぼろし)かぁ?
       本校随一の美人・ミキちゃんがセーップンしたノダ!」

なんてショック受けながら、ポチはいきなり T定規でアルフォンヌにセッカン喰らわせようとするのだが、この時の 攻撃方法が、後でデビルマンに十字型の廃材を喰らわすゴンドローマと同じ。 どうもこいつら同レベルのようだ。

ドタバタを巡るメモ(その2)。
タレちゃんが訪れた店には、金魚やエンジェルフィッシュ、亀、カニ、小鳥 の他、小さいワニがいた。ワニだよな、アレ。その中で、「二十日ネズミ」 の札が付いたカゴ見て「わーかわいい」とタレちゃん向かうのだが、 ネズミが妙にリアルに描かれている分、にわかに賛同は出来んぞ。

さて、哀れなペット店主を襲った動物は、サルとインコ。一度にトドメを 刺してもらえなさそうなこの組み合わせで、じわじわとやられた 店主に合掌。


[デビルマンTOP]

[TOP]