デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年9月2日放送
#8「イヤモンとバウウ」
演出・鈴木 実(笠井由勝) 脚本・辻 真先 作画監督・中村一夫 美術監督・福本智雄

番 長介「ホントは、うらやましいんダワ」

少女デーモン・イヤモンにゼノンの出撃命令が下る。 兄・バウウに誇らしげに報告し、人間界へ。狙いはミキの殺害・そして 気落ちするであろうデビルマンの死。

学校へ向かう途中、ミキはふと通り過ぎた電話ボックスに視線を 感じるが…何もいない。しかし、確かに視線は感じる。光るその目はイヤモン。

ミキが教室に着くと、見知らぬ女生徒がいた。傍らの男生徒に尋ねると「前から いた」という。釈然としないミキだが、少女の目が妖しく光ると、疑問を忘れて しまう。先生も少女の催眠に落とされ、時が止まったような教室。その天井から ミキの首に伸びるは、イヤモンの舌だ。その能力は人の精気を吸い取ることだった。 が、学園のベルが故障し鳴り響く。我に返った教室で舌打ちをするイヤモン。

ミキに異変が起こっていた。明は無理矢理医者を連れてくるが、元気がないだ けで、身体に異状はないという。翌日も無理を押して、明に抱えられながら学校 へ行くミキ。明はそこで、あの少女に違和感を覚える。見覚えのある「目」。

一旦は自分の教室に戻った明だったが、記憶をたどり思い出す。人の精気を吸い 取るデーモン・イヤモンだ。明が教室に向かうと、そこにはまさにミキを襲う イヤモンがいた。変身する明。ちょろちょろと逃げ回るイヤモンに振り回される デビルマン。だが、じりじりと追い詰めていく。廃工場で、ついに動きを止めるが、 イヤモンは遠くヒマラヤの兄・バウウを呼ぶ。

デビルマンに針金で縛り上げられ、クレーンに吊られるイヤモン。デビルマンは ミキを元に戻す方法を聞き出すため、ムチで拷問にかける。イヤモン は苦しみながらも、憎まれ口を叩く。「トドメを刺せなかったのは残念だけど… ほっておいても、あと一週間!」怒るデビルマンは更にイヤモンにムチを振るうが。

そこへバウウが出現、デビルマンとの戦いへ。頭のムチでデビルマンを拘束、 イヤモンと同じ精気を吸い取る舌を向けるが、デビルマンは何とか逃れ バウウを切り刻み、焼き殺す。 怒るイヤモンは再度デビルマンに挑むが、デビルビームに焼き殺される。しかし、 これでミキを元に戻す方法は分からなくなった…のか?

教室に戻ると、イヤモンの魔力が解け、元気なミキの姿があった。大喜びする明。

今回は女デーモンの中でも「萌え度」の高さでは1、2を争うイヤモン登場。 声は我らがしずちゃん&ワカメちゃん(どっちも2代目だけど)、野村道子だ! そのせいだかなんだか、陰惨なストーリーの割には、緊張感がイマイチない という気はする。絵作り自体はいいんですよ、ロングバージョンのエンディ ングに使われてますしね。(稲妻光る学校〜天井ぶち破るまで)

加えて今回は小ネタが多いなあ、というのが感想。
●一番謎なのが、冒頭スズメを棒でいじめるタレちゃん。何でこのシーンがあるの?
…ま、必要以上に読み込むと、人間だって自分より弱いやつにはこういう振舞いするんだよ、 という辻真先の人間ダメダメ節、の一環とも取れなくはない。イヤモンが見てる前だし。
●ミキの教室に来るのが、『学園番外地』(1969〜71)の主人公・番長介
●番長介を襲う生徒のワナ。入り口のぶっといビン〜教壇傍のバケツ〜足で引っ掛けた 紐にはパチンコが繋がり、卵を飛ばす〜とトラップをかわすが、最後に足元のネズミ捕り につかまる。
●明が夜中拉致してくる医者。ミキに異常がないので苦し紛れに「そういえば、右足に 水虫が…」ミキちゃん、手遅れになる前にちゃんと治療しましょうね♪
●その医者に明がのろける。
明 「コトと次第によっちゃテメエ、タダじゃおかないからな!」
医者「どこも異状が見当たらないのヨ、キミ」
明 「この顔が異状がないって顔かよ!普段のミキはな、目は星みたいに光ってさ、 ほっぺたはリンゴで、喰いつきたいほどの美人だぞォ、どうしてくれるんだいっ!」

イヤハヤ…。
●ミキの教室で変身するデビルマン。校長室から見てると、そこへ雷が落ちるように 見えるんですね。そこでポチが「どういうワケかこのところ、毎週一ペン雷が」と。
●しかもわざわざ校長室の机に蚊帳を張ってるという小ネタ。

さて、ストーリーの本線はどうかというと、

構造自体を大雑把に言えば「それぞれ守るものがいるもの同士がガチンコ」なワケだ。 デビルマンとバウウが「守るもの」はミキとイヤモン、というわけだが、ここで 辻真先流のうまい捻りが、「守るもの」であるはずのイヤモンが、自分は「守っている」 つもりでいるというところ。なので、弱いクセに先に攻撃してくるんですね。 で、バウウはイヤモンの要請がない限り、自分では動かない。

残念なのが、積極的に出て来ないそのバウウの愚鈍さ(いや、実際の戦い振り 見てるとそう愚鈍でもないのだけど)というか、自分の意志のなさが、ストーリ ーにアクティブさの面で負荷を掛けてるんじゃないか、というところ。小山の ようなデザインも多分にはあると思うけども。

もう一つはオチ。戦いの結果としてのオチというよりは、解決投げ出してしまった、 の感がする。ただこれは『デビルマン解体新書』にあるように、脚本上は怒りが暴 走するあまり、うっかりイヤモンを焼き殺してしまったデビルマンに、いまわの際 でイヤモンが、「あたしが死ねば元に戻る」と呟くということで納得。

更に「あたいが好きな兄ちゃんのため、戦ったみたいに、こいつも好きな人間 のため、戦ったんだもの」と言って絶命。最期までイヤモンは自分の役回りを 勘違いしながら、しかしデビルマンへ共感して終わる。映像上では最期まで憎まれ口 叩いて、デビルマンはおろか視聴者まで騙して終わるラストになってるんだな、コレが。 ま、イヤモンをいつもの極悪非道なデーモンにしておいて、ラスト「ミキはどうなった のか?」というサスペンスを残して引っ張るという 作法に絞った意図も分かるんだが、これは失敗でしょう。残念。

映像上の注目点としては…

4話以来の中村一夫・荒木伸吾の登板。冒頭の 電話ボックスを通り過ぎるミキとタレちゃんの動きを追うカメラの動き。 このためにわざわざ左奥パースの絵と右奥パースの絵をつなぎ、そのつなぎ目に 電話ボックスを配するという手法。これでミキは視聴者とともに電話ボックスに 「視線」を意識し、違和感を覚えるのだ。

それと、強い光をセル裏から当てて飛ばしてしまう透過光が4話に続き今回も 見られる。つーと、これは中村さんか荒木さんの手法なんですな。

何よりも強烈なのは、ムチで拷問するデビルマンとイヤモンの「片乳」であろう。 明らかにやり過ぎである。さすがドリフの裏だ、やりたい放題。今回、精気を吸 い取られたミキを元に戻す方法がデビルマンにはさっぱり分からないワケで、 イヤモンをいつものデーモンのように殺すわけには行かない。

といってデビルマンは「落としのヤマさん」みたいにじっくり問い詰めたり カツ丼頼んだりできるキャラではなく、所詮こないだまで人間界を暴力で 征服してやろうなどと考えていた不届き者である。イライラを押さえられず 針金(シナリオにそう書いてある)でいたいけなちびっこ妖獣を縛り上げ、 どっから持ってきたんだか、ムチでシバキ倒すのである。

でもって、苦痛にあえぐイヤモン。荒木さんでしょーか、ここは。

大体、人間体・岩見モコの時から「野性味溢れる美人」「情熱的瞳の持ち主」(番長介・談) として描かれ、デーモン体でもスクール水着着たようなデザインだ。これが 緊縛の上、ムチで叩かれ、胸元が片っぽはだけちゃったりする。わざわざ 胸元へのアップが入るという熱の入りようである。コレに先立つ「テレビの 良識で隠されたデーモン」としては2話のシレーヌがいるが、今回はその 「隠されている」コトを逆手にとってしまっているところが凄いぞ。

1972年という時期において 乳首がキチンと描かれたキャラは、前年の『ルパン三世』第1話「ルパンは燃えているか…!」 にてくすぐりマシン上で悶え苦しむ峰不二子に続いて、イヤモンくらいだろう。 (>他に知ってる人が居たら教えてください)

東映のお色気テレビ映画『プレイガール』もシナリオ上の必然より、番組の 売りとして拉致され危機に陥る女、という表現を選んでいたわけだが、 このイヤモンもそういう意図があったのは確実だろうて、うんうん。 これって辻真先始め、スタッフの指向が、単純にお子様に向いていなかったどころか、 その上の層まで見越したということなのだろうか。

さて、今回も演出はロックアウトの救世主・鈴木実サン。全体に破綻が少ない 作りながら、おそらくココはどうにもならなかったかな…と思われるのが、 番長介を洗脳し、教室が異様な空気に包まれるところ。
●岩見モコの目が怪しく光り、
●教室の時が止まったかのようになり…
●無表情なミキの首に絡みつく何か〜パンアップ
●それは天井から伸びた、イヤモンの舌だ

…という流れなのだが、異様な教室に繋がるカットがどうしても足りない、 の感アリ。

ココで例えば、一発岩見モコの目が光り、そのシルエットが形を変え、 教室の生徒の目は空ろでそれに気付かない…という幾つかを挟めば、精気を 吸われるミキに繋がるのだが。絵コンテがその表現にたどり着くまで間に合 わなかったか。それとも、何らかの不都合があって、その「繋ぐカット」が 発注されなかったのか。いずれにしてもこの回では、唯一あからさまに破綻 が目立っている。


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