デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年8月19日放送
#6「ロクフェルの首」
演出・新田義方 脚本・辻 真先 作画監督・森 利夫 美術監督・遠藤重義

明「俺がやりてえコト、よくも先にやりやがったな!」

魔王ゼノンの次なる尖兵は、誇り高き妖人ロクフェル。 ロクフェルは、ザンニンの指揮下になる事を嫌い、自らの判断で人間界へ。 夕闇のガード下で酔っ払い、靴磨き、屋台…とご自慢の炎で焼き払う。

牧村研究所では、牧村博士が発掘した江戸時代の少女を頭蓋骨から 復顔する、という記者会見が行われていた。その記者たちの中に、見慣れない 顔を見つけた牧村博士は、なじみの記者に確認するが、見ていないと言われる。

翌日、名門学園ではサッカー中。反則をしたしないで言い争う、明と氷村。 氷村がケンカをけしかけ、明も乗りそう になるが、ミキの平手が明に飛び、そのまま明は拗ねて学校を飛び出す。

牧村家、夜。牧村博士は電話で助手・山口と作業の打ち合わせをしている。 そこへミキが相談に来る。飛び出したままの明を気遣う二人。一方、山口 は牧村の指示を受け、作業を再開しようとしていた。 だが、目を離した隙に、頭蓋骨にロクフェルが乗り移る。頭蓋骨は、 復顔用の煮えたぎったロウを満たしたタライに飛び込み、人の形に。 ロクフェルは、山口に熱いロウを頭からかけ、研究所を後にする。

不安に駆られ、研究所へ高速道路を飛ばす牧村の車載電話が鳴る。重傷の 山口からの電話だ。「首が逃げました!」「そんなバカな!」しかし、 牧村博士の目の前には、江戸時代の少女の顔を持った、巨大なろくろ首の 化け物・ロクフェルが現れ、道路を、クルマを、人々を紅蓮の炎で焼いて 行くのだった。そこへデビルマンが登場、ロクフェルは一時退散する。 デビルマンを侮っていたと言うロクフェルを、罰するザンニン。

名門学園では、今度は野球大会。バカバカしいと思いつつも、ミキの応援で ホームランを打つ明。意気揚揚としていたところへ、次のバッター・氷村が バットの折れた事故に見せかけ、明の左腕を傷つける。

牧村家で傷の手当てを受ける明。テレビでは野球中継を放送している。 その画面に現れるロクフェル。ライトがなぎ倒され、逃げ惑う人々。 その中には、ミキとタレちゃんがいるのだ!

野球場。物陰に隠れ、震えるミキとタレちゃん。恐怖の余り泣き声を上げるタレ ちゃんに気付き、ロクフェルが迫る!そこへデビルマン登場。「俺は名誉のため に貴様を倒す!」と宣言するロクフェル。地面へ消える能力を使い、デビルマン を引き込もうとする。苦痛に顔がゆがむデビルマンの目にミキの振るえる姿が。 「このままではミキに会えなくなってしまう!」全身全霊のデビルビームが放たれ 、ロクフェルの「名誉」はデビルマンの「愛」の前に敗れ去る。

テレビシリーズアニメと言えば、何はともあれ季節ネタ。前回のゾルドバに続き、 今回はよりグレードアップしたゴシック・ホラーのツボを心得た演出で、夏休みに 肝試し、視聴者のガキをちびらせてやろうという名編。なにしろ、ろくろっ首とい う怪談の定番だしな。

一番の功績は、2002年に惜しまれつつ亡くなった、名優・ はせさん治氏の怪演だ。今の30代以上には説明不要な独特の役者さん。『一休さん』 の珍念さんしかり、『魔女っ子メグちゃん』のチョーサンしかり、「主人公に対して 意地悪くいきたいのだが、どこか憎めない」人懐っこさがあるキャラを演じさせたら 天下一品の人である。そんなはせ氏だから、見る方は正直こういう演技をそもそも 期待しないで見ているのだが!だが!だが!そこには「初めて聞く抑制されたはせさ ん治」が。聞いたことのないオリジナリティが圧倒的な存在感を示している。 徹頭徹尾声高に叫ばず、喉を詰めた喋りで鬱屈したプライドの塊を演じている。

ちなみにはせさんらしい喋りを聞きたければ、同じ『デビルマン』の最終回ラスト の名調子がお勧め。

続いて、「恐怖」の演出面。

もうこの話は、セリフとか絵の怖さ以上に、「抑制」「間」が命みたいな回。 その肝を司った演出・新田義方氏(『タイガーマスク』『ゲゲゲの鬼太郎』)が この回だけなのが残念。辻 真先氏の脚本も、それまでの話に比べ、ディテールの書き込みや 精神的な追い込みに力が注がれている雰囲気だ。怖さの追い詰め方というのが堂に入っている。

まずはロクフェルが人間界へ現れる手段。

夕焼けの煉瓦造りのガード下。差し詰め新橋駅か…?うらぶれた風情の中、おみやを 持った酔っ払いがご機嫌で歩いてくる。千鳥足がふらふら、ふらふら…ソレを見ている 靴磨き。ここでの靴磨きという使い方が絶妙。彼は普段人の足元を見ている商売なワケで、 酔っ払いの千鳥足がふと、歩みを止めたことに気付くのだ。靴磨きが見た足元。 夕日と煉瓦で赤く彩られた風景に、そこだけは違う奇妙な色の腕が地面から生え、 酔っ払いの足首を掴んでいる。腕は、そのまま酔っ払いを振り回し、高架の電線へ 投げつける。感電。地面から腕が伸び、土人形のような人が浮かび、それが不気味な 青年に。「目障りだ…」と誰に言うでなくつぶやき、靴磨きを、震え上がる屋台のオヤジと 客を炎で焼き払う。

普段の『デビルマン』なら、ここで事件を報じるテレビでも見ている明、と なるところだが、この回はそうではない。救急車が赤色灯を回しながら、 街を抜ける。続いて巨大な夕日をバックに、歩く小さな人影・ロクフェルがつぶやいている。

ロクフェル「ザンニンが何だ、デビルマンならヤツの指示がなくとも、 俺一人で充分だ…」

ロクフェルは、人間界を震え上がらせることや、裏切り者を粛清するような暴力 を振るうことに悦びを覚えるタイプの他のデーモン族とは一線を画している。 一言で言えば、「プライドを満足させることに欲望を覚える」タイプである。 だから圧倒的な強者として振舞えなければ、戦う意味がないと言えよう。 なんか頭の中「俺」だけで、全く理性的な言葉が通じないヒトって感じですか。

加えて、一種キチガイじみた「赤」に彩られたこのシーン一連が、うまくその 辺りを倍加している。

「怖がらせ」は更に。

いきなりドクロである。といっても物の怪の類でなく、 牧村博士の研究材料。ドクロ囲んで記者と懇談てのがプロフェッショナルな感じ ですな。クールに扱いつつもどこかやっぱり、ヒトの死体の一部なワケで、 なんか怖い雰囲気、てのを見ているほうは感じるわけ。いわば「ホラーもの見てる」 感の醸成がここの眼目。大体学校では「理科準備室」てんですか? 実験用品置き場というのは気色悪いわけで。人体標本こそないものの、猿人の復元 標本なんてのもあり、見ている子供には、もう学校のあの準備室の風景が脳裏にアリアリと 浮かんでる、ていう効果。

ここでの脚本上の仕掛けと言うのがまた、うまく効いてて、いつものメンツで いつもの調子で懇談…のはずだが、見たことのない顔が混じってる、と牧村博士 が違和感覚える。これ、柳田國男の『遠野物語』や坪田譲治の『日本昔話』でも 意識的に取り上げられている「座敷童子」のエピソード辺りに材を取ったと思われる、 「勝手知ったる中に、異物が紛れ込んでいる」モチーフの発展形。

例えば、<おばあちゃんが孫やその友達を集め、アメを配る。人数分用意したはず なのに、一人が「自分の分がない」と泣き出す。でも子供たちはいつも見ている顔だけ> …というものやら、「ふと気付くと、知ってるはずの一人の子供の名前だけ思い出せない」 といったバリエーションの一つだ。異物が紛れ込んで共同体が破壊される恐怖と言おうか。 そのただ一つの出来事で日常がいきなり別の空間へスライドする物語の仕掛けだ。

ともあれ、その「仕掛け」のお陰で、牧村博士は違和感を持ちながら復顔の取り掛かることになる。

ところでこのシーンで、記者の一人が「もしかしたら『八百屋お七』の頭蓋骨じゃ?」と いうようなことを言っているが、この『お七』は怪談ではなく、歌舞伎や浄瑠璃の 「世話物」と呼ばれる作品群では定番中の定番で、井原西鶴の『好色五人女』では江戸と いう土地を代表する炎のヒロインとして挙げられている。江戸を巻き込む大火の中、避難 先の寺で出会った男が忘れられず、もう一度会うために放火するという情熱のヒト。… 多分辻先生、お七からの連想で、ロクフェルに火を吐かせたに違いない。

ま、「物語は抑制と開放」といった人がいたが、確かに名言。

そんな夜から一転してさんさんと照りつける日差しの中、サッカーに興じる 明たちという、開放的シーンが挿入される。もちろん、明と氷村がいれば、 青春街道まっしぐらな展開にはならず。ただ、この時はまだどうも氷村に ザンニンの指示は飛んでいないと見えて、明を挑発するのみだが。「ハンドした、しない」 で言い争い、氷村が「こんな具合にかい?」なんて言って女子生徒の胸触るという くすぐり。明は「俺がやりたかったこと、よくも先にやりやがったな!」 とマジ切れ。やりたかったのか。このシーンは、必要な「開放」としてのつなぎと言いますか。

前シーンが明るい太陽なのに対し、このシーンは真っ赤に血塗られたかのような お月様。この対比もまた狙いだろう。その「赤」のイメージを植え付けつつ、 続く研究所と牧村家の電話やり取りシーンそのものは大胆に色を削ったモノトーンで展開されていく。

牧村博士「ロウの具合は大丈夫だろうね…パラフィン、白ロウ、ミツロウ、セデチンを 混ぜてね。頭髪は植え込むのは面倒だから、カツラで結構だ…。結いはタテ、桃割だな」

何だ、このマニアックなディテールは。

『解体新書』によれば、脚本段階で辻氏が凝って調べたとか。 もちろん、それが「リサーチしました」という脚本家の知識自慢なんではなくて、 そういうクールな話が淡々と展開する中、モノトーンの研究所のケレン味たっぷりな カット構成、牧村博士に迫る人影…という絵の組み立てがあることが重要。裏番組の 『8時だよ!全員集合』でも良く使われていた、何気ない展開をしている一方で、 後ろから幽霊が迫っており、もう見ている子供たちが、「うしろ!うしろ!」と 声を出さざるを得ない「来るぞ来るぞ感」満ち満ちた、ホラー演出の基本である。 しかもこの場合、研究所が襲われるのか、牧村博士が襲われるのか、という サスペンスを更に盛り上げ、見ている方に息詰まった抑制を強いる。

で、牧村博士の背後から手が…と、それは昼間、明を平手の餌食にして気に病む ミキ。ここで一旦開放される。だが、その直後、夜の街を行く明のバイクがパンク、 ビーカーが割れる、とつなぐカット構成。これはやりすぎかなあ。フォローないし。

研究所のシーン。もういよいよここで何か起こるぞ、と見ている方は いつ吃驚させてくれるのか、という期待満々である。ここはじらすが一番、 とばかりに、研究所員・山口くんは、カツラを被せ、「しまった、目を忘れた!」 なんていうセリフを当たり前につぶやき、メンタマをお手玉しながら持ってきたり。 作り物とはいえ、人間のパーツが少しずつ見せられるというビジュアルは、 気持ち悪さ倍増。

歩く山口くんとボンボン時計のカットバックでは、時計のサイズをやや 詰めて見せたりして、再び見てるほうに緊張を与える。一方で、ついに ロクフェルが具体的な動きに出始める。まだ目のないはずのドクロがギョロっと 目を開き、自ら煮え立つロウのタライへ飛び込み、全身揃ったカタチになって 浮き上がる…がまだ全身の完成形は見せないのね。一旦こちらの目を引き付けて、 また引き離す。コレを小刻みに繰り返すのが古典的な基本手法。

山口くんがドクロのないのに気付くと、電気が消え、完全に光と影の 世界に。脂汗を額に浮かべる山口くんの窮屈な顔のアップ。しかもそれに 更にじりじりとズームイン。その間呼吸音のみ。なんと15秒に跨ってたり。 コレも見てる方に感情を入れさせ、追い詰める演出の基本ね。(『新世紀 エヴァンゲリオン』で何度か使ってるのが有名かな?渚カヲル握りつぶす直前の 逡巡は止まった絵でそれ表現してましたな)

間に子猫乱入する開放挟んで、一滴一滴ロウをたらしながらにじり寄る 影。しかし全身は見せず、血走った目、牙が生えた口、とパーツで見せ、 緊張感を持続させる。山口くん恐怖、ロウの怪物はタライ一杯の熱いロウを 山口くんに注ぐ…。とここに及んでやっとこさ音楽が鳴って開放しつつ、CMへ…。

え?まだここで半分なワケ?という密度の前半。もうホラーの教科書にしても いいくらいの基本とツボを押さえた名演出。

そして後半は一変、怪獣モノとしての展開に持ち込んでいる。

まずは、お七の顔したロクフェルが大暴れ、これもっと美女に描かれてれば… と不満がないわけではないが、とにかく15、6の女の子の顔して筋骨隆々の体持った 巨大な怪物が街破壊しまくるという、ギャップが面白いワンシーン。ここでデビルマン とロクフェルの第1戦。一本背負い決められて、ついつい逃げ出すロクフェル。 まあ、前半のホラー演出に時間が取られた上、後半だけで二戦もしなきゃいけないので、 あっさりしすぎてるのは泣くほかないか。

ここで管理職・ザンニン登場。デビルマンから逃げた罪を「卑怯者!」と罵り、 プライドの怪物・ロクフェルに火をつける、というのはサラリーマンのリーダーシップ として正しい。さすが♪

で、前半のサッカーと基本的に同じ絵作りながら野球。今度はザンニンが指示したらしく、 氷村がバットを折って明を攻撃。ここで、バッターボックスに立つ氷村が「来いっ!」 (井上真樹夫の声で) というのは、声優ネタとしてはおかしいが、殊更前髪は伸びたりしない(それが節度)。 この回は、氷村とロクフェル間の打ち合わせはない。ソレは第2戦でロクフェルが傷ついた デビルマンの腕見て「そこが弱点か!」と気付いていることから確か。ザンニンとしては、 それぞれのデーモン使って巧妙に作戦立てているんですな、実は。

もうなりふり構ってないと言うか、とにかくヒトがたくさん集まってて、目立って ればどこでもいい!とばかりに野球場を襲うロクフェル。もちろんデビルマンの 目に付くこと前提とはいえ、大量虐殺した上、テレビの生中継でデーモン族の 恐ろしさを人々に刻み付けた、という意味で、結構ロクフェルがんばったよね。 ゼノンは「ロクフェルは敗れた!」としか言わないけど。

ふと、 「あの野球場にミキがいなかったら、果たしてデビルマンは行ったのか?」 「あるいは、タレちゃんだけなら?」という疑問が湧かないでもないが、それは シナリオ離れた議論になるので、おいといて。もっとも デーモンにとって見れば、ミキちゃんだって「大多数」の中の一人に過ぎないということを 初めて表した一本と言えるのだが。マンガで言う「あなたも!あなたも!」 が出てきた一本とも。

さて、変身シーンがバンク(小松原版使い回し)である一方、とどめのデビルビームは タイガーマスクが技決めた時のような、ショッキングでアヴァンギャルドな背景を 細かく重ねた絵作りで独特。森 利夫版デビルマンのステキなアクションは尺が短い ながらも充分楽しめる。


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