デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年8月5日放送
#4「魔将軍ザンニン」
演出・西沢信孝 脚本・辻 真先 作画監督・荒木伸吾 美術監督・福本智雄

明「…だらしねーぞ、デビルマン。」

魔王ゼノンの召還に応え、現れたるは"魔将軍"ザンニン。裏切り者・デビルマン の粛清の出番がいよいよ、と焦るザンニンに下された命令は、かつてデビルマンに 与えられた、人間界征服の先鋒としての役目だった。強大な力の下に幾多のデーモ ンを従えるザンニンはまず、最初の部下・妖獣ベトラを従えて人間界へと向かう。

魔将軍が乗り出したことも知らず、ミキとバイクでデートを楽しむ明。ミキがふと 目を留めた先には、人気アイドル・天地ユリが道行く人にサインをしている姿。 アタシも、というミキに明は「俺がしてやるよ」と素っ気なく立ち去る。一方、 タレちゃんとアルフォンヌはサインを貰えてほくほくだった。だが…。

タレちゃんは、大事なサインを抱えて授業中に高イビキ。ところが、そのサインが 浮き上がり、蜘蛛となって口の中に。知らず居眠りを叱ろうとした担任の美留久先 生だったが、突如目を覚ましたタレちゃんは獣のような俊敏さで飛び掛り、恐るべ き力でねじ伏せようとしてきた。だが幸い、元日本女子レスリングのチャンピオン だった先生のパイルドライバーで失神。蜘蛛の魔力はそのショックで消える。

騒ぎは、街のあちこちで起きていた。女子高生が電車の運転手を襲い、脱線転覆事故。 スチュワーデスがパイロットを襲い、航空機墜落。火事のビルにガソリンを掛ける女性…。

再び学校。アルフォンヌも蜘蛛に狂わされ、美留久やポチ校長、そしてミキに迫る。 駆けつけた明はアルフォンヌを倒す。その口から逃げ出した蜘蛛を見て明は気付いた。 妖獣ベトラが人間界にやって来たことを。後をつけた明の前に、真の姿を現わしたベトラ。 明変身、デビルビームを浴びせると、たまらずベトラは逃げ出した。ゼノン様に顔向けで きん!と不甲斐ないベトラを激しく叱責するザンニン。

再び人間界に来たベトラはピエロに姿を変え、蜘蛛を織り込んだチラシを配る。 そしてまた、チラシを受け取った子供がスカG運転する母親を高速道路で襲い、大事故が。 さらにベトラは牧村夫妻を蜘蛛で操りミキを殺そうとする。明は夫妻を倒し、ミキの 下へ駆け寄る。ベトラの口から吐かれた蜘蛛が迫り、ミキは失神、駆けつけた明はデ ビルマンになるが、ベトラの吐く蜘蛛の糸に絡めとられ、手も足も出ず大空へ引き上 げられてしまう。

意気揚揚と海上を行くベトラだったが、海に沈めようとしたのが運の尽き。海水で 無力化した糸を切ったデビルマンが飛び上がり、デビルアローを放つ。だがミキが 心配なデビルマンは、ベトラに戦いの意思なしと見て、飛び去る。

ほうほうの体で逃げ帰り再戦を誓うベトラだったが、ザンニンは敵前逃亡した ベトラを二度許すはずもなく、自ら焼き殺す。ヒステリックにザンニンが呼び出した 次なる刺客は、妖女ゾルドバ。

今回は透過光多用で何かというとピカーッと光る画面。二度のデビルマンの変身でも 目潰しのように一回全身が光るし、蜘蛛に乗っ取られた人の目も光るし、蜘蛛そのもの もピカーッ。どっちの狙いでしょ、『マジンガーZ対暗黒大将軍』でテレビとは異なる ケレン味たっぷりのアングル多用で画面を賑やかにした演出家・西沢信孝氏か。それとも透過光といえば出崎  統、彼のもとで直前まで『あしたのジョー』を描いていた、荒木伸吾作画監督か。

そういえば、ダイナミックアニメ的には『キューティーハニー』『グレンダイザー』 などで知られる華麗なる荒木伸吾と、『グレートマジンガー』『鋼鉄ジーグ』の骨太 な中村一夫というビッグコラボレーションも楽しまねばなるまいて。蜘蛛の被害者 の女子高生の顔なんて、モロに『ジョー』のサチなんだよな。

動きの面でも凝っていて、例えば、一回目のデビルマン変身のシーンが珍しい。明が ポーズとって巨大化しつつカメラが回り込むまではともかく、そのままデビルマンの 奥にベトラが見える絶妙のタイミングで、次の2ショットの引いた絵へ。動き出すデビルマン というアクションつなぎは中々に気持ちイイ。アニメだと、同じ動きを違うアングルから描いて違和感 なく仕上げなきゃいけないわけで、ある意味非常に手間なのだ。

そのカット構成に代表されるように、このエピソードは非常に実写的な絵作りである。 アニメの飛躍をヘンゲの千変万化でダイナミックに見せた1話、舞台照明のごとく 画面を大胆に作りこんだりしたグラフィックな2話、竜巻の幻惑や看板の絵が飛び出る 勢いでアニメ的に見せた3話…と比べると、文字がいきなり蜘蛛に変わったり、その蜘蛛が 口から出入りしたりするものの、実際の絵面としては人が跳びかかったり、ベトラ自体は巨大 化したり糸を吐く程度で、シレーヌが蝶に変わるといった絵的な飛躍はない。 むしろ丹念にそこで起きている絵を精緻に描きとめている、という印象だ。どちらかが 上・下というものではないが、作画監督や演出家の個性と言えるだろう。

『デビルマン』に付きものの「怖がらせ」という点では、ミキを襲うためにベトラが 牧村夫婦をまず乗っ取るシーンがある。この時「待っていたんだよ、ミキ」「いいことだよ、 お前を殺すのさ!」と来る、『ススムちゃん大ショック』的な作り。これも絵の上では グラフィカルな処理というよりは、実写で照明を作りこんだような方法。階段の下で、 顔と足元が真っ暗な影で一直線に切られ、何も見えないことで不気味さを出している。 コレが2話の作りなら、もっと大胆に階段と廊下の間取りがいつもより長く広くなった かのような背景美術が設計されると思う。

また、他の班の作画は『タイガーマスク』的な描写で、一枚絵よりも動きの中で「決まる」 ポーズが付けられている。(そのため恐らく一枚一枚をとってもイラストとして完成はして いない)今回は引きセル多用、多分セル画一枚だけ見ても収まりがいい絵作りだ。 これはやはり実写的な『ジョー』を経過した荒木氏の手になるからだろうか?

かわって、キャラクターの話。

上に挙げた牧村夫婦がミキに襲いかかるシーンで、ミキは外に逃げおおせるのだが、 今度は悲鳴を聞いて駆けつけた明に向かって来る。ここでの明のリアクションが、 辻 真先節炸裂!

「てめーら!てかげんしねーぞ!!」…である。要はミキ以外はどーでもいい人間なのだ、 このヒト…いや、デーモンの本音は。

1話から出ていた『キッカイくん』のアルフォンヌ=ルイ=シュタインベック3世と ポチ、轟紀世彦(>この話には出ていない)に続いて、『なんでもちイ子』(連載時は『が んばれスポコンくん』他)のちイ子先生がタレちゃんの担任「美留久先生」として登場。 「元日本女子レスリングチャンピオン」とわざわざ自分で口にする辺り、楽しいヒトだ。 プロレス好きの豪ちゃんを意識した「パイルドライバーッ」なんて叫んでの技の披露も 辻氏らしくて拍手モノ。作品の方は皮肉にも、『デビルマン』連載に豪ちゃんが集中するため、 途中終了したんだけど。(ちょうど、伝説の少年誌5誌連載時代。その後散発的に描き継がれる)

ことさらに豪ちゃん的な阿呆なオトナを描くのも辻流。アイドル・天地ユリのサインに並ぶ タレちゃんを抜かそうとするアルフォンヌ。わざわざ本名を長々と名乗る、というくすぐり、 「先生は生徒より先」と無茶な理屈を並べるところ、パッパッと服を脱いで体にサインを貰い、 「2年や3年風呂に入らなくても、死にはしないノダ」とうそぶくなど、永井一郎氏の好演も 相まってキャラ立ちまくり。割り込まれて怒ったタレちゃんが「やるか、アル公」なんて 呼ぶのもステキ♪

そういや、この話でアルフォンヌが昼食後、眠そうに口にする「腹の皮が突っ張ると目の皮がたるむノダ」 というセリフ。コレで俺、この言葉覚えたなあ…などと感慨覚えてみたり。

てなところで、ストーリーの話。

辻 真先3本目の『デビルマン』だが、前回の山崎版・アイロニカル明に比べると、またまた 恋に真っ直ぐ生きる男に。同じようにデーモン族が起こした事故をテレビで見ているシーンがあるんだが、 冷静な分析などなく、「ほー!やるやる!派手なことやるじゃねーか!」と拍手してしまう ところ、所詮コイツは悪魔だよ、てな気にさせられる。しかも牧村ミキが好きなだけの無邪気な。

(ところでここ、ミキがおもむろに「何か心当たりないの?」なんて明に聞いたりするサスペンスがある んだが、当初仕掛けとして「ミキがいつ気付くんだろう」的なヒキが用意されていたのだろうか?)

中でも、豪ちゃんキャラ荒木風味進化、という感じの絵がまたナイスな「ドギツイ顔」を した明とミキの以下の会話。タレちゃんが美留久先生に跳びかかった後のシークエンス。

明 「ほー、やるじゃねーか、あのヤロウ。俺のシツケが行き届いて来たらしいぜ」
ミキ「ノンキなコト言って!」
明 「男が女に跳びつくのは正気の証拠じゃんか。…例えばよ」
ミキ「例えば…?」
明 「(襲いかかるフリをして)こんな風に…」

<バシッ(ミキの平手が飛ぶ音)>

ミキ「知らないっ!」
明 「(花壇の花にまみれつつ独り言)…だらしねーぞ、デビルマン」

荒木作画と編集で作り出された絶妙の間。切り返しでテンポ良く表情を見せ、 ミキの平手のアップ、はたかれ花壇に倒れこむ明。この辺の気持ちイイ 編集は全く古さを感じさせない。どころか、引きセルで吹っ飛ぶしか能のない 今のアニメに見習って頂きたい細やかさであるぞ。戦闘シーン以外のこういう ディテールに気を使ってこそ、の「初めて知った人の愛♪」なのである。

加えて田中亮一&坂井すみ江両氏のいい芝居でこの掛け合い、非常にいいムード。 最後の明の誰に言うともない感じの独り言は絶妙なり。

そういうことしておきながら、そのくせラスト前、気絶したミキに気付けの水を口移しで飲ませようとして、 どうしても照れてしまい「ダメだ、できねえ」なんてリリカルなところを見せている。 更に気付いたミキがすがりつくと、「おお、ヨチヨチ」と破顔一笑。ひゃあ。

で、デーモンについて。

なんと言っても凄いのが、この回デビルマンはデーモンに止めを刺さないということ。

一度目はデビルマンに巻きつき、ゆるゆるとした熱線(?)でデビルマンを倒そうとするが、 余裕の不敵な笑顔で繰り出されたデビルビームで驚いたベトラは飛び去る。デビルマンは深追いせず。

二度目はせっかく糸でデビルマンを拘束したものの、ナニを焦ったか海中へほおりこみ、 逆に糸が無力化してしまう。まんまとデビルアローを受け、デビルマンに「怯え」を 読まれ「ミキが心配だ、これ以上相手をしておられん」などと言われ、シカトされる始末。

妖獣ベトラ自身、劇中ではっきり言っていないものの、人間は怖くも何ともな いが、デビルマンに勝てないだろう、という気分で戦っているフシがある。実際そりゃ 当然の話で、人間界侵略の先鋒を切ったデビルマンは、魔将軍ザンニンと同格。どだい 魔将軍の部下に過ぎないベトラに比べれば、一段上のデーモンなのである。ココにあるのは 組織の悲哀であろう。

話は戻るが、冒頭目を閉じながら(!)魔王ゼノンが在りし日のデーモン文明(血塗られたアレが 文明かどうかはともかく)を思い、その栄光の歴史を振り返って見せる。その圧倒的な 歴史を背負わせた上でザンニンに全てを任せるくだりも、ナニやら修身の教科書読み聞かせる 戦前の小国民教育みたいですな。で、ザンニンはデビルマンの刺客でなく、人類絶滅作戦の指揮官 に任命されるワケだ。恐らく、デビルマンに出し抜かれたという屈辱を抱えていた彼は、ココで張り 切らざるを得ない。そこへ来てひたすら逃げ帰ってくる部下・ベトラ。

ヒステリックに尻尾のムチでベトラをセッカンし、岩を砕くザンニンの姿は、まるで部下に 当り散らす中間管理職である。そういうヤツなのだ。名前に応じた残忍さを見せるところと 言えば、保身を図るベトラを自ら焼き殺すところくらい。この先が思いやられる…というのは、 今現在の目で見るからか。

さて最後にこの回、音がちょっと変。

理由は色々あろうが、まずは変身シーンで トランペットのソロでファンファーレ、はあまり他の回ではないんじゃないか?(今後見直してみて結論 出します)。何か足りない気がするのが、Bパートのピエロがチラシ配るシーン。雑踏が賑わう SEでも乗っていれば雰囲気なのだが、ピエロの歩く音のみが乗っていて、テレビが壊れたか、 などと見る者を不安にさせる。現在だとアレは放送事故扱いされてしまうぞ?絵はしっかりして いるだけに、狙いというより音が間に合わなかったんじゃないかと邪推してみたりして(>あくまで憶測です)。

ところで、次回予告。もはやここでアニメ版飛鳥了…とも言えなくもない、氷村 巌の登場が 語られているが、あまつさえ、ネタバレまでしている始末。ま、いいんだけどね。


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