デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん ちゃちゃちゃちゃー♪


1972年7月29日放送
#3「妖獣ゲルゲ」
演出・白根徳重 脚本・山崎忠昭 作画監督・森 利夫 美術監督・遠藤重義

明「俺の予感は当たるんだ。コレはホントだよ」

今回魔王ゼノンが送り込む刺客の名は、あらゆる物を溶かす恐怖の溶解液を武器と するゲルゲ。ゲルゲは竜巻に姿を変え、地上に恐怖を起こす。空でジャンボ機が、地 上では学童バス・新幹線が巻き込まれ、緑色の溶解液によって溶かされてしまった。

事件をテレビで見る牧村家の面々。事件の不思議に驚き、被害者の無事を願う牧 村夫婦に対し、明は「ま、ムリだろうな。見通しは絶望的だね」と感慨もなく言い放つ。 その冷たさに怒るミキ。「自分さえよければ、アタシが死んでも涙一つこぼしてくれな いわ!明くんは<悪魔>よ!」驚き椅子からひっくり返る明。

機嫌を直さないミキに困った明。そこへ弟のタレちゃんがアドバイス。喜ぶことを してあげればいい、と。明が考えた末に出したのは、登校途中にミキを「ヘンな目つき」 で見た生徒たちに鉄槌を加えることだった。だが、ミキの目には単に暴力を振るってい るとしか見えず、逆に困らせてしまう。

思いが通じず、バイクを駆って気晴らしする明の前に、妖獣ゲルゲが現れる。裏切 りの理由を問いただそうとするゲルゲに明は、「分かるだろ、恋する者の気持ち♪」 ゲルゲは怒り、裏切りの原因のミキを殺す、良く見張っていろ…と言い放ち去る。

急いで帰ってきた明は、ミキを徹底的にガードする。勉強部屋、風呂、トイレ… デーモン族を知らぬミキに、その思いは通じるはずもなく、またもや機嫌を損ねる。 そして翌朝、ミキが起きてまず一番に見たのは、部屋の戸の影で徹夜で見張っていた 明の姿だった。

怒るミキは明の頬を爪で引っかく。そこへ現れた妖獣ゲルゲの竜巻!牧村家は激しく 揺れ、一家が気絶した隙に明はデビルマンに変身。ミキに引っかかれたキズを執拗に狙う ゲルゲの卑怯な攻撃に、デビルマンは怒りのチョップとキックの激しい応酬。しかし何度 八つ裂きにしても蘇るゲルゲの前にデビルマンは空へ。追いすがるゲルゲは竜巻になって デビルマンを巻き込む。もつれながら戦いの舞台は海へ。だがそれはデビルマンの作戦だ った。海に引きずり込まれたナメクジ妖獣のゲルゲは、塩水に消えていった。

怒りに震えるゼノンが呼び寄せた次なる刺客は、魔将軍ザンニン。

で、放映月日見ると、一週間お休みだったんすね。なんだろナイターですかな。まさか、 制作が間に合わず…なんてことはないでしょうな。その内調べよう。(※追記:バラの騎士 (仮)さまのタレコミにて、プロ野球オールスター戦の放映であったコトが分かりました。 ちなみにこの日は、あの『仮面ライダー』すら中止。ただし『ライダー』だけは、翌週金曜日に 放送するという変則スケジュールで対処。)

さてさて、今回の妖獣ゲルゲは豪ちゃんマンガのシレーヌ編前哨戦「美樹ちゃんお風呂で ドッキリ」編の張本人・ゲルマーと同じデザイン。マンガの方は、水と同一化するという 能力を持っており、それはそれでナメクジ+爬虫類というカンジに合っていたのだが、ア ニメの方は、ナメクジ型の尻尾から緑色の溶解液を噴出する。自称「あらゆる物を溶かす 恐怖の溶解液」。外見と相まったどろどろ感がイヤゲですね。それにしても、どっちかっ つーと下っ端臭の漂う細身の外見だけに、個人的に太身の声のイメージがある富田耕生と いうのは実はピンと来ないんだよな。ま、それはさておき。

その他にもゲルゲは割と色々と超能力を発揮している。最初に明の前に現れた姿は、街中 の看板。刀を構えた浪人の絵が描いてあって、それがいきなり「死んでもらいます!ぬぉ! はぁっ!」てな、富田耕生さんらしい気合入れながら襲ってくるのね。うまく交わした明は バイクで走り去るんだが、それをいまいましげに見つめながら、刀を鞘にしまう姿が中々に 決まってたり。人間社会勉強してるのネ、結構(笑)。続いて電気屋軒先のテレビに写った ウエスタンのガンマン。これまた弾が画面から飛び出してくる。おもちゃ屋の軒先のロボッ トが巨大化…と子供向けに楽しい(?)襲い方だ。

ことさら誇らしげに謳ってはいないが、こういう幻術めいた能力をデーモン族が使う、と いうのは、プロデューサーから、絵的に訴求するイメージを、というような申し合わせが いくらかあったのだろうか。このゲルゲは山崎忠昭脚本。この段階の辻真先デーモン・シ レーヌも蝶の群れに化けたり、ミキに化けたり、本来の飛行妖獣以上の力を見せている。 (『デビルマン解体新書』によると、脚本家同志の打ち合わせはなかったらしいが) しかし、コレ以後徐々にそういう幻惑イメージが減っていったのは確かなのだが。 やはりパイロット台本的に書かれたものだから、いろんなイメージを突っ込んでいるのだ ろうか。この段階では。

で、山崎忠昭氏(以下敬称省略)である。

このヒトといえば、『ルパン三世』の最初も最初、第1話「ルパンは燃えているか…?!」 第5話「十三代五ヱ門登場」を書いた人。 他にも岡本喜八監督の精神病院を舞台にしたスパイ風アクション『殺人狂時代』や、 鈴木清順監督がその天才性を発揮した『野獣の青春』、日活アクションの王道 『危いことなら銭になる』などの映画脚本に始まり、人形劇『ネコジャラ市の11人』、 アニメでも『アニマル1』『あしたのジョー』『さるとびエッちゃん』『巨人の星』 などの古典から、比較的新しい『緊急発進セイバーキッズ』『キテレツ大百科』『桃太郎電鉄』 なんていうところまで。実写でも『光速エスパー』『恐怖劇場アンバランス』ととにかく 多彩な作品を書いてきた、テレビの歴史のような人。

全ての作品を吟味したわけでないので断言は出来ないが、どうも作家的には乾いた作風 を得意となさっていた節も見受けられる。そしてこの『デビルマン』ではただ一本だが、 辻風とはまた違ったどこか肩の力が抜けたデビルマン像を描いているといえよう。

具体的には、牧村家でテレビを見ている一連。無残な事故のニュースを見た牧村夫妻が、

おじさん「一日の内に3000人もの人が行方不明になるとはな。正に史上空前の大事件だ」
おばさん「遭難者と言うのかしら、被害者と言うのかしら。…とにかくその方たちが全員無事であって欲しいものですわ」

などといういかにも大人が口走りそうな、新聞投稿なんかにありがちな、高みに立 ったニュースの繰り返しのみを空々しく言っているのに対し、明はといえば、

明「ま、ムリだろうな。見通しは絶望的だね。恐らくは一人も生きちゃいねーだろーな。」

などとあっさり言ってのけてしまう。もちろんデビルマンであるから、惨状を 目の当たりにして、ゲルゲがやったろうコトは予想した上での、冷静な分析に 過ぎないのだが、人間てヤツはそうは行かない。コレに食って掛かるミキに、

明「予感がするんだよ、そういう予感がね。俺の予感は当たるんだ、コレはホントだよ」

とまた暢気に、実に暢気な調子で言ってしまうのだ(ここの田中亮一氏の芝居がいい!)。

この辺のデビルマン明の余裕ッぷりというか、「何かシャカリキになってない感」と いうのはこの回割と通底していて、裏切りをなじるゲルゲに恋する気持ちを冗談めかして 語ってみたり、ミキを欲望の目で見つめた男子生徒をいたぶったり、変に達観したような 発言や行動をしている。一所懸命ではあるのだが、言動が本気ではなくケレン味たっぷり というか。辻の純愛狂いな明とは、やや趣が違いはしないか。

ミキの肉体を欲望の目で見る、という男なら当然の行為であるが、コレ、デビル マンがセックスを知ってなければ、あるいは自覚してなければ出てこない話で、ましてや それをミキの気を引かんがために、本気というより、カッコつけのためベルト振り回して 脅してしまうのだ。辻の明ならもっと力入ってると思う。そのシーンでも以下のやり取りが。

用務員・轟紀世彦(『キッカイくん』より)の報告を受けてミキが、大暴れの現場に向かう。

ミキ「その人たちはね!番長グループでもない、真面目で善良な…」
明「(さえぎり)どんな人間にも『出来心』ってヤツがあるんだ。俺はそれをとがめてんのさ!君のためを思ってね。」

ここは更に反復されていて、このカドで明が校長室で注意を受けるシーン でも。アルフォンヌ先生に理由を聞かれた明が「ヘンな目つきをしていたから」だという。 そこで、それはどんな目つきか、とアルフォンヌとポチ校長がやって見せるのだが、 ご丁寧に映像上でもミキの胸から腰の辺りを、ナメるようにカメラが上り下りする。

コレ、一応言っておきますが、セクハラとか何とかじゃなくて、男なら誰しも女のカラダ を見るというのは当然の事で、ソレが正しい欲望であるからして、デビルマンのように切って 捨てるというのは、明らかに「行き過ぎ」という演出である。人間はせいぜい「ヘンな目つき」 をするのが関の山だが、デーモン族は即それが欲望の発散行動となるのかもしれませんな。 それ故に明は力を持って防いでるのだが、まあ、ココで現れてるのはカルチャーギャップなんですぜ。

とにかく比較論で言うと、割と純愛一路な明を通して、大人と子供を対置しつつ、主に 大人の行動から人間の欺瞞を暴いた辻に対して、山崎は乾いた感性の明を通して人間そ のものを糾弾している。この回一本ではあるが、もし更に山崎デビルマンがあったとし たら、また違った展開があったかも。

ゲルゲ「裏切り者に『デビルマン』を名乗る資格はない!」
明「おめーらは裏切り者扱いするが、俺に取っちゃ、地球も人類も塵芥(ちりあくた) 同然で、滅びようがくたばろーが知ったこっちゃねーんだよ、ホントだよ、オイ!」
ゲルゲ「ならばなぜ、貴様が手を下さん!それがゼノン様の命令だったはずだ!」
明「そのワケはな…俺がそんなマネをすれば、ミキちゃんが怒り悲しみ俺が嫌われる からだよ!分かるだろう、恋する者のキモチ♪」

ね、何かオトナでしょ?

※ところで蛇足だが、ここでゲルゲが「『デビルマン』を名乗る資格」云々と言って いるが、コレ、企画書見ると分かる初期設定の名残。元々「デビルマン」の名は、 デーモン族の勇者の称号だったのだ。するとデビルマンの元の名前は…?と思うのだが、 それは企画書では良く分からない。まあ、マンガに準じて「アモン」と思っておくのが いいのかな?OVA『CBキャラ 俺は悪魔だ!デビルマン』はそうしたようだし。

閑話休題。

この回は作画監督・森 利夫。『タイガーマスク』の木村圭市郎作画監督の大胆な デッサンを、最も色濃く受け継いでいる絵柄である。荒い線一本で筋肉の動きの方向を 定め、一軒粗雑とも言えるタッチながら、動くと絶妙なスピード感や重量感が出る 不思議なタッチだ。アニメ版『タイガーマスク』が原作とは違う異彩を放っているのは、 一重にこのビジュアルによるものだと思う。で、この『デビルマン』も劇画タッチの 小松原・白土・中村・荒木らの作画監督に比べると、少ない線で勢い良く捉えられたデビルマンのフォルム が独特で、森デビルマンのファンもいるという有様なのだ。

そんな森タッチは冒頭からもう全開。事故の被害者、各交通機関の会社に押し寄せる 被害者の家族、牧村一家に至るまで、独特の「線」で活写されている。かっこいいぞ。 前半から山場の大変なところが、主に森担当になったのか、いざ変身してみると、 別の原画マンで、イマイチになったりするのがご愛嬌ではあるが(笑)。

作画といえば、もう一つ妙に気になる一連がある。

ゲルゲの宣言を受けて、明が徹夜でミキを見張る一連。まずは勉強しているミキの 部屋へ息せき切って駆け込む明。当然ミキには大迷惑扱いされて追い出されるのだが、 扉を閉め、腕組みでむっとするミキの姿が、全体に森タッチでも小松原タッチでもなく 「永井豪タッチ」なのだ。続いて風呂に入ってるシーン。ここはゲルゲだけに 1話に続いてまた(笑)フロの水大暴れか、と期待してしまうがさにあらず。「草津良 いと〜こ〜♪」なんて鼻歌交じりにつかってるミキの顔だけね。で、この顔がまた豪 ちゃん風。どうもこの一連担当した原画マンがどなたかは分からないが、豪ちゃんの ファンらしい。他の話ではここまで豪ちゃんに似せた絵はないので、良くご覧アレ。

ところでこのシーンで明はミキに「こないだの水の化け物忘れたのか?」と言っている。 脚本に話は戻るが、このセリフから、山崎忠昭が少なくとも1話に目を通してから、3話を書い たということは分かりますな。

しかし番組立ち上げ時期で、なおかつ時間がなかったこの『デビルマン』。 その理由としてマニアの間で有名なミスがこの回にはある。『解体新書』でも触れ られていたが、バイクに乗る明の手が白いんですね。色の申し合わせがうまくされなか った、というのが真相のようだ。でもそういうのだけ読むと、『デビルマン』は作画はダメ ダメなんじゃないか、といらぬ誤解を受けそうなのであえて言っておくと、このシ ーン自体はとてもしっかり描かれていて、看板から抜け出た素浪人が刀を鞘にしま う時の手つきの細かさは流石の絶品。明のバイクなんかもフォルム崩さず走っている。

細かいところでは、『タイガーマスク』辺りで開発された手法がこの回にも生きて いて、ゲルゲの竜巻が海に向かうデビルマンへ追いすがる…というワンセンテンス。 竜巻ナメ(「ナメ」ってのはカメラの手前に引っ掛けて奥の対象物と対比する撮影法) で奥にデビルマン、という絵なのだが、徐々にデビルマンにピントが合う、という 方法で距離感を表している。今でこそ当たり前の手法だが、この頃はまだまだ実験的だった。

さてさてしかしながら…

只今現在2002年の目で見ると、いささかクスッ、なのが オチ。要はゲルゲ、番組冒頭で空や地上では騒ぎを起こしているが、海では 何もしていない。それは、海に近づけないナメクジ妖獣だから…っておいおい なのだ。オチればエライというものじゃないだろう、と今日なら言えるんだけどね。 ま、「弱点がねーんだったら、引っかいても千切っても作ってやるぜ!」的な 永井豪節が理解されるには、まだまだ時は必要だったということですな。

ゲルゲの最期に贈ったデビルマンの名調子を引用しておこう。

虎は死して皮を残し、人は死して名を残す…
ナメクジは死して、跡形もなく溶ける…か。

「…か。」じゃねーって。

さてラスト、次回の妖獣紹介コーナーだが、ザンニンが呼ばれる。洞窟の壁から 緑の液体が滲み出て、人のカタチになろうとした…ところでフェード・アウト。 デザインがまだ出来てなかったのかな?


[デビルマンTOP]

[TOP]