デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん ちゃちゃちゃちゃー♪


1972年7月15日放送
#2「妖獣シレーヌ」
演出・明比正行 脚本・辻 真先 作画監督・白土 武 美術監督・浦田又治

明「地球がなんだい ゼノンがなんだい そんなものミキに比べれば問題じゃねえ」

魔王ゼノンが次に送り込む刺客は、妖獣マダム・シレーヌ。

不吉な夢に目を覚ましたデビルマン・不動明。ふと窓の外を見ると、ネグリジェ姿の ミキがふらふらと歩いていく。あとを追う明の前にシレーヌが現れた!「ミキを返せ!」 飛びかかる明を交わすように群れ成す蝶に変身、マンホールに姿を消したシレーヌ。 なおも追う明は気絶していたミキを発見。

「こわかった!」すがりつくミキにやに下がる明だが、それはシレーヌの変身だった。 爪で激しく背中を切り裂かれる明、すぐさま変身するが、身動きが取れない。人間大で受 けた傷は変身するとともに巨大化し、苦痛もそれに倍加するのだ。崩れ落ちるデビルマン。

意識を失ったデビルマンの精神を読むシレーヌ。そこでデビルマンの裏切った理由を知る。 卑小なる人間・牧村ミキに心奪われ、全ての任務を忘れ去っていたのだ。一目置いていた 勇者の変わり果てた姿に、シレーヌは激しく怒りを覚える。

シレーヌはミキをさらい出し、かつての勇者に突きつける。「この娘の命が惜しければ 氷の国に帰れ」と。歯噛みしつつその場を後にするデビルマン。それを見送ったシレーヌは、 ミキを溶岩あふれる血の池地獄につけていたぶり殺そうとするが、池からデビルマンの腕が 現れ、ミキを取り返した!

サディスティックなシレーヌは、デビルマンを脅し、ミキをいたぶるのに時間を掛けすぎた。 それによりデビルマンは体力を回復し、今やミキを弄ばれた怒りに燃えている。野獣の掟に生きる デーモンの火がついたデビルマンの前に、シレーヌはもはや敵ではなかった。額を割られ、飛ぶ ことすら押さえられ、デビルビームの前に倒されるのだった。

に第1話に「全てが詰まった」と書いたが、実際のところこの2話と合わせて初めて 紹介編と言えるだろう。むしろデビルマンの動機そのものはこの2話にこそ語られている とすら言える。中でも白眉は、シレーヌが触手をうにうにと気絶したデビルマンの胸に 伸ばして、「思い出の朧げな影」にミキのコトを尋ねるシーン。触手のふにふに感ととも にエロティックで気色悪いビジュアルもたまらない。その思い出が語る真実とは…?

学校のシーン。1話のリピート的なシーンだが、あちらは既にミキに従属した明。 こちらでは秀才・東大寺を狙うベルトが弾みでミキの頬を直撃、血を滲ませる。 その時、デビルマン明の目がふと止まる。流れ出すデーモンの寒色の血とは違う 真っ赤な血。それとともにミキから流れ出す。正にその「血も涙も」無い暴力 の掟にのみ従って来たデビルマンには理解不能な展開だったのだ。

自分の過失で血を流し、なおもそんな自分のために流される涙。

ミキ「バカッ!明くんのバカ。あなたみたいないい人がなぜこんな乱暴するの?」
明「俺が…いい人だって?!」
ミキ「そうよ、口は悪いけどカラッとした他の人には持ってないいいところがあるわ。 それがアタシの知ってる明くんだわ!」

恋する女の子が勝手に自分のイメージを押し付けてるだけ、とも言えるのだが(笑) それに答えようなんて思っちゃうと、恋が始まるのも事実。ましてそれまで そういうものに触れたことの無いデビルマンのこと、イチコロだったのだ。それにしても なぜ他のデーモンにはそれが生まれなくて、デビルマンに生まれたの?と設定おたくの諸兄は 気になることであろうが、そうなんだからしょうがないノダ。

正確に言えば、#20の妖獣ドランゴは明らかに人間世界を気に入っているし、 後のレギュラー・妖獣ララも人間を憎からず思っているので、理解の糸口がないわけでは ないと思われる。加えて『ロマンアルバム(4)デビルマン』(徳間書店 1978)において 豪ちゃんが読者の質問に答える形で述べている言葉が決定打か。人間・不動明の全ては、デビルマン に乗っ取られた時に消滅しているようだが、ミキを想う心が元々明にありデビルマンへ 深く影響したのだと。幾らなんでもデーモン族の勇者がそう易々と愛に目覚めるかよと。 それは確かに合点がいく。デーモン族になくて、人間にあった「愛」が補完する形で デビルマンに残ったのだ。それもまた、合体後のデビルマンの感情なわけだ。

さてこのくだり、シナリオでは一気に語られて、この事態に怒り狂うシレーヌ…CMへ… となっているのだが、映像ではミキとの思い出を半分語ったところでCMへ。明けると 再びのろける明…となっている。これはコンテ作業時にかなり明の心の描写に力が入って 尺が伸びたコトを示しているワケ。CM前のカットはミキの両目のクローズアップ。涙が零 れ落ちる。そこへ、

明「ミキの泣き顔はかわいい。でももっと素敵なのはミキの笑顔なんだ…。」
と語りが乗せられ、CMへ。CM明けでは笑顔で透過光の中、スローモーションで走る 二人の姿。

つまりCM前に、「血と涙を知って恋に落ちた」デーモン族の心の動きを語った上で、 CM明けで愛し合う素晴らしさを朗々と謳い上げる必要があったというわけだ。 ビバ!恋愛!そりゃ楽しいぜ、恋に生きるなんてなあ!全部どうなっても良かろうよ。

そこで駄目押しの…
明「ミキに見つめられると俺は無力だ。ついぞ味わったことのない甘酸っぱいものが、 俺の心の中に流れた。
…デーモンも人間も知っちゃいねえ。地球がなんだい!ゼノンが なんだい!そんなものミキに比べりゃ問題じゃねえ!そうよ、俺にはミキがいる!」

…「大義」とか「名分」とかいった正義の胡散臭さを語りきり、「個」の正義を貫くことの 難しさ。それがデビルマンの重要テーマの一つなワケ。ココで誤解されると困るのだが、 「個」の正義といっても、自分勝手な神を祀りたてるか、電波か何かの命令受けて テメエ勝手なコトを起こすのとは本質的に違う、ここは明確にせねばならない。

少鼻白む話だが、ココで謳われているのは「愛」である。大状況としての「戦争」が リアルに押し迫る中、個人の欲望の追求が押し潰されるという強迫観念は70年代ヒーロー に比較的共通したテーマだ。『仮面ライダー』しかり『帰ってきたウルトラマン』しかり 『シルバー仮面』しかり。その時の大状況は「戦争」という形でまとめられているが、 それが「公害」でも「会社」でもいい。「個人の夢」は、第二次世界大戦の記憶 がまだ生々しかった、70年代という時代の日本人にとっては果てしなく重要なテーマだ ったのだ。それがある程度果たされた現在、21世紀はデビルマンにとって住みやすいのか どうか。あるいは、今デビルマンは何と戦わねばならないのか。

さて話は前後するが、小ネタをいくつか。

像上は必ずしも意図が通っていると言い難いのが残念なのだが、シナリオ上では ふらふらと歩くミキを「ツ、ツ、ツ。けもののスピードで」明は追いかける。 デーモンの力を持ってすら追いつけないミキの歩くスピードを表現しようとしている。 後年作られたOVA『デビルマン シレーヌ編』の、商店街を行く明がこういうニュアンス なのかな?

ンホールの中で倒れてるミキ(実はシレーヌ)を助け起こす明。「へへへ、チャンス」 なんつってチューしようとする明だが、目を覚ましたミキが「明くんが助けてくれたのね!」 と抱きついてくれたところで、さらに大盛り上がり。照れまくってしまうが…

ミキシレーヌ「アタシの守り神よ、デビルマン」
明「(照れつつ)いやそんな、守り神だなんて…(ハッ!)何で俺の名前を知ってるんだい!」
ミキシレーヌ「それは私が人間ではないからさ!」

シナリオでは「守り神」に対して明が、「神だなんて、そんな悪口言うなよ…」 なんて微妙な反応見せている。映像では照れているだけに見えるが、神と悪魔の相克をこんなところで 表現しているのね。とまれ、映像にされても、一瞬では受け取れないとは思いますが。演出の判断正解。

れにしてもココのやり取りの中で、いきなり出てくるシレーヌ=北浜晴子さんの声の凄みには拍手モノ。 「いい女(もちろんトゲ付き)」といえば北浜さん、と声優相場は決まっているようなものだが(笑)、 ミキを人質にして、デビルマンに氷の国へ帰れ、と告げる一連もたまらない。

シレーヌ「(ミキを)殺すといったのは、ただのおどかしさ」
明「本当かい!」

シレーヌ「ゼノン様は私に任す、とおっしゃった…私はやさしい女だもの」

ウソつけこのヤロ!としか言えない、このシレーヌの圧倒的な優越感に彩られた語り。 対峙した相手の優位に立ち、屈服させることに悦びを覚えるデーモン族の生き方! 最大の弱点を押さえられたデビルマン明は、すごすごとその場を後にする。 それを見たシレーヌ、思わず歓喜の声を上げる!押し殺していた感情の爆発だ。

シレーヌ「デビルマンが誇りを捨てた!私はデビルマンに勝った!」

コレがデーモン族のリアルである。この歓喜には見ているこちらも思わず感情移入してしまう 迫力が満ち満ちている。脚本のテクもさることながら、演技の緩急がそれを倍加している。 「私はやさしい女だもの」と語るときの声の変化は筆舌に尽くし難い愉悦の表現だ。

しかしシレーヌのそれもぬか喜び、爪の一裂きでミキなんて死んでしまうのに、 またコレがじわじわと溶岩ぼこぼこ言ってる「血の池地獄」とやらに半身から さらそう、などとサディスティックな女王様気分♪

シレーヌ「その名も地獄、うれしいじゃないか。さて、どんな歌を聞かせてくれるかしらねえ…」

戦いに生き、戦いの中で「個」を追求するデーモン族。これはもはや、デビルマンとの 死闘こそが、シレーヌの人生における最大の山場とすら思える。冒頭ゼノンにも「一度は デビルマンと戦いたかった」って言ってるし。精神戦でデビルマンを追い詰め、デビルマン の心の拠り所・ミキをいたぶるのもデビルマンとの闘いなのだ。それに手を抜けようか? 殴る蹴るの幾多のデーモンの中でもコイツはそういう意味で恐ろしい。もはやこういう形で 表現されたデビルマンへのシレーヌの「愛」なのだろう。(実際この回「三角関係のドラマ」とは あちこちで論評されているし…同感)

そこで、うまうまとデビルマンを信用したシレーヌの負け。逆にシレーヌを信用しなかった デビルマンの勝ち。

ミキを血の池に漬けようとしたシレーヌの手を掴むは、デビルマンの手!
<じゃじゃんじゃーじゃじゃんじゃー じゃーじゃーじゃーん♪>
ここでオープニングテーマが掛かり、デビルマンの高らかな宣言!

「俺は誰の言葉も信じねえ!たった一人、牧村ミキを除いてはな!」

これぞヒーローモノのカタルシス。シレーヌがミキを池に漬けようとするまで 堪えてるなんて、偉いぞ!デビルマン!怒りに震えてシレーヌを これでもかとばかりに痛めつける…が、どうも途中からシレーヌ戦に喜び覚えてねえか?

飛行しながら繰り出されるシレーヌの爪をかわし、飛び上がる。デビルウイングか と思いきや、ジャンプして下降した時に慣性加えて、シレーヌへデビルチョップ! これで眉間叩き割られ、画面一杯に血しぶき飛び散らせるシレーヌ。さらにダム湖にぶち込まれ、 飛び上がろうとするも、浮かび上がれないシレーヌ。必至に羽ばたくシレーヌは哀れですらある。

徐々に浮くシレーヌだが、実はデビルマン両足を掴んでいた!
「濡れた羽根では飛ぶ力も出まい、今に乾かしてやる!…フフフ」
…ひどいよ、この男。一気にケリ付けないで遊んでるよ。(笑)

もはや悲痛な悲鳴にも似た声しか出せないシレーヌ。ココで初めてデビルマンは デビルウィングを出し空へ飛び上がる。飛行妖獣であるシレーヌに対し、今までは あえてタイの勝負を挑んでなかったという、この余裕を見せ付けるサイテー振り。 コレは確かにデーモン女に生まれていれば、惚れ惚れしてしまうだろう! そこへ有無を言わさずデビルビーム(前回と違って手から繰り出している)!

正直最期はシレーヌに同情するよ、マジで。

の勢いで、つい触れるのが後回しになったが、辻真先氏が脚本段階から練りこんでいる 「アニメだからできる絵作りへのこだわり」という要素も、ゴシックホラー追求アニメ 『デビルマン』的には捨て置けない。

演出の明比正行氏がやったのかな?明が山道をジープで爆走し、対向車(?)のライト で幻惑されるシーンでは、視聴者の目をも眩ませる実写のライトにズームする絵をいきなり 挟んで見たりと実験的。

「キャラは似てないが味のヒト」白土武氏の作監もいいですね。実は後の『マジンガーZ対 デビルマン』のシレーヌよりこちらの方が俺は好き。豪ちゃんキャラにある可愛げが残ってて。 「巨大化」の表現にもこだわっていて、住宅街での決戦がよく語られるけど、地味なところでも。 ミキをさらって来て羽根に隠しつつデビルマンと語る、明ナメ・岩の上のシレーヌ。 こういう2ショットで遠近感崩したようなサイズのシレーヌをいれて巨大さを見せたり。

特筆すべきは、同じ永井豪原作アニメ 『キューティーハニー』にて、前衛表現バクハツ!な美術設計をする浦田 又治氏がこの回から参加、タイトルバックの絵や、舞台演出的ピンポイント照明 など、早くも技の一端を感じさせる。

総合力が見事なシーンといえば、 ミキ誘拐の一連。暗い夜とは不似合いな極彩色に光る 蝶が飛んでいるだけでも怖いが、それが鱗粉振りまいて家族を眠らせる。(ここで 寝てしまうタレちゃんの顔が、『鬼太郎』やってた白土だけに、水木しげるキャラに なるのはご愛嬌として)そしてミキの部屋のフランス人形が喋りだす。

これまた誰にでも体験がある本質的な恐怖だ。暗い夜の部屋だと飾られた肖像画や 人形にありもしない「意思」ないし「悪意」を覚えるだろう。アレである。 恐怖の余り叩き伏せるミキ。しかし壊れた人形の首はなおも語りかけ、ちぎれた 腕は掴みかかり、小さなハイヒールの足が手を踏みつける。コレはマジで怖いよ。

で、この「視聴者のガキちびらせてやろう」的サービス精神は満ち満ちていて、 番組ドアタマのサブタイトルバック、ナイフ突き刺した目玉というビジュアル的に 最もキクであろうイメージから通底しているのだ。そこへ被せられるミキの悲鳴。ガバッと起きた 明が一言。

「フーッ、夢か。眠ってるのに余計なもの見やがる。人間の体借りてると ロクなことがねえ」

単純な夢オチだが、人間・不動明の残された「部分」が確実にデーモン・デビルマン へ影響を与えている証左でもある。

つまりそれって「夢」そして「愛」なんだな、これが。


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