デビルマン鑑賞。
ちゃーちゃちゃちゃちゃー てぃろりろりろりー たかたかたん♪


1972年10月28日放送
#16「闇に住む 妖獣ジェニー」
演出・山口秀憲 脚本・辻 真先 作画監督・森 利夫 美術監督・秦 秀信

明「悪い夢が消えて、やっと気楽に眠れるようになったのさ」

今宵はジャコビニ・ジンナー流星群が夜空にきらめく夜。学校から その観測を宿題にされた子供たちは、半ば義務で、しかし半ばうっ とりと眺めているのだった。美しい流星に酔う人々の中、ひときわ 明るい、毒々しい赤い星がきらめく。だが、それは子供たちにしか 見えなかったのだ。

一方明は、デーモンと関係ないなら、とベッドにごろり。と、そ こにラジオから奇妙な話が流れてくる。アマゾンの奥地で、村一つ が消えたというのだ。唯一残されたある少年の証言…災厄 をもたらしたのは「デーモン」だという。一笑に伏すDJだが、明に だけはわかっていた。ここ日本だけでなく、地球の裏側でも確実に 人間界にデーモンの魔手が忍び寄っている。

天体ショーに満足して眠るミキだが、眠りに落ちるなり般若のごと き形相の女性の幻影が襲ってくる。夢に叫ぶミキ。その叫び声に慌 てて部屋までかけてくる明だが、寝ぼけ声のミキは夢だから大丈夫、 というのだった。

翌日、学校では奇妙なことが起こり始める。アルフォンヌ先生の宿 題提出に答えた秀才・東大寺のレポートには、大人には見えない赤 い星のことが書かれていた。叱責しようとするアルフォンヌだが、 それは届かず次々と子供たちは居眠りしてしまう。

明は、子供たちを不安の正体を知るため、タレちゃんミヨちゃんか らそれを聞き出そうとするが、夢から口止めされていると拒まれる。 一計でチヤコからそのことを聞き出すが、「話したら殺される」と の暗示が掛けられており、チヤコは幻影の炎に焼かれながら病院送 りになってしまう。

その夜。流星はもう降らなかったが、赤い星は前日よりさらに赤く 大きく、空に輝いていた。それが意思を持ったかのように家々の上 空へ。するとそれに誘われた子供たちが、とりつかれたように外へ 出てきた。

河原に集まる子供たち。その前についに本性を現すは、妖獣ジェニー。 「もう一息だよ、もうすぐおまえたちは楽になる。試験も宿題も 光化学スモッグも、二度とおまえたちを苦しめはしない…ホホホ」 その声に誘われるように川へ一歩一歩進む子供たち。高らかに笑う ジェニーの声にもう一つの笑い声がかぶさってくる。「ハハハハ!」 …明である。

変身!ジェニーに踊りかかるデビルマン。髪を触手のように伸ばし 締め上げるジェニーだが、勇者デビルマンのデビルビームには叶わ なかった。そして一夜明けた学校では、今度はジェニーの幻影に悩 まず、安心して居眠りする子供たちの姿があった。

まずは「お話」のことから。

いうまでもなく『ハメルンの笛吹き』パターンのお話。デーモンも考えたと見えて、 時代をになう世代だけをターゲットにすることにし始めたのかも知れ ない。ま、一方でこの話はマスコミをうまく使っていて、明の聞いて いるラジオでは、今回のストーリーとは直接関係ないながら、シリーズ としてのデーモンの脅威も現している。

このラジオシーンのうまい所は、永井一郎演じるDJが実に軽い調子で 「つまんない話」とトンデモニュース的にデーモンが起こしたアマゾン の部落消滅事件を採り上げている点。デーモンの存在を知る明と視聴者 にしか脅威は伝わってこない上に、日本の裏側のアマゾンというロケー ションに明の歯がゆさまで伝わってきてイイ。(そういや、この後の 18話ではまたもやアマゾンでワニを大量に殺してたりするな)

ついでに言うとこの、大人には冗談としてしか写らないが、子供には 切実なコトが起こっている…というこの作品お得意のギャップと軸を 一にしているのがまたスバラしい。(今回で言うと、赤い星が見えるか どうか、というのとラジオのデーモンの取り扱いが共通してるのね。)

…で、『ハメルン』話に戻ると、さらわれる子供たちの描写にも目を向 けておきたい。まずは両親と流星を見上げるミキ。赤い星が自分にしか 見えないことに気付き、パパはそんなものが存在しないかのように、 一笑に付すのだが、「老眼じゃないの」なんて毒づいてしまう。 決して幸福な牧村家も一枚岩ではないようだ。

また今回紹介も兼ねての登場キャラ・喫茶店「チャコ」の一人娘・チヤコ。 彼女に至っては、赤い星を「美しい」と表現するのに、「あれがルビー だったら、一千万円するかしら」なんて無茶苦茶に俗っぽい 表現してたりして、オトナの価値観にどっぷり浸かっている子供だ。

結局、良くある表現としての「純粋な子供たちを陥れる悪」として デーモンを書き出そうとしているワケでないことは明白で、リアル な子供と大人をキチンと描こうという試みはなされているのだろう。 だからこそ、次の時代を担う子供たちを狙うデーモンが、長いスパン で人類滅亡を図っていることが引き立つのではないだろうか。

今回の敵は…

今回の妖獣ジェニーは、桜多吾作デザイン。豪ちゃんの手により 手足が生えて、ある意味最強のデーモン・サイコジェニーになる。 当初アニメでも同じ名前だったようだが、ま、言い易さからジェニ ーになったのだろう。美女の顔だけが襲ってくるというモチーフは、 悪夢の一場面みたいで非常にイヤゲではある。

ま、やや残念なのは、ジェニーそのもののキャラクターがやや弱い というところだろうか。この回はゼノンやムザンの指令もなく、 事件が先行していく中で正体が明らかになる作りもあるため、 ジェニーが悪夢の象徴にしか見えない。事件描写に尺を取られた ため、いつもよりあっさり感がある最後のバトルでのやり取り以外が 印象に残らないのも原因かな。

とはいえ、悪態セリフの応酬はこの回でもいいのがあって、

デビルマン「デーモンの罠としちゃ上出来だったな、ほめてやるぜ!」
ジェニー 「どうせならお前を倒してゼノン様に褒められたい!」


…ああ、結局宮仕えの身の辛さよ。ジェニーは子供たちに、「試験も 宿題も光化学スモッグもおまえたちを苦しめない」と甘言を弄して死の 世界へ誘うが、彼女自身は作戦目的外のデビルマン乱入で、思わぬ点 数稼ぎに高揚しているのである。子供を殺すだけならよかったのに。

んで、作画面。

きゃー!森 利夫さんよー!というワケで、シャープな森作監。 デビルビームは今回もおサイケな弾けっぷり。

…どういうことかというと、森作監回のデビルビームは 「パカパカ」して見えないだろうか。ポーズは一つしか描き起こして いないが、そこに不定形な光線や粒々をランダムに描き加え、 その何コマかを繰り返し繋ぐ、という編集の妙味で画面一杯に弾けるように 見せているのだ。

これ、小松原回や白土回ではもう少し伸びるビームやら動くポーズ を描いていて、ここまで効果だけで見せようとはしていない。どち らがいいというワケではないが、『タイガーマスク』から積極的に 開発されて来たリミテッドアニメならではの手法が一つの頂点を 見せているのだろう。

それはこの回では山口演出と相乗効果を見せていて、動きよりも カッティングでストーリーをまとめていく作りの顕著さにも現れて いるだろう。

例えば、夜の街をジェニーの声に誘われて歩いていく子供たち。 『ドロロンえん魔くん』でも子供たちがえん魔くんを倒すため、 ぞろぞろと夜の街を行くシーンがあったが、この回の方が、カ ットのバラエティが多く、ぞろぞろと道行くさまを様々なアングル から過剰なカット数で表現している。数人分の足が通り過ぎるために、 わざわざ橋の板数枚の背景を描き起こすような手間掛けてしまうのだから 恐れ入らざるを得ない。

無論、作画できちんと見せるコトを怠っているという意味ではない。 赤い星を見上げながら、ミキの瞳の中にある白いハイライトが うっすらと赤く染まって…というような微妙な作画もなされていて、 かなり計算された手法の使い分けを感じざるを得ない。

ジャコビニ・ジンナー流星群。

そもそも今回の元ネタの一つ、この流星群は、今も天文ファンの間 では伝説となって語り継がれる「空振り流星群」なのだ。かつて 1930年、1946年には一説に一時間辺り1万個とも2万個とも言われる 流星雨を降らせ、『デビルマン』放映の1972年には10月8〜9日に 来るだろうと、新聞・テレビで大々的に期待を盛り上げていた。 (ちなみに「よく見えた」と言われる流星群で、普通は一時間に 100〜200程度)

彗星が軌道上に残したチリと地球が交差する、という流星群の 性格上、チリのムラの加減で出たり出なかったり。それが現実 なのだが、特にこの1972年は空振りなんてもんじゃないくらい 期待はずれの結果となり、大いに人々をがっくりさせたようだ。

そこはSFマニアの辻真先、放送に合わせてソレを脚本に入れ込 んだようだ。ただし、この界隈の回は製作順と放送順が著しく 入れ替わっており、哀しいかな、流星群が降らなかったのを 視聴者が知った上で放送されたワケで、その夜の辻さんの心中 察するに…(哀)。

21世紀に至っても、「しし座流星群」やら「ペルセウス座流星群」 が同じ騒がれ方をして素人目には空振りに終わっているのと同じ 構図である。この頃はそれがこの「ジャコビニ(・ジンナー)流星 群」だったのであり、マンガ『アストロ球団』の「ジャコビニ流星 打法」も同じ流星群が元ネタだ。

ところで、秀才東大寺が天体望遠鏡を覗きながら流星群を見ているが、 本来は流星というのは全天観測、つまり空全部に目を光らせる性格の ものなので、空の一部分しか見えない望遠鏡では一晩掛かっても、 果たして流星にお目に掛かれるかどうか…。(実際は数人で見通しの イイ建物の屋上や野っぱらに寝転がってそれぞれの方角を担当する)


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