デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん じゃじゃじゃじゃーん♪


1972年9月30日放送
#12「火焔妖獣 ファイアム」
演出・鈴木 実(及部保雄) 脚本・辻 真先 作画監督・森 利夫 美術監督・福本智雄

ファイアム「アー、こっちへ倒れてくる!」

魔王ゼノンがお茶目ですばしっこいイタズラ妖獣・ファイアムを呼びつけた。 デビルマン退治と張り切るが、実はザンニンの元へ知能は犬並みだが不死身 の妖獣・アギュラーを搬送する役目だった。

アギュラーにイタズラしながらも、何とか日本までやって来たファイアム。 ケラケラ笑いながら、寄り道してコンビナートに得意能力の火を放ち、爆破する。 ザンニンの留守に到着したファイアムは、悪口を叫んで遊ぶ。が、そこへ帰ってきた ザンニンは激しく怒り、ファイアムは逃げる。

口から吐く怪波動で全てのもの破壊する能力を持つアギュラー。ザンニンは、 それを使って街を破壊する。高笑いするザンニンを見て、ファイアムは気に 入らない。

その夜、アギュラーと遊ぼうとザンニンの隠れ家に忍び込み、逃がすファイアム。 だが、烈火のごとく怒るザンニンに見つかり、折檻を受ける。その怒りが 雲に届いたのか、人間界は大荒れの台風模様。何とか逃げおおせたファイアムは、 地下鉄の工事現場に落下、そのまま明たちの周りを炎で覆う。

一緒にいたミキとタレを気絶させ、明は変身して救い出すが、その時 発した雷をザンニンが発見、アギュラーと共に襲ってくる。

アギュラーは強い。デビルマンの必殺技も跳ね返すが、唯一の弱点、 尻尾を強襲、倒すことに成功する。だが、それは魔将軍ザンニンと 勇者デビルマンの戦いのゴングだった。

「急ぐことはない、ゆるゆると殺してやる」と、ムチを振るい、敵の 全ての超能力を鏡のように跳ね返す力で、デビルマンを追い詰めていく。

そのザンニンの陰険な攻撃を見ていたファイアム。「卑怯」と怒り、 ザンニンを驚かそうと、近くの巨大なガスタンクの支柱を焼き切る。 転がる巨大タンク、その先にはミキとタレが気絶している。ザンニンの攻撃を 振り払い、駆け寄るデビルマン。爆発に巻き込まれ、深手を負うザンニン。 二人の壮絶な戦いはうやむやとなった。そしてその影で最も苦手な川の水に 消えていくファイアム。

目を覚ましたミキは上に乗って気絶する明に腹を立てるが、直後に 驚く。あたり一面は燃え盛るガス爆発に廃墟と化していたのだ。 そしてミキはまだ気付かない。自分たちを守るように明と同じポーズの デビルマンの影が、地面に横たわっているのを。

『デビルマン対魔法使いチャッピー』!当時同時期に放映していた ヒーロー&ヒロイン夢の対決だ!…とムックのデータしか知らない向きは 思うだろうが、残念。

今回見直して見て思ったのだが、このファイアム、萌え萌えの増山江威子 ヴォイスにて「デース」の語尾なんかで独特の色を放ってるように見える。 だが、視聴者目線で入れるツッコミといい、結局デビルマンに相手にされ ないまま死んでいくところといい、基本的に役立たずデーモンであるとこ ろといい、後に出てくるララの雛型ですな。

しっかし、栄光あるデーモン族もなめられたものである。このファイアム に掛かると、魔王ゼノンは「すぐ怒る人」だし、魔将軍ザンニンに至っては 「ザンニンのバカー!」である。劇中で3回も部下に「バカ」呼ばわりされた 幹部キャラも珍しかろう。「イヤなヤツ」は2回。「卑怯」が1回。 彼の人望が知れると言うものだ(笑)

そのイタズラのお陰でデビルマンはなんとかかんとか生き延びるんだけど、実は コレだけ印象的なファイアムは一方的にデビルマンを応援こそすれ、 デビルマンとは面と向かって顔も合わせなければ、会話一つ交わさず、 そもそも視界に入ったかどうかすら怪しい。画面上は、遠のく意識の中で、 デビルマンがガスタンクの倒れるのに気付くピンぼけの1カットのみ! 血も涙もない辻真先節を堪能せよ!

魔将軍はデーモンにも嫌われるイヤな管理職No.1。

雑誌「TV Bros.」にてDVD-BOX発売タイアップ・TVアニメ版デビルマン特集 をしていたが、そこで幹部デーモンの管理職品定めコーナーがあって、 やはりダントツにザンニンがトップでやなやつ扱いだった。まあ、テメエ 勝手なガキデーモン風情が言ってることなので、大人は笑って堪えるべき ところなのだが、デーモンたちはそうは行かないようで。

ファイアムの言葉を借りていこう。アギュラー搬送中に出た第一声が

 ファイアム「やだなー、アイツすぐ怒るから」

まあザンニンの側に立ってみれば、恐らく人間界に派遣されたときに 自ら手を下さず、送られるデーモンを巧く使いこなせってなもんだろ うから、自分で手の出せないイライラを部下にぶつけることもあろうと。 だが、このファイアムの弁によれば、その前からこうだったみたいね。 続いてなめられてるのが、たまたま留守にしてたばっかりに…

 ファイアム「おーい、留守ですかア…おーい!…ザンニンさまア
       ザンニン!ザンニンのバカアーッ!」

 ファイアムが何気なく振り返ると、足が…
 ザンニン 「…(静かに)もう一度言ってみろ」
 ファイアム「アラ、なんのこと?」
 ザンニン 「ごまかすなっ!」
 ファイアム「聞こえたんなら、繰り返す必要はないのデース!
         そーでショ、ネッ♪(ウインク)」
 ザンニン 「ナマイキなッ!」
 ファイアム「誰だって、ナマでイキてるんデース!」

ぐわー!ザンニンじゃなくても腹立つわ、コイツ。辛いねー。

で、結局怒り狂ったザンニン得意のムチでしばかれて、ヤケの果てにアタマに来て 人間界に火を散らすのだから、どうにもこうにも手の付けられないヤツではある。

まあしかし。

ファイアムに対する怒りは俺と共有できたよ、ザンニンくん。てなところで、 それ以外は比較的ザンニン機嫌がいい。なんたって、デーモン族でも一二を争う 不死身のデーモン・アギュラーを使いこなせるのが上機嫌。手も触れず 怪波動(に見えるのよ、劇中では)でビルもタワーもジャンボも粉々。 前回なんて名前しか出なかった分、今回は嬉々としているカンジ。

その上、今回は初の勇者・デビルマンとの対戦まである。で、ザンニンが 尻尾ムチ振り回すばかりで、ヒステリックに声のでかい管理職なだけじゃ なくて、敵の超能力をことごとく鏡のように跳ね返す恐怖の能力の持ち主で あることも披露、デビルマンを翻弄する。

この辺りの展開は堂々としていて、初めて「魔将軍」らしい感じがする。 「急ぐことはない、ゆるゆると殺してやる」 なんて、ステキじゃないですか、アナタ。腕をムチに絡めとられ、 デビルアローはそっくり跳ね返され、デビルマン絶体絶命!

 ファイアム「デビルマン、だらしないわねエ…」

お前に言われたないわッ!その上「だってあたしもデビルマン・ファンよ♪」 じゃねーよこのロリロリデーモン!…おっと、デビルマンが妙計を 働かせたぞ!

 デビルマン「デビルカッター!」
 ザンニン 「ムダだムダだ!」
 デビルカッターがザンニンの胸の中でカーブし、デビルマンに向かう
 デビルマンの腕に絡まった、ザンニンのムチを切る
 デビルマン「ハハハ!まんざらムダでもなかったな!」

かっこいい!こういうケレン味溢れるセリフの応酬こそドラマの醍醐味! だが、形成を逆転しようとするデビルマンの変身前に受けた膝の傷が 痛み、地面へ倒れ、再びザンニンのムチが唸る!

勝つためでなくいたぶるために。ここいらは戦いを楽しむ デーモン族としては至福なんだろうなあ。「血を残らず絞り取ってやる!」 …いや、気長な人じゃないか。

なんてやってる中、ファイアム、デーモン族のクセして

 ファイアム「汚いわ!ケガ人を追い回して魔将軍もないものだわ」

いやそれは、あんたらの憎む人間どものセリフだろって。 結局「イタズラ心」でタンクを方向も分からず倒し、ザンニンを爆発に 巻き込むワケで、コレは送り込んだゼノンにも責任があるだろう。 更にそれがデビルマンの脱出するスキを生んでしまうワケで、ケガまでした ザンニン、哀れですらある。うん。

いや、多分ガキの時分ならファイアムに感情移入して、とかく管理職 キライ・権威キライの辻脚本に共鳴するわけだけど、この年となっては、 オトナは辛いよ…ってカンジが深くしてしまうなあ。 まあ結果的にイタズラの限りを尽くしたファイアムも、誰にも知られず 死んでいくわけで、因果は巡るというか。親の顔は見たかったというか。

で、ファイアムの印象が余りに強くて、忘れがちだが主役はデビルマン。

明は今回、非常にマイペースだ。まずは学校にまでマクラ持ち込んで 居眠り。ココの展開は、脚本の要請に恐らく理想的に演出・作画が 答えた稀有な例じゃなかろうか。

 アルフォンヌ「抽象的かぁつぅ、哲学的な…ぬう…
          つまりエラそーな言葉で表現するとぉー」

なんてまた辻氏らしいいかにも権威なきオトナ口調で授業中、 居眠りする明に業を煮やしたアルフォンヌが、仕返しを思いつく。
・アルフォンヌの手元、こよりを作り出す
・画面円形ワイプ、アルの予想図の中の明。
・こよりを鼻の穴に入れられ、くしゃみで目を覚ますはず…
予想図内の明がくしゃみ寸前になったところで、「ドカーン!」と 爆発音、学校が揺れ、窓が割れる!教室一同が倒れた中、ノンキに 明が「良く寝た」とばかりに起きる。勢いよく窓をあけ、芸も細かく ガラス片がさらに落ちるがもちろん明は気にしない。

 明 「お、燃えてる!景気イイじゃん!」

ファイアムのイタズラで、コンビナート大火災。しかし別に「デーモン の仕業では…」とか思いつかない辺り、誠にいつもの明クンである。 この深刻ぶらない調子が、『デビルマン』なんだよなあ。

白眉なのは、ラスト。気絶した明と同じポーズで、巨大なデビルマンの 影が残ってる、てのは39話通しても1、2位を争うベストカットである。 『妖怪人間ベム』で、ラストに歩き去る3匹の影だけが残るのに匹敵する、 ドラマチックな絵だ。しかも気がついたミキは恐らく周囲の廃墟に目を 奪われている上、そもそもこの巨大な影に気付く鳥の目線を持ってないから、 この事実に気付きはしないのである。コレに唸らずしてどうする!

ソコに流れる、哀愁を帯びた主題歌アレンジ・フルート(?)の音が 泣かせますなあ。

森作監はいい!やっぱりいい!

今回の作画監督は、なびく髪描かせたら天下一品の森 利夫氏。物語 中盤の怒りのザンニンが起こした台風(?)の中、登校する明たち。 もう台風日本一かという雰囲気のいいなびきようである。

また変身後では、「コレはアギュラーの仕業だな」とつぶやき、場所の辺りを つけるため自動車を天にほおる。そして見極めた後、背中の赤い線がバリバリと 光り(コレは珍しいパターン)、デビルウィング!水泳高飛び込みの選手が 描く体の前面に弧を描いた、絶妙のフォルムを非常に難易度の高い角度から 見事に描き出している。これは必見ですぞ。

さらにさらに、アギュラーをデビルチョップで倒し、ザンニンと対峙した ところのモノローグ。

 デビルマン「ついに現れたかザンニン!魔将軍と恐れられるヤツの武器は何だ!」

このセリフに乗るデビルマンの左斜め45度の顔がいい!鉛筆の荒いタッチで ガシガシと付けられた影がいい!緊張が高まる。

 デビルマン「油断するなよ、デビルマン。お前のであった最大の敵に」
 ザンニン 「スキあり!」

見事な軌跡を描いて繰り出されるザンニンのムチがデビルマンを襲う! いやー、この緊張感の後の開放は、ベタとはいえ、やっぱし泣かせますねえ。

さて、てなわけで、女性デーモン+ミキ受難編、及びザンニンの魔手が迫る 展開は次回にも続く!


[デビルマンTOP]

[TOP]