デビルマン鑑賞。
ちゃらっちゃちゃちゃー どん ちゃちゃちゃちゃー♪


1972年7月8日放送
#1「悪魔族復活」
演出・勝間田具治 脚本・辻 真先 作画監督・小松原一男 美術監督・福本智雄

明「それが俺にだって わからねーんだ!」

ヒマラヤ山脈の氷の底から魔王ゼノンの指揮の下、悪魔・デーモン族が蘇った!

同じ頃たまたま父とともに観光に来ていた不動明は、デーモン族の妖獣・デビルマン、 フェイラス、ダルミの餌食となり殺される。3デーモン死闘の末、勝ち残ったデビルマンは、 不動明を宿り木にして人間界征服の尖兵として人間界へ。

天涯孤独となった少年として父の友人・牧村家にまんまと潜入したデビルマンだが、 そこで出会った少女・牧村美樹にひとめぼれ。何となく甘酸っぱい生活を満喫していた デビルマンの前に、業を煮やしたゼノンから妖怪ヘンゲが送り込まれる。

千変万化、あらゆるものに姿を変えるヘンゲは、デビルマンに改めて任務を説くが、 美樹に心奪われたデビルマンは聞く耳を持たない。そこでヘンゲは原因である牧村家を 襲い、美樹を盾にデビルマンへ服従を迫るが、デビルマンの逆襲の前に倒される。

一夜明け、帰って来た明に「怖かった」とすがる美樹。その姿を見て、「美樹を守る ためにデーモン族と闘い続ける」コトを誓うデビルマンだった。

というわけで、そのシリーズの「全てが詰まった」第1話であるっ!もはや語られ尽くした 感があるが、この作品の基本要素「敵国の女に惚れた兵士が味方に刃を抜く話」がぬかり なく織り込まれている素晴らしいプロットだ。が、それはあくまでフォーマットの話。

その道具立てとして、「なぜ悪魔か」ということをつらつら考える。そもそも、この作品 の前に東映動画が作っていた『ゲゲゲの鬼太郎』(1971年カラー版)が直接のベースと 考えられる。1970年頃の妖怪ブームの最先鋒であり、スタッフもかなり重なってるし。 様々に趣向を凝らされた毎回の妖怪たち。彼らに隠喩された人間の醜さや社会問題は、 同じ妖怪である鬼太郎に倒されていく。

だが、なぜ鬼太郎は人間の味方なのか。それはたまたま鬼太郎が人なつっこい妖怪だから、 (ハーフだっていう理由もあるが)という動機付けでしかなく、それゆえに妖怪同士の戦い に人間が巻き込まれるだけだったり、場合によっては退治しないままということも往々にし て起こっていたわけで、「ヒーローもの」としてのカタルシスは否定せざるをえない場合も あったわけだ。

そこで「ヒーロー」の再設定である。主人公に明確に人間を守る理由を加え、しかも毎度 魅力的な妖怪変化が登場、怪奇ヒーローアニメとして新機軸!それが『デビルマン』という 位置付けになる。『タイガーマスク』のようなシャープなビジュアル、「妖怪」と呼ばず、 西洋的に「デーモン」と呼ばれる敵のスマートさ、何よりも子供である(原作との云々は 言うなよ)鬼太郎には無かった主人公のストレートな恋愛。一方で『鬼太郎』の持つ、土俗的 な妖怪の魅力や、自然と文明との相克などは落ちてしまったものの、天下国家を語らない等身大 な空気ができたと言えるだろう。

さて、その1話の内容であるが。

登校風景を見つめ、しみじみ語る牧村夫妻。 「以前はか弱い子だったのに、あの事件以来人が変わったみたいに元気に なったねえ…」ヒトですらなくなってます。ご注意(笑)。

他でもない「永井豪らしさ」を出そうとしているのが、 不動明がデビルマンになったことを象徴するために作られた学園シーン。当時としては なにしろ『ハレンチ学園』の豪ちゃん、つーわけで通学からして当時の不良の定番・ バイクである。ただ、辻脚本が豪ちゃん節のトレースを思い入れ込めてしているのに対し、 演出の思惑は、それに倍加して、右往左往するオトナの情けなさを加えている。

美樹ちゃんと2ケツしつつアルフォンヌ先生(無論『キッカイくん』の アルフォンヌ・ルイ・シュタインベック3世、シナリオではしっかり名乗っている) をまずはいたぶる。

朝寝坊した上に朝メシ5杯も食べたので遅刻したノダ 泣きの涙でヘイ、タクシー  ヘイヘイタクシー ヘイタクシー …留まらないノダ…

(この時の声・永井一郎のアドリブも素晴らしいぞ。 コレ、シナリオでは原作『キッカイくん』に準じて堂々と歩いてたりして貴族然と した悠然さ(しかし見た目は情けない)という風情を豪ちゃんファンの辻らしく 出しているのだが、演出の勝間田によって汗カキカキ、大慌てとなっている。) なんて焦っているアルフォンヌをバイクで激しく歩道橋の上に追い立てた挙句、 トラックの荷台に突き落として、1時間目はお休み、と。

さらに学校での明の不良っぷりを出すために秀才・東大寺入郎と不動明の言い争い のシーン。しかしここでも二人の論点つーヤツは「弱い先生を守ってあげよう」と 言う東大寺と気にくわねえ、という明。こちらはシナリオどおり。

不動明=デビルマンとしては、人間のオトナをいたぶり倒す、という点で至極当然 の振る舞いをしているだけなのだが、東大寺も「先生を守るのは義務」などという 妙にクールな目線なのが、ヒネられてはいる。 まあどちらにしてもオトナの弱さ情けなさ、というものを打ち出し、子供たちの方が しっかり冷静に見ているとする視点は脚本・演出ともにしっかり方針として定めて いるのだ。コレが後々まで一貫している。

この後明は、ケンカの間に割って入った美樹の平手を喰い、どうしたら いいか分からなくなり学校を飛び出す。そこで千変万化の妖怪ヘンゲが出現。この ヘンゲがまた「オトナのふざけた感性」まるだしのデーモンだったりする。

以下ヘンゲの変身を箇条書きにしつつ語ってみよう。

(1)トンネル
明がバイクでぶっ飛ばしているとトンネルに入る。トンネルそのものがヘンゲ。 バイクのタイヤをいきなり掴み上げ倒す。

(2)トカゲ(シナリオではカメレオン)
倒れたバイク、明が気づくとただの空き地。傍らの土管にいる小さなトカゲが 語りかけてくる。

ヘンゲ「人の世に撒き散らす呪いを忘れ、何を遊び呆けている!」
デビルマン「それが俺にだって わからねーんだ!」

これがこの作品である。別にデビルマン自身、一大決心してデーモン族を裏切った わけでなく、いわばかわいい子にふらふらと見とれている内に、「裏切り者」と 決め付けられたに過ぎない。それはデビルマン個人の都合でなく、デーモン族 の決め事である。

もちろんデビルマン聞く耳持たず、バイクで泥跳ね上げて去って行く。 その泥を顔に受けたヘンゲ、思わず「オノレ、よくもワシの顔に泥を塗りおった!」 無論コレは泥が顔にかぶった事実以外に、せっかく粛清せず話で解決しようと してやったのに、その自分の懐の深さをみすみす台無しにしてハジをかかせた、という ヘンゲのプライドをも表す。さらにコレ以降、どこで勉強したんだこのオヤジ、つーく らい慣用句を良く使うのだ。

(3)木
木に化けて密かにイチャつく明とミキを見ながら、怒るヘンゲ。
「完全に人間にハナ毛を抜かれおったか!」…そういう意味。勉強になるネ!

(4)鏡
デビルマンの裏切りはミキによるものだと気づいたヘンゲは牧村家に。 まずはタレちゃんが餌食になる。覗き込んだ鏡の中のタレちゃんの姿は 化け物になり、襲ってくる。(シナリオでは惨死するのだが流石に割愛) 続いて覗いた美樹にも襲い掛かり、竜巻となり風呂へ。

(5)フロの湯
叫び声を聴いて慌てて風呂を見た明は「あ、失礼」。くすぐりも忘れず 展開していく。フロの湯はそのままミキたちを巻き上げ廊下へ。余談だが、 この風呂シーンがインスパイアして後のマンガ『デビルマン』のゲルマ ー編に繋がったのではないか、と見るが…?

(6)本棚
(7)壁のモナ・リザの絵
(8)インク〜赤い怪物
(9)蛇
(10)広げられ羽ばたく本
(11)ハト時計(テーブルの足)
(12)シャンデリア〜蜘蛛

とにかくこのシーンはイメージの大風呂敷大イリュージョン。中でも部屋のシャン デリアの電球が静かにパリン、パリン、と割れつつ、そこから蜘蛛が吊り下がって くる、というのはかなり気色悪い。

(13)象の置物〜巨大化し、象の化け物に
コレ、シナリオだと普賢菩薩像が守護神獣の象に化けるという考えオチに なってるのだが、それは流石にヘンゲさん、人間社会勉強しすぎ(笑)余談。ケイブンシャ 『全怪獣怪人大百科』ではヘンゲの紹介イラストとしてこの姿を使っていて、 子供心に「違う」と思ったものだ。

ヘンゲは家を破壊し、ミキを人質に取り、デビルマン明に「裏切り者」と迫る。

明「裏切った覚えはねえ!」
ヘンゲ「キサマいつ人間に白旗を上げた!(またまた慣用句)!」
明「降参した覚えはねえ、特別なんだ、ミキは!」

牧村一家が気絶したチャンスで明はデビルマンに変身。この回のみ、脚本表記に 従い、「ディービール!」と叫ぶ。「ディ」が「デイ」になってるのはご愛嬌。 (ちなみにこの回にくっついてる2話の予告では既に「デ〜ビィィィィィル!」に。 変更したのは田中亮一?監督?録音監督?いずれにせよしっくり来なかったのね)

(14)『魔王ダンテ』で宇津木涼が見た夢の中の悪魔
冒頭のデーモン戦でも出していたが、飛行目的でのデビルウイング、正式なお披露目。 そのために飛行形態にヘンゲも変身するのだ。シナリオだと白鷲なんだが、コレは 演出のお遊び?

(15)三つ首蛇
ヘンゲ自身、「真の姿」と言っているのでコレが本性なんでしょう。 必殺技・デビルビームの餌食となる。シナリオではこの後、飛散したヘンゲの 一部が先に現れたトカゲ(カメレオン)の姿に。実は本性は卑小だったというオチ なのね。

つまるところ、その卑小さこそ、デビルマンの裏テーマを内包している。 慣用句を良く使い、決まりきった仕組みを理不尽に押し付けてくる「権威」 がヘンゲなのだ。それは辻真先が憎むところの教師であり、上司であり、 硬直した「大人社会」のシステムそのものである。様々な老獪な技こそ披露 するが、実はそういった皮の下にちっぽけなメンタリティしかない、という 理屈。そう考えると「本性はトカゲ」、活かして欲しかった気がするなあ。

朝帰りの明。ミキが心配げに現れる。が、ミキという子はソレをキンキン 責めたてるしか出来ない子なのね。で、「おいおい、またひっぱたくの?」 と明。そこでミキの緊張が解けて、「怖かったのよ!どこにも行かないで、 アタシのそばにいて!」…コレが明の惚れた所以。

「いつまでもお前のそばにいて、デーモン族から守ってやる!」

くどいようだが、ミキのため。「正義のヒーロー」じゃねーよな(褒)。


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