町のサクラと比べ、三〜四週間は遅い我が家のヤマザクラの花びらが風に舞う頃になると、もう春の真っただ中。鮮やかな新緑を背景に、濃い桃色のヤマツツジの花が賑やかに咲き競い、コナラの幼い葉が銀色に輝く。柔らかな陽光に溢れた、雑木林ならではの春景色が広がる。
ご近所の"名人"につれられて、本格的な山菜狩りに出かけた。いつもは、自宅近くの雑木林で散歩がてらに採る程度。夫婦二人だけで旬の味覚を味わうのは、それだけでも十分なのだが。
妻は"山菜狩りグッズ"と称して、ゴム長靴や日よけ帽子、革の作業手袋などを買ってきて用意万端。早朝5時前に自宅を出る。名人夫妻と、ご近所の七十過ぎのおばあちゃん、そして僕らの五人。県境の目的地に向かう。
田園風景を長めながら、小一時間ほど走る。突然、脇道に入った。車では無理そうな細い山道。四輪駆動車とはいえ、ちょっと不安がよぎる。先導の名人は普通
のワゴン車だが委細かまわずどんどんと山の中に入ってゆく。地理に詳しくなければ絶対に入らないような場所だ。沢のわきのスペースに車を止める。装備を固めて、いざ出発。まともに道もないような急斜面
の山肌を登る。
名人に「ほら、そこにあるべ〜」といわれても、なかなか見つけられない。しばらくすると目が慣れてきたのか、目指す山菜がわかるようになった。白く細い木の先にきれいな茎と葉を見せるのがコシアブラ(地元ではシロキと呼ぶ)、とげとげの棒の先にはお馴染みのタラノメ。日のあたる斜面
には、ワラビが顔を出している。
ふだんの運動不足がたたって、途中で息が上がってしまった。ふと仰ぎ見れば、爽やかな青空に、美しい新緑直前の山々。いくえにも重なる薄紫のシルエット。まさに、極上のひととき。
山菜狩りの後、名人宅で、お茶をご馳走になる。おばあちゃんに「疲れたのかい」と笑われてしまったが、こうして地元の人との付き合いが広がるのが、なんともうれしい春の一日だった。
(04.05.09掲載)

