山ゆりがいちめんに咲いた。雑木林の緑の中で、白い大きな花がいかにも重た気にこうべを垂れている。ヒグラシも鳴き始めた。いつもの年なら夏到来!といえるのだが、今年は梅雨が明ける気配すら感じられがない。
このところの週末の楽しみは、近隣の立ち寄り温泉めぐり。もともと栃木は温泉の多い土地柄、しかも我が家は塩原と那須の中間にあるので、車で30分も走れば何かしらの温泉がある。
開湯1300年といわれる那須湯本の「鹿の湯」に出かけた。硫黄の臭いが鼻をつく。川沿いの湯治場然とした木造の建物が、小雨まじりのひんやりとした空気の中で独特の趣をかもし出していた。
正方形の木の湯舟が六つ。ほの青い乳白色の湯を満たし迎えてくれる。
さっそく入浴。しかし思ったよりぬるい。が、よ〜く湯殿を見渡すと、湯気に煙って見にくいが、それぞれの湯舟の温度が書いてある。手前から41℃、42℃、43℃…。順番に浸かってみる。少し熱めだが、44℃の湯加減が僕には心地いい。46℃になるともう相当に熱い。それでもなんとか2〜3分は入っていられる。さらに上が48℃。熱い!なんてものではない。足がしびれて5秒ももたずに湯舟から飛び出す。
そんな高温でも、砂時計をかたわらに身じろぎもせずに浸かっているお年寄りもいるから驚く。
よほど人気があるようで、入浴客が引きも切らない。 そして必ずといっていいほど、
いちばん熱い湯舟に向かう。そっと手を入れて温度を確かめる。いっしゅん驚き顔。しかしすぐ平静を装ってまわりを見渡す。「なんでこんな熱湯に平然と入っているのだろう…」と。
熱すぎて誰も入っていないからなのだが、人間の心理とは面白い。先客はその反応を見てニヤリとしている。
出たり入ったりをくり返し、のんびりと温泉入浴を堪能する。極楽、極楽。ますます病みつきになりそうだ。
湯上がりの曇り空はこころなしか明るく輝いて見えた。夏の訪れは近い。
(03.08.02掲載)

