コアジサイの淡い薄紫の花が咲く時期になると、勤め先のある東京は、上着を着るのも億劫なほどに、蒸し暑く鬱陶しい日が続く。
それでも、那須塩原に逃げ帰ってくれば、ひんやりと心地よい春の空気がまだ少し残っている。新幹線を降り立てば、仕事のストレスで発熱した身体がすーっと冷めていくのを感じる
。
梅雨の走りのこぬか雨に濡れた木立は、いつもよりしっとりと、疲れた心を癒してくれるようだ。
都会暮しの日常ではこんなにゆっくり緑の風景に浸ることはなかった。なにかに追われるようにアスファルトの道を歩き、ビルの谷間を走り抜けて来たような気がする。
雨の休日は、お気に入りのCDを聞きながら、ぼんやりと庭の若葉を眺める…。なんと贅沢なことか。
「庭」といっても、いわゆる流行りのガーデニングのように、着飾ったものでは、ここに引越して来た意味はない。
雑木林を切り開いて建てた家のまわりには、自生していたヤマザクラ、コナラ、ヤマツツジをはじめ、タラノメ、コシアブラなどの山菜、名も知らぬ
雑木、雑草まで、ほとんどそのままに残っている。
かといって、何もせずにただ自然に任せているのではない。端からどう見えるかはともかく、ナチュラルなイメージを壊さないように気を配りつつ、それなりに手をかけているのだ。
剪定用の鋏や鋸を買い込み、ちょっとした植木屋気分で、かたちの悪い枝を払ったり、ヒコ生えを切ったり。花後の剪定や大掛かりな移植など、立ち木の係りは僕。それ以外は妻の担当だ。
暇を見つけてはその辺りの草木の植えかえや、草むしりをしている。何気ない雑草にも、彼女なりの選定基準がある(らしい)。うかつに引き抜こうものなら、「可愛い花が咲くから残しておいたのに〜」と非難の声が飛ぶ。いささか過剰繁殖と思えるフキも、いつの間にか妻が移植したものだ。風が運んでくるのか、新顔の雑草も
毎年増えていく。
かくて、雑木林の風景にひっそりと溶け込んだ、見事な?庭が出来上がる。 僕らはそれを、ナチュラルガーデニングと呼ぶ。
(03.06.22掲載)

