雑木林に住みたいと、妻と二人で那須塩原に移り住んで三度目の春がめぐってきた。東京はもう初夏のような陽気だというのに、朝晩は肌寒いほどに冷え込む。それでも日一日と新緑の密度が濃くなってゆく。木々がいっせいに芽を吹き、羽毛のような幼い葉を白く輝かせている。我が家をとり囲むヤマツツジも濃桃色の衣装をまとい、本格的な春の訪れを演出してくれる。
田舎暮しといっても勤めは東京。流行りのリゾート&遠距離通勤というやつだ。刺激と安らぎ、喧噪と静寂、都会と田舎のいいとこどりをして、日々を楽しんでいる。
今では新幹線通勤にもすっかり慣れたが、通い始めた当初は、高揚した気分とは裏腹に、なにかとストレスを感じる日々だった。なにしろ一本遅れたら30分から一時間も待たなくてはいけない。都会では来た電車に何も考えずに乗るだけの生活だったから、その落差は大きい。また、往復にかかる時間を有効に使おうと、ノートパソコンを持ち込んで、仕事だ、趣味だと張り切っていたが、わずか二ヶ月でギブアップ。移動距離160kmというのは、それなりに疲れるものだ。今では仮眠と読書、時には熟睡。ONとOFFの切り替えのためのインターバルになっている。
6時起床。ゆっくり食事をして家を出る。いつも利用するのは7時28分始発の新幹線「MAXなすの242」。二両目の一階11E。これが僕の指定席。同じ車両での通
勤者は何人かいるが、暗黙のうちのそれぞれの座席が決まっている。
帰りは、上野発20時26分で那須塩原到着が21時37分。22時少し前には帰宅できる。終電は上野発22時52分だから夜の付き合いにも支障はないし、遅い時間帯になると全てが那須塩原終点なので、飲み過ぎて乗り過ごす心配はまったくない。
妻が迎えに来ている。「ただいま」、「お帰りなさい」。車のなかでその日の出来事を話しながら走る。やがて、真っ暗な牧草地の向こうに我が家の明かりが見えてきた。小さいけれど暖かい光。エンジンを切る。静寂。ONからOFFに切り替わった瞬間だ。
(03.05.11掲載)
遠距離通勤の日々
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