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題名 |
黄色い部屋の秘密 ニヤリの月と散り散りの森 |
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出演者 |
渡辺えり子・菅野久夫・新谷一洋・中進・白石禎 稲垣広貴・豊川悦史・竹内久美・柴田みどり・山本ちひろ 藤堂貴也・佐々木充・小野正隆・宍戸久一郎・湯浅実 |
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作 |
渡辺えり子 |
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演出 |
渡辺えり子 |
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作曲 |
黒崎達一郎 |
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美術 |
松野潤 |
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照明 |
森田三郎 中川隆一 |
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音響 |
原島正治(囃組) |
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舞台監督 |
武川喜俊 藤田秀治 |
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宣伝美術 |
上野紀子 |
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宣伝デザイン |
サンルーフ |
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製作 |
プリティペア 小栗弘子 |
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惹句・挨拶 |
(戯曲の冒頭部分を掲載) |
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その他・ |
最初のべ−ジ 渡辺えり子 気が付くと、昔良く通った古い映画館の前にいた。もうそこばだいぶ前に閉鎖されていて、何枚かのボスターが、かろうじてベラリと壁にひっついている。幕の前には、映画の代りに、詩を書く少女が立っていて、立ったまま肉をちぎっているのである。私があたふたしながらその肉片を拾い集め、少女の骨にくっつけようとした途端、その映画は始まった。映写機のない映画館で、書かれなかったお話が、もう映し出されていたのである。 渉 こんなに雨が降ってるっていうのに、街灯はともったままだ。しかも誰かがバイオリンを弾いている。雨と街灯とバイオリン、どれに惚れたらいいのか判らないじやないか。誰かが仕組んだ事なんだきっと。何かが終った事を告げるために、始まりまでの時の窪みを、誰かが恍惚で埋めたんだ。‐‐街灯の下の少女に気付き--どうしたんです?あなたは…… カツ子 詩を書いているんです。 渉 こんなところで、ずぶ濡れで? カツ子 ええ。 渉 あなたは詩人かい? カツ子 そう詩人です。いえ、死人といってもいいかも知れません。 渉 詩人はシニンと読むのかい? カツ子 生きてゆくより詩を書く方を選んだのです。 渉 あなたの詩を、見せてはくれませんか? カツ子 それができるくらいなら、生きる事をやめたりはいたしません。 渉 えっ? カツ子 それができたら、あたしはきっと生きていられた。 渉 それならあなたは誰なんだい?私の前にそんな風に立っているあなたは? カツ子 中味です。 渉 何だって? カツ子 あなたにあたしが見えるのだとしたら、これがあたしの書いたものです。 渉 それでは、ぺ−ジをめくるかわりに、この手で、あなたの涼やかな首を、この手でいっそ締めてみようか。そうすりゃ、今見えていたものが、この手の中にすっぽりと、私だけのものになる。 カツ子 二度死ぬ事はできません。 渉 なぜだい?ページをめくるそのつどに、詩人は死んでいくのでしょ?幾千幾万の指がぺ−ジをめくり終えるまで、あなたは気が遠くなるほどの数だけ死に、読者の数が増える度、その死の数も増えて行く。死んで死んで、けっして死にきる事のない、寄せては返す波のような時を、あなたは持っているのでしょ? カツ子 だってあなたは、あたじの初めての読者よ。 渉 だからあなたを締めるのです。海に映った満天の星を、底の抜けたひゃくしですくうのです。映った星なら、ホラ、ひゃくしの中にもひとつ、きちんと私だけのものになる。誰のものでもないあなたが、私の両目に今いるように。私はこの手で締めてやる。 カツ子 可哀そうに、あなたの手の方が痛いでしょうに。
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