33　お多佳さん　

	12月10日ＮＨＫＢＳ「漱石悶々　夏目漱石最後の恋　京都祇園の二十九日間」というドラマがありました。これは漱石12月9日没後百年記念番組で、豊川悦司が漱石を、祇園の女将を宮沢りえが演じました。 少しコミカルな番組でした。かって父・薮田嘉一郎の雑誌「東京と京都」（1962.10号・白川書院刊）の鴨東昔話�Cの文のなかに、お多佳さんとの出会いが書いてありましたのでここに載せておきます。また書棚に谷崎潤一郎の「磯田多佳女のこと」（全国書房版1947.9　本紙・和紙袋とじ、彩色口絵という素晴らしい本）も見つかったので併せて紹介します。なお多佳さんの料亭「大友」の跡に立つ吉井勇の「かにかくに・・」碑拓本を「拓本｝ＨＰに掲載します。なお私が生まれる前までは我が家は祇園富長町に住んでいました。 写真1　ドラマの宮沢りえのお多佳さんが大友の提灯に火を入れる。 写真２　夏目漱石の色紙「木屋町に宿をとりて川向の御多佳さんに　春の川を隔手ゝ男女かな」（谷崎本から。この部分がドラマに・なおこの碑もあります） 写真３　谷崎潤一郎著「磯田多佳女のこと」 写真４　多佳女の部屋（前著の挿絵）　吉井勇がこの情景を歌に。そして今この場所に碑が立ち、毎年１１月８日「かにかく祭」が行われ舞妓さんが献花します。これは吉井勇に対してより、かって文芸芸者といわれたお多佳さんへの後輩たちの追悼でしょうね。 「鴨東昔話�C」（途中より）  戦争の末期に北岸、即ち新橋通南側のお茶屋さんは強制疎開で潰され、戦後には道路となった。今日ではまた別趣の景観をなし捨て難いが、私は昔の風景の方が好きである。この漬されたお茶屋さんの一つに大友さんがあった。今、そのあとに吉井勇の「かにかくに祇園は恋し」の歌碑が据えられている。大友は磯田お多佳さんの経営であった。お多佳さんについては谷崎潤一郎氏や吉井勇氏の書かれたものがあるから賛しないが母の先輩であり、友人であり、母はお多佳さんを敬愛していた。私はお多佳さんの嗣子又一郎画伯とは小学校が一しょで、われわれは又一郎さんを「小ぽんちゃん」と呼んで親しんでいたが、お多佳さんとは面語したことがなかった。ところが昭和四年（1929）のことでなかったかと思うが、はからず島文次郎先生のお宅でお会いした。華水島先生はそのころ京都大学名誉教授で、銀閣寺南隣の広大な地所に小じんまりした家を建てて住まわれていた。先生は元来英文学者であったが、なかなかの粋人で、かねて知遇を賜わっていた母は私に先生の御薫陶をうけるように申付けたので、私ほ或る期間しげく先生のお宅にお邪魔した。今でもその道の書を手離さない、英国流フォーク・ロア（民俗学）を教えて頂いたのもその席に於てであった。先生ほ粋人であったが故にお多佳さんとおなじみだつたのだが、またお多佳さんの頼み人岡本橘仙さんの友人でもあったので、よけい親しかったのであろう。橘仙さんは三条小橋西入の万家という旅館の旦那さんで、高雅な文芸趣味を特たれた。晩年、小沢蘆庵を追慕してか岡崎に隠栖し、悠々自適の生活を楽しまれた。私のくだらぬ随筆がお目にとまり、ほめて頂いたということで、恐縮している。 　私は、その日が八月十五夜か九月十三夜か忘れたが、とにかく名月にあたると知らないで、島先生のお宅におったが、夕方、訪れた婦人がある。それがお多佳さんで、今夜は名月だから月待山から上る月を見せて貫いに来たとのことであった。東山殿足利義政は「わが庵は月待山の麓」と詠んだが、島先生の山荘も銀閣寺に接しているのであるからやはり月待山の麓で、庭前に山の姿がある。お多佳さん御自身の家がすでに名月風景中のものであるのにわざわざと思ったか、いくら好風景中にあっても自分ではあまりそれを感じるものでなく、他に好風景をもとめるのは人情で、それで東山時代からの月の名所にあこがれ出でられたのであろうと、その風流に感じ入った。島先生は大喜びで、お邪魔だから帰るという私をむりに引とめ、三人で月見をすることになった。庭にはわびた大きい泉水があって、鯉がときどきはね上って鈍い音をたてた。先生は「薮田君はあの鯉をとって食おうと言っているよ」と無風流なことをわざと言って笑われる。日が暮れて、今まっくろな山塊となった月待山の一角から、吐き出されたように、月がぬっと出た。出るなり、お多佳さんは、それではおいとましましょう、と言われた。その退きぎわの鮮やなことといったらない。さすがと感嘆し、お供をいたしましょうと、私も辞去した。帰途、いろいろお話をうかがったようだか、それはすで記憶にない。  （お多佳さんは１９４５年に亡くなっているので、この話はお多佳さん５０歳のとき、父が２５歳、漱石が出逢ったのは１９１５年、お多佳さん３５歳くらい、谷崎潤一郎があっているのはそのあとくらい。谷崎潤一郎によれば、お多佳さんは色黒で、あまり化粧もしていなかったが、目が利発で才気が出てるように思ったそうです）

32　桂山荘考　（桂離宮）　　藪田嘉一郎遺稿　桂離宮写真（掛軸と屏風）

「茶道雑誌」昭和２５年６月号（1950）に掲載された論文です。本年１０月１２日桂離宮に寄せてもらったことで、父の遺稿をここに掲載しました。桂離宮に関しては景観や庭園、建物、室内装飾に重きが置かれ、どうしてこのような離宮を作ったかの論が少ないと思いここに巻頭と結論を載せました。機会があれば全文掲載したいと思います。少し読みにくいものですがお許しください。 なお「茶道雑誌」は表千家の雑誌で、河原書店が発行元です。しかし発行者の河原さんは亡くなり、今は別会社になっています。

31　大文字　藪田嘉一郎説

今宵は大文字送り火　今から５８年前　京都のロータリークラブで講演したものを3年後、「月刊 東京と京都」128号（昭和38年8月1日発行・白川書院） に掲載した文章を掲載します。父はいつも新説・異説をするのが特徴で、人によっては奇説などと言われてもいました。でもいまでも斬新ではないでしょうか。

30　竹内栖鳳邸

京都東山八坂の塔の北に竹内栖鳳邸があります。 1864年生まれの近代日本画の先駆者で、明治から昭和にかけて京都画壇を代表する画家。第1回文化勲章受章者。 動物を描けば、その匂いまで描くといわれた達人。 猫や獅子で有名です。兎もありました。弟子には上村松園、西山翠嶂、西村五雲、土田麦僊、小野竹喬、池田遙邨、橋本関雪などすごいですね。宮尾登美子の「序の舞」にも師としてでてきます。「猫」は名古屋の私の受講生の作品、すべて京縫いであらわされています。教室では周りの額を製作しました。東山祇園の霊山観音途中の栖鳳邸、今は結婚式場等を経営するSODOのレストランになっています。
千坪以上ある邸内には数棟の建物が立ち、かって画室であったところがレストランとして使われています。なお数点の栖鳳作品も展示してあります。今思うに大家の画家って凄いですよね
西には八坂の塔が見えて、夕日に沈むところが素敵でした。なお嵐山には霞中庵という住まいもあったのですが今は竹内栖鳳記念館となっていますが会員制で観られません。（2016.8.8）

29　山口蓬春邸

		葉山にある山口蓬春記念館を訪れました。実は鎌倉の鶴岡八幡宮にあった横浜近代美術館が今年の3月で閉館し、いまは葉山のみとなり、訪れたのですが休館だったので、向かいの山口蓬春記念美術館に変更。細い緑の径を登ると記念館にでます。とっても素敵なロケーションです。 山口蓬春は1893年〜1971年の　日本画家で北海道生まれ。画風は西欧絵画の日本的表現。戦後は葉山に画室を構え、絵を描きました。この家は愛用のライカを売って手に入れたとか。設計は吉田五十八です。五十八は数寄屋つくりを近代化したことで有名、代表作はかっての歌舞伎座や大和文化館があります。 画室は開放的で、樹々を通して海が見えたのでしょう。

28　観心寺

4月10日史迹美術同攷会例会「河内・・・」無事終了しました。天候もよく桜も少し残る見学会でした。 残念ながら観心寺の秘仏・如意輪観音の御開廟は17日でしたので改めて一人で寄せてもらいました。 観心寺は高野山真言宗。本尊は如意輪観音、開基は実恵。伝承では文武天皇・大宝元年（701）、役小角（役行者）が開創、大同3年（808）、空海がこの地を訪れ、北斗七星を勧請。「星塚」が現在も境内に残ります 弘仁6年（815）、空海は再度この地を訪れ、自ら如意輪観音像を刻んで安置し、「観心寺」の寺号を与えたといわれます。観心寺の実質的な開基は、空海の一番弟子にあたる実恵。『観心寺縁起資材帳』（国宝）などによると天長4年（827）、実恵の意を受け、弟子の真紹が造営を始めました。以後、国家安泰と厄除の祈願寺として、また高野山と奈良・京都の中宿として発展。中世、後醍醐天皇は当寺を厚く信任され、建武新政後(1334年頃)、楠木正成を奉行として金堂外陣造営の勅を出され、 現在の金堂ができました。 正成自身も報恩のため三重塔建立を誓願。造営なかばで湊川の戦いで討ち死にしたため、建築が中断されたのが今日伝わる建掛堂であす。延元元年(1336)、神戸の湊川で討死後、正成の首級が 当寺に送り届けられ、首塚として祀られました。正平14年（1359）には当寺が後村上天皇の行在所となりました。境内には後村上天皇桧尾陵があります。後村上天皇は後醍醐天皇のあと南朝を継がれた方ですが、北朝との戦乱で各地に移動され、1354年には天野金剛寺、1359年には観心寺に行宮、1368年崩御。 室町時代以降は足利、織田、徳川にそれぞれ圧迫を受け、最盛期五十余坊あった塔頭も現在わずか二坊になっていますが、境内は 史跡として、自然に恵まれた環境の中で、山岳寺院の景観を保持しています。
金堂（国宝）- 中世の真言密教仏堂。 大阪府下で本堂として最古の国宝建造物で、七間四方、単層入母屋造、和様、禅宗様、大仏様の折衷様式の代表的な遺構。 室町時代初期に建立され、豊臣秀頼の時、江戸時代の中期、明治の初め、昭和の初め等たびたび修理し、昭和五十九年に昭和大修理の落慶をみました。 室町時代、後醍醐天皇の勅により、楠正成が金堂外陣造営の奉行を行ったと伝えられています。 如意輪観音を祀るとともに、本堂内陣内には真言密教の重要な伝法潅頂（密教の法を継承する儀式）を行う場所が設けられています。教王護国寺（東寺）や室生寺などでは潅頂堂は別の建物となりますが、ここでは金堂内に設えてあります。このため通常の密教本堂は、内陣には窓や出入り口がなく閉鎖的ですが、この金堂は内陣の左右に出入り口を設けています。また、外陣はその分全体の大きさからするとやや狭くなっています。床下に高い亀腹を張った金堂は、和様を基調としますが、妻飾りや扉は禅宗様、組物などに大仏様の様式を用いた折衷様の代表的な遺構で一名「観心寺様(流)」とも呼ばれます。 建掛塔　（重文）　室町後期　文亀2（1502）桁行三間、梁間三間、一重、宝形造、茅葺　　　 この建築は初重しかない未完成の塔。このような建築上木造雑塔はここ以外に多宝塔の上が壊れて初重だけが残った奈良不退寺塔婆、三重塔の初重だけが残った奈良安楽寺塔婆。五重塔の上重を改修時に取り去った尾道天寧寺三重塔があります。 この建掛塔は、楠正成の発願によって三重塔として建て始めましたが湊川の戦いで戦死したことにより、建設途中、初重と軒下の組物を付けたままで終わっていたのを、後代に屋根の小屋組みと茅葺の屋根が架けられたといわれています。戦死は延元元年（1336）ですが、少し後の天授3年（1377）に三重塔が存在していますので、その後その塔が無くなり、文明年中（1496〜86）に再建されたが、何らかの理由で中止され覆い屋根がのったというのが真相で、正成伝説に乗ったのではないでしょうか。
	訶梨帝母天堂（かりていもてんどう）　重文 　一間社春日造、正面軒唐破風付、檜皮葺　室町後期　天文18（1549）年造 訶梨帝（ ハーリティー）は 夜叉毘沙門天（クベーラ）の部下の武将八大夜叉大将（パーンチカ、散支夜叉、半支迦薬叉王）の妻で、500人の子の母であったが、それらの子を育てるだけの栄養をつけるために人間の子を捕えて食べていたので人間から恐れ憎まれていました。それを見かねた釈迦は彼女が最も愛していた末子のピンガラ（嬪伽羅）を乞食（こつじき）に用いる鉢に隠しました。彼女は半狂乱となって世界中を７日間探し回ったが発見するには至らず、釈迦に助けを求めました。釈迦は「多くの子を持ちながら一人を失っただけでお前はそれだけ嘆き悲しんでいる。それなら、ただ一人の子を失う親の苦しみはいかほどであろうか。」と諭し、「戒を受け、人々をおびやかすのをやめなさい、そうすればすぐにピンガラに会えるだろう」。彼女が承諾し、三宝に帰依すると、釈迦は隠していた子を戻しました。そして五戒を守り、施食によって飢えを満たすこと等を教えました。かくして彼女は仏法の守護神となり、また、子供と安産の守り神となりました。別名「鬼子母神」。
如意輪観音坐像　　国宝　本尊　像高108.8cm。平安時代前期9世紀作。 一木造の密教彫像で、長らく秘仏であった為、彩色が残るなど状態も極めて良く、金堂内陣の厨子内に安置。毎年4月17・18日の2日間のみ開扉されます。 如意輪観音は梵名チンターマニチャクラ 、観音菩薩の変化身、六観音（真言系では聖観音、十一面観音、千手観音、馬頭観音、如意輪観音、准胝観音、天台系では准胝観音の代わりに不空羂索観音。六観音は地獄道 - 聖観音、餓鬼道 - 千手観音、畜生道 - 馬頭観音、修羅道 - 十一面観音、人道 - 准胝観音、天道 - 如意輪観音）の一尊。三昧耶形（象徴物）は如意珠、紅蓮華に坐す。種子（種子字）はキリーク。 如意とは如意宝珠、全ての願いを叶えるものであり、輪とは法輪のことで元来古代インドの武器であったチャクラムが転じて、煩悩を破壊する仏法の象徴となったものです。 如意輪観音像は坐像または半跏像で立像はありません。多くは片膝を立てて座る六臂の像ですが、二臂の半跏像もあります。六臂像は6本の手のうちの2本に、尊名の由来である如意宝珠と法輪とを持つのが普通です。観心寺本尊像は六臂像の代表作です。6本の手のうち、右第1手は頬に当てて思惟相を示し、右第2手は胸前で如意宝珠、右第3手は外方に垂らして数珠を持ち、一方、左第1手は掌を広げて地に触れ、左第2手は未開敷蓮華（ハスのつぼみ）、左第3手は指先で法輪を支えます。兵庫・神呪寺像、園城寺（三井寺）観音堂本尊像、奈良・室生寺本堂像、京都・醍醐寺像などは六臂像。二臂の如意輪観音像として滋賀・石山寺の秘仏本尊像、飛鳥の岡寺の本尊像。（2016.5.10）

27　河内観心寺などの史跡巡り　史迹美術同攷会　2016・4・10　

河内　観心寺　金堂（国宝）
観心寺　建掛堂　（重文）	天野酒造　国登録文化財
金剛寺（女人高野）　多宝塔（重文）	孝恩寺　観音堂（釘無堂）（国宝）

26　史迹美術同攷会　平成２8年（2016）２月・３月例会

25　史迹美術同攷会85周年

史迹美術同攷会は今年創立85周年、11月8日妙心寺で記念会が行われました。会誌「史迹と美術」は859号、1020回となる長寿の石造美術を中心に歴史や史跡、古美術や古建築、庭園を研究する会です。
創立者・川勝政太郎先生を含めて創立時メンバーはほとんど亡くなりました。父・薮田嘉一郎は川勝先生の親友として、相談に乗ったり援助したりしていましたが、父は別に会（土俗同攷会、京都史蹟研究会、京都研究の会、故都文華会など）を作っていたので会員にはなっていませんでした。しかし節目節目には参加していて、この写真は1965年（昭和40年）二条城でおこなわれた35周年記念の時の写真です。
左から重森三玲、平塚、村田次郎、佐藤各先生と父・嘉一郎。
重森三玲さんは庭園史の先駆けとなった方で、また作庭家としても著名です。また村田次郎さんは京都大学名誉教授で東洋建築史の重鎮でした。
それから50年、私は当会の監査としてお手伝いをしています。会誌は学術論文の登竜門としての位置つけもあり地味ではありますが、例会は毎回、なかなか一般の人には行きにくい社寺や庭園を訪ねます。観光ではないちょっとクオリティの高い会なのでぜひ参加してください。
ちなみに12月13日は「湖東の文化財を訪ねて（西明寺・金剛輪寺）」、平成28年1月10日は「京都浄土寺の日吉神社と東山鹿ケ谷の文化財」詳細は綜芸舎にお問い合わせください。（2015.12.5）

24　和紙研究会

和紙が昨年、世界無形文化遺産に登録されました。和紙をここまで存続させた最大の功労者は壽岳文章先生であることに異をはさむ人はいないと思います。先生の紙漉村旅日記は名著として残っています。
さて和紙研究の端緒は1936年から始まった和紙研究会。広辞苑の編者であった新村出先生や壽岳文章先生、染色研究の上村六郎先生、パピルス復元の大沢忍先生、印刷と紙の権威であった禿氏（とくし）佑祥師などそうそうたるメンバーで始まり、1939年1月その会誌「和紙研究」1号ががでました。
父藪田嘉一郎はそのころ美術印刷「便利堂」にいて、その一切を取り仕切りました。この雑誌は戦後1951年まででました。
我が家に1950年5月上村邸にて行われた和紙研究会の写真が残っていました。後列後ろから　上村、藪田、香川、大沢、前列左から　野津、町田、禿氏、壽岳（敬称略）。壽岳先生や父は随分若かったです。特にお若いのは後で参加された京都工芸繊維大学の町田誠之名誉教授で、和紙に関する本では最も多く出版されているのではないでしょうか。ご存命なら100歳を超えておられます。 なおこの写真は京都森田和紙の森田康敬氏にお貸しして1996年「季刊和紙」（全国手すき和紙連合会）の「和紙研究会のこと」という記事にも掲載されました。（ちなみに和紙研究１号の出た年私は生まれています。）（2015.8.8）

23　薮田嘉一郎のこと　Hatenaより

来年１月１３日は薮田嘉一郎の命日です。亡くなって３９年、とうに父の年齢を越したのにいまだにもたもたしています。父の業績をまとめようとしながらちっともできず、年を越します。罪滅ぼしに業績の一部を、Hatenaより転載しました。

薮田嘉一郎　やぶたかいちろう
日本古代史・金石文研究家（1905〜1976）
明治38年（1905）京都市・東山生まれ。

大正14年（1925）京都帝国大学史学科選科に入学。西田直二郎の文化史学に影響を受けつつ、その後日本美術史・歴史考古学・金石学をまなぶ。昭和３年（1928）同大学中退後、東京至誠堂に入社。昭和７年（1932）奈良飛鳥園で「東洋美術」編纂に従事。その後、京都日出芸林社、美術印刷便利堂などを経て、昭和26年（1951）に学術図書出版「綜藝舎」を創立。

出版業のかたわら日本古代史・金石文の研究を続け、五輪塔・宝篋院塔など金石に関する論文を多数発表。その卓抜した着想と堅実な論証から、講壇の古代史・考古学者からも一目おかれた存在となる。
また、京都の史蹟の啓蒙にもつとめ、土俗同攷会、京都史蹟研究会、京都研究の会、故都文華会を主催した。昭和51年（1976）１月13日逝去。享年70歳。（2015.1.1）

おもな著作
『日本上代金石叢考』（1949）綜芸舎
『出雲風土記剥偽』（1951）綜芸舎
『五輪塔の起源』（1958）綜芸舎
『能楽風土記』（1972）檜書店
『日本古代文化と宗教』（1976）平凡社

22　大文字古記録の研究

京都新聞2014.8.16朝刊に掲載された記事
　京都市内で１６日夜にある五山送り火のうち、江戸時代から明治初期にかけての大文字の点火時刻は日の入り直後だったとする説を、在野の歴史研究者が打ち出した。戦後に午後８時に定められた点火時刻が旧暦の頃は１時間ほど早かったことになる。当時、京の人々は今に比べると明るい薄暮の中で、燃えさかる送り火を見つめていたようだ。　青木博彦さん（５３）＝上京区＝が著書『大文字古記録の研究』でまとめた。送り火の中でも比較的多くの記録が残る大文字について、現在の太陽暦に移行する１８７３（明治６）年までの点火時刻を調べた。本居宣長の『在京日記』が大きな手掛かりになった。１７５６（宝暦６）年７月１６日に三条大橋で大文字を見た後、木屋町にある師の家を訪れ、東山から月が出た様子を書いている。　この日の東山から月が昇る時刻を、国立天文台の公開数値や京都市の標高などから午後８時２分と算定した。日記の記述から足取りを推測し、平均的な歩く速度を基に、本居が三条大橋で大文字を見たのは午後７時１６分とはじき出した。　本居が大文字を見た時、火はまばらに消え残っていたと記されていた。ほかの文献から当時の燃焼時間は２０分とし、点火時刻は午後７時１６分の２０分前の午後６時５６分とした。日の入りの午後６時４６分の直後で、日暮れの午後７時２２分には火は消えていたことになる。１７世紀の『慶長日件録』や１９世紀の『花洛名勝図会』なども分析し、旧暦時代には日の入り直後に点火されていたと結論づけた。日の入り直後に点火したのは、現在のように照明器具がなく、点火の担い手が下山する時間を考慮したためと青木さんはみており、「明治になってもしばらくは午後７時ごろに点火されていたが、観光行事として人気を集めるようになって夜の定時に行われるようになった」と考える。『大文字古記録の研究』は４３２０円。北斗書房ＴＥＬ０７５（７９１）６１２５。


著者：青木博彦さんはご母堂との交流から知人になった方です。お母さんはわたくしの恩師：壽岳文章・章子父娘を通して長年の知人で、やはり私の父と交流のあった竹村俊則さんの「新選京都名所図会」の研究で青木さんとも知り合いになりました。京都研究に関してはいまや重要な研究者で、父の知人で京都の生き字引であった田中緑紅さんの研究もしていただきたいと思っています。（2014.8.20）

21 松本清張と邪馬台国と藪田嘉一郎


8月1日〜11月4日まで北九州市立「松本清張記念館」で「松本清張と邪馬台国」が開催されています。清張さんは社会派推理小説や時代小説を数多く書かれ、いまでも多くのファンがあり、映画やテレビにもなっていて時代にあせぬ名著として今も多くのファンに支持されています。

ところで清張さんは歴史にも関心と造詣があり、特に近現代史と古代史は学者を超える発想で多くの著作を発表されています。
一時期父藪田嘉一郎は清張さんの要請でその研究のお手伝いをしました。清張さんは後年、父と福山敏男京大名誉教授を通信教育の恩師と言っていただいています。

この展覧会では父と清張さんの往復書簡が展示されていますので是非ご覧ください。松本清張と邪馬台国




20　出雲風土記剥偽
5月10日夜中、出雲大社では60年に一度の遷宮がおこなわれます。伊勢神宮と同じ時期に遷宮がおこなわれるのはとっても珍しいので、今年は出雲ガールや伊勢女がお参りしているそうです。
さて今から60年前、今は亡き父が一冊の本を出しました。「出雲風土記剥偽」という小冊子です。ここで父はいくつかの点から出雲風土記は偽物でないかと論じたのです。びっくりした出雲大社は錚々たる学会の重鎮を集めて反論の本をその遷宮の年に出しました。それが「出雲風土記の研究」という立派な本です。「蟷螂の斧」小冊子が豪華本に対抗したわけです。
しかし監修した平泉澄東京帝大教授（皇国史観の代表的歴史学者）は監修の辞で、父の本が出なければこういった本も出なかったと述べ感謝しています。またかって森浩一先生とお話しした時、「あなたのお父さんの本で多くのことを学んだよ」と言っていただきました。 60年の節目にして、この幻の本をいつか再版したいと思っています（2013.7.11）。


19　最後の葉書・・黒田�f義・康子夫妻

1976年綜芸舎をつくった私の父・藪田嘉一郎が亡くなり、途方に暮れていた私に父の学究の先輩や知人から声をかけていただき、特に建築史家の故福山敏男京大名誉教授の「日本建築史の研究」や故村田次郎京大名誉教授「中国の帝都」の著書を発行できたことは望外の喜びでした。またこれには当時編集を手伝ってくれた田中悦子さんと夫君田中淡さん（中国建築史の第一人者。当時は京大講師で後名誉教授・昨年死去）の力にも負うところが多く感謝しています。 さてその福山先生から紹介を受けて発行したのが「春日大社建築史論」です。著者・黒田�f義さんは戦前奈良県文化財の技官でしたが応召されフィリッピンで亡くなられました。いまでもその業績は広く認められています。その1年後ふたたび福山先生を通して遺稿集「この海のつづきの海を」を出版させてもらいました。我が舎は学術出版以外については不得意ではありましたが、遺族である康子さんの希望でもあって出版させてもらいました。弊舎の力及ばず、あまり販売できなかったことは今でも残念です。この機会に一人でも読む人が増えればありがたいことです。 さて今回この文章を書いたのは黒田康子さんから最近いただいた「最後の手紙」という冊子を少し読ませてもらってのことです。また憲法記念日にもあたり、前の戦争で亡くなった前途有能な若き学究とそれを支え、亡くなった後は息子さんを育て、その御子息も亡くなられた康子さんが97歳でまだ戦争反対を訴えておられることに感銘してここに掲載させていただきました。「最後の手紙」は久保岳明さん編集発行です。（2013.5.3） 最後の手紙　軍事郵便　比島派遣部隊より 「この海のつづきの海をほろぼろに越えて来にしか夕日に対ふ」

18　塔の王

	昨年暮れ、東京国立博物館で開催されていた「中国王朝の至宝展」最終日に訪れて、出品されていた阿育王塔に度肝を抜かれました。黄金に輝く１メートル２０もある塔は、中国で塔の中の王といわれるのもわかります。２００８年江蘇省南京市長干寺跡から発見されたもので、近年発見された仏教遺品としては最高傑作ではないでしょうか。 「阿育塔」は紀元前３世紀インド・アショカ王（阿育王）が釈迦の舎利を八万四千の塔に収めた故事から、紀元千年呉越国の銭弘俶王が同様に八万四千の塔を造りました。内側に乙卯（955年）と乙丑（965年）の銘が入っています。右はその銭弘俶塔を模したものを父薮田嘉一郎が１９７６年１月亡くなった時に島津製作所から購入したものです（高２３�p銅製）。 中国の阿育王塔は遺品としてはこれまで小さなものばかりでした。それが南京城寺院発掘現場から北宋時代の塔の地下宮から石の函が見つかり、その中に鉄の函があり、そのまた中にこの金の塔が現れたのです。インディージョーンズみたいですね。木胎に鍍金した銀板を被せ、水晶瑪瑙瑠璃などがちりばめられ、各面には釈迦本生図が彫られています。父が生きていたらなんと思ったでしょうか、見せたかったですね。 本展は２月から神戸、４月は名古屋、７月は福岡で開催されますので是非ご覧ください。
ところでこの阿育王塔は日本にわたり「宝筐印塔」になりました。この宝筐印塔は宝筐印経から来ているのですが和名です。同様に五輪塔も和名で中国にはありません。このことを詳しく書いた「五輪塔の起原」「宝筐印塔の起原」については16 で少し述べています。（20130130）

17　新撰京都名所図会


かって母校・京都府立大学の先輩で、同窓会の幹事であった方が、やめられてから私の教室に来ておられました。その息子さんが京都検定一級から京都産業大学特別客員研究員になられ、研究された成果として産大紀要に載せられたのが「竹村俊則と新撰京都名所図会」論文です。
竹村さん（1915-1999）は私の父のもとで「京都研究の会」を運営し、絶えず我が家にも来ておられました。気難しい父とよくそりがあったものだと今でも思っています。

不思議な縁で今回板井さんが書かれたこの論文を読ませていただいて、詳細な研究に対し、とっても竹村俊則さんをうらやましく思っています。かって古代学協会の角田文衛先生から、雑誌「古代学」にお父さんの業績を載せるからまとめるようにとのお申し出があったのに結局できずじまい、角田先生も今はおられません。反省しつつこのホームページにちょっとづつ書いていこうと思っています。

さて「新撰京都名所図会」はいまだに重宝しています。とくに一番の特徴である鳥瞰図は素晴らしいもので他の類書を凌駕するものです。竹村さんはよく歯を傷めておられました。これは根を詰めて鳥瞰図を書いてたからだと本人から聞きました。初版は昭和33年1958年ですから50年たついわいる一昔の京都の姿が描かれていて今となっては貴重な資料でもあります。写真は「論文」と「新撰京都名所図会」初版（白川書院）と「昭和京都名所図会」（駸々堂）この二つの出版社はいまはありません。これも50年。











16　宝筐印塔・五輪塔と北村謹次郎さん

綜芸舎刊の藪田嘉一郎編著の「五輪塔の起原」（五輪塔の早期形式に関する研究論文集）が 世に出て 55年、同じく藪田嘉一郎編著の「宝筐印塔の起原・続五輪塔の起原」はその八年後。 五輪塔と宝筐印塔の研究の一里塚となった両書は弊舎のロングセラーとして数年前まで再版 を続けてまいりましたが、近年活版印刷が壊滅的な状況になり、出版ができない状態に陥って います。いずれデジタル化して再発行したいのですがどうなることでしょうか。 さてそれはさておき、６月史迹美術同攷会例会で北村美術館に寄せてもらい、かって４５年前 父藪田嘉一郎のお伴をして北村美術館の創設者北村謹次郎さんとお会いしたことが甦りました 。鴨川に面した書斎で石造美術に関し大いに論じる北村さんと父の会話を聴きながら、大文字 山を遠景としたお庭の素晴らしさに感じ入っていました。その後重文の「鶴の塔」といわれる宝筐 印塔の実測を父が、撮影を私がしました。北村さんのご厚意で「宝筐印塔の起原」の表紙になり 発行されました。 その書斎が今も保存され、鶴の塔も優美な姿で置かれているのを観て感無量です。（2012.8.8） 五輪塔の起原　　五輪塔の早期形式に関する研究論文集　　藪田嘉一郎編　綜芸舎　　１９５８年 　　平安時代の五輪石塔　川勝政太郎　五輪塔の成立　佐々木利三　五輪塔の成形期に関する一知 　　見　黒田�f義　五輪塔の形の起原　村田次郎　五輪塔の起原　藪田嘉一郎 宝筐印塔の起原・続五輪塔の起原　　藪田嘉一郎編著　綜芸舎　１９６６年　 　　宝筐印塔の起原　藪田嘉一郎　 　　続五輪塔の起原 　　　　石造五輪塔初現の年代について　田岡香逸　初期五輪塔の資料三題　千々和実 　　　　続五輪塔の起原　藪田嘉一郎 著者について 川勝政太郎 　1905〜1978　石造美術の名付け親で第１人者　史迹美術同攷会創設者 佐々木利三 　故人　京都古銘聚記は川勝政太郎と共著 黒田�f義　　　1914〜1945　建築史家　山田寺仏頭発見　春日大社建築史論 村田次郎　　　故人　京都大学名誉教授　建築史 田岡香逸　　　故人　石造美術研究家　考古学者　灘の宮水の管理者　「石造美術の研究」綜芸舎刊 千々和実　　　故人　石造美術研究家　板碑の研究 参考：掛軸と屏風：　夏秋徒然草�A75北村美術館の表具 　　　　拓本：　拓本ギャラリー　31北村美術館と拓本