マクネアー・シングス・ジェローム・カーン・ウィズ・プレヴィン Sylvia
McNair, André Previn – Sure Thing - The Jerome Kern Songbook
1. Land Where The Good Songs Go 1:32 2. I Won't
Dance 3:09 3. Nobody Else But Me 2:57
4. The Folks Who Live On The Hill 5:57 5. A Fine
Romance 2:35 6. Remind Me 3:41
7. You Couldn't Be Cuter 2:53 8. Why Was I Born?
3:59 9. I'm Old Fashioned 3:40 10.
All The Things You Are 4:25 11. Can't Help Singing -
They Didn't Believe Me 4:38 12. Till The Clouds Roll By
- Look For The Silver Lining 3:50 13. Sure Thing - Long
Ago (And Far Away) 5:32 14. Can I Forget You - Smoke
Gets In Your Eyes 6:06 15. Pick Yourself Up 2:43
16. The Song In You 5:11 17. Land Where The Good Songs
Go 2:47 18. Go Little Boat 3:36
シルヴィア・マクネアー(Vocal)
アンドレ・プレヴィン(Pf)、デイヴィッド・フィンク(Base)
録音:1993年9月7-10日
2曲目の I Won't Dance
が本来このアルバムの冒頭にあってもいいのでは、と思うくらいフィンクのベースがご機嫌なリズムで陽気に始まります。マクネアーはどこかお上品さを保持して歌っていて、アクのあるハスキー・ボイスを交えた歌い方を期待したいところですが、「踊るなんて無理・・本気になりたくない・・」と歌う、恋したらエライことになるという内容からは素直な歌い方のほうが合っているのかもしれません。フランク・シナトラは男声ということもありますがもっとゆったり歌っています。プレヴィンのピアノが歌の邪魔をせず断片的な参加で控えめに曲を支えているところが実に見事です。マクネアーの歌はこちらで聴けます。
Sylvia McNair/ I Won't Dance
3曲目の
Nobody Else But Me
はマクネアーの美しくも自然な発声に加えて語り口の上手さが光る演奏です。サラ・ヴォーンやヘレン・メリル、ジョニー・ソマーズといった個性的な演奏とは一線を画していて物足りない方もいらっしゃるかもしれません。プレヴィンもフィンクも完璧なサポートでアルバム前半のピークを築くともいえる出来栄えを聴かせてくれます。続く4曲目の
The Folks Who Live On The Hill
はプレヴィンのピアノ伴奏のみで至福の世界を見せてくれます。この2曲でこのアルバムの方向性がはっきりしてきました。静かな午後のひと時をハンモックにでも揺られながら聴きたいと願うばかりです。
Sylvia McNair / Nobody Else But Me
Sylvia McNair / Folks Who Live On The Hill
アルバムのタイトルにもなっている13曲目の Sure Thing 及び Long Ago
(And Far Away)
では2曲が絶妙につながっていて途切れなく歌われています。ふたつ共、曲の冒頭はピアノだけの伴奏で途中からベースが加わるというこのアルバムで特徴的なパターンを踏襲しています。曲の持つ起伏のある構成を、声圧をさりげなく変化させながら歌うマクネアーにプレヴィンは軽妙なオブリガードで飾り付けし、フィンクが景色を変える色付けを施します。これ以上何も言うことはありません。このアルバムにおける白眉と言えましょう。YouTubeでも聴けますが、これは是非ともCDで聴いていただきたい一品です。プレヴィンは1959年にジェローム・カーンのピアノ・ソロ・アルバム
Plays Songs By Jerome Kern
でもこの2曲共(別々に、順番は逆)取り上げています。このピアノ・ソロの音源は YouTubeに20種近くアップされています。一体何故?
Sylvia McNair // Sure Thing / Long Ago And Far Away
14曲目の
Can I Forget You - Smoke Gets In Your Eyes
は、前の曲の雰囲気そのままにマクネアーの語り口はしっとりと感じをさらに増してきています。これも2曲を続けて演奏しています。後半は言わずと知れたカーンを代表する名曲「煙が目にしみる」。サラ・ヴォーンやジュディー・ガーランドらを向うに回してマクネアー自身のスタイルを堅持して落ち着いた雰囲気で歌い切ります。普通に考えるとアルバムのタイトルはこの「煙が目にしみる」にした方が売れそうなものですが、敢えて13曲目をタイトルにしたのは何故か。3、4曲目でも続けて同じ曲調のいい曲を並べていますので、これには何か意図的なものを感じさせます。
Sylvia McNair // Can I forget You / Smoke Gets In Your Eyes
アルバム最後の曲
Go Little Boat
はプレヴィンのピアノ独奏。「お疲れ様」とマクネアーに声をかけるようにピアノが囁き、静かにアルバムを閉じます。粋ですね。この最後の曲を聴き終えて、ふと最初の曲が僅か1分半しかなく、ピアノだけの伴奏で静かに歌われていることに思い至り、プレヴィンのこのアルバムへの想いがなんとなくわかったよう気がしました。プレヴィンは若い頃(1959年)に
Plays Songs By Jerome Kern
というピアノ・ソロのアルバムを録音していてこの曲も演奏しています。2つのアルバムで共通した曲は全部で4曲、Go Little
Boat、A Fine Romance、Sure Thing、Long Ago となります。