この推測を裏付ける唯一の明らかな証拠は、マーラーの交響曲第1番の第1稿(1893年)と最終稿との比較に見ることができます。この曲で最初に
Schalltrichter in die höbe !
が出てくる第2楽章の練習番号5〜8番(オーボエ、クラリネット、ホルン5箇所)のところや終楽章のコーダにおけるホルンや木管パート全体に対するSchalltrichter
in die höbe !
の指示は、第1稿の手書きスコアには書かれていないのです。つまり、いつ書き足したかわかりませんが、少なくとも作曲した時点では「ベル・アップ」の発想はマーラーにはなかったということになります(第1稿の手書きスコアはIMSLP:
The International Music Score Library Projectによる)。
ロットは第4楽章でホルンに対して mit gehobenem Schalltrichter と pp
の音量で記していますが(115小節)、マーラーは交響曲第2番の第5楽章において、ホルンとトランペットに対して mit aufgehobenem
Schalltrichter (5箇所)、トロンボーンに対して mit gehobenem
Schalltrichter(1箇所)と指示しています。マーラーはこの “gehobenem”という単語は他の交響曲では使用していません。