映画『仮面の中のアリア(Le Maitre de
Musique)』はクラシック音楽を題材とし、実際の演奏家が演じためずらしい作品。カラヤンに重用されていた現役のバリトン歌手のホセ・ファン・ダムが引退を控えた歌手役として弟子を育てるというベルギーの映画(ホセ・ファン・ダムもベルギー人)です。最初のシーンで肺活量を鍛えるために池で若者が水泳の特訓を受けるシーンでこの曲(サントリーのCMと同じく第3楽章)が使われます。他にも交響曲第4番の第3楽章が馬車に乗るシーンで使われ、さらには主人公の亡骸が薄靄の中、川を下って遠ざかっていく最後のシーンで歌曲集『リュッケルトの詩による5つの歌曲』の第3曲「私はこの世に忘れられて(Ich
bin der Welt abhanden
gekommen)」がしんみりと歌われています。とりわけこの「私はこの世に忘れられて」から漂う絶望を通り越した悟りの世界は主人公だけでなくマーラーの心境を見事に表わしていたのが印象的でした。