VOCA展’99
展覧会名:VOCA展’99 現代美術の展望−新しい平面の作家たち
会場:上野の森美術館
日時:1999年2月21日
入場料:500円



 前に日本銀行にある記者クラブに詰めていた時に担当していた第一生命保険がスポンサーになって始めたのが平面作品の新人を選んで表彰する「VOCA展」。その第1回目で栄えある「VOCA賞」を受賞したのが今をときめく福田美蘭さんで、たしかステンドグラスを模した色遣いで何やら食べ物を描いていたような記憶があって、そのひねりぶりに簡単した覚えがある。その後の活躍は御覧のとおりであちらこちらで賞賛を浴びてついに大日本印刷が須賀川で運営している現代グラフィック・アート・センターで個展まで開くくらいになった。

 そんなメジャーな人を1回目から出すと賞の権威も上がるみたいで、後々も例えば村上隆さんとかの作品が飾られたりして、現代美術のとりわけ平面作品にとっても一種登竜門的な賞に6回目にして何とか成長したって言えるかな。その間景気が悪いにもかかわらず応援し続け作品も買い上げている第一生命のスタンスにも、やはりここは賞賛の意をこめて敬礼を贈っておこう。今は安田火災にある「ひまわり」にとても及ばなく多って、100年たって200年たって歴史を飾る名画がそこから出るかもしれないから、頑張ってせめて10回目くらいまでは応援を続けて頂きたい。

 さてさっきも書いたけど6回目となる今回の、グランプリとも言える「VOCA賞」に輝いたのはすでにして有名だったりするやなぎみわさん。と言っても知らない人の方が圧倒的に多いだろうから説明すれば、エレベーターガールみたいな制服のお姉さんがズラリと登場して何やら案内している写真の作品を作る人、って言えば正解かな。前に見たのは動く道路の両脇のショーウィンドーの中にずらりと案内嬢がそれも同じ顔で並んでいるって作品で、お姉さんが綺麗だから素敵ってなミーハーな感情もあったけれど一方ではコンピューターを駆使した作品づくり、でもって主題として選ぶ複製時代のペカペカした感じが凝縮されているような気がしてとても気になっていた。

 今回は1点「案内嬢の部屋B4」って作品が展示されていて、どこか水族館のような場所にそれも部屋の中程まで水が注がれているようなイメージ仕立て上げたおそらくは水面下の部分に、重なり合った案内嬢があっちをむいたり膝枕で寝たりそっちを向いたりしている写真は、のぞくフトモモに制服フェチな男の子を満足させる迫力と同時に、没個性な人々の息苦しく沈黙した世界に生きる雰囲気が感じられて、見入っているといろいろと考えさせられる。。いっしょの毎日に安寧を見出している僕っていったい何なんだろう、とか。

 総じて抽象画が多くなるのは現代美術だから仕方がないとしても、塗りたくっただけの絵でもやっぱり賞を取る人の作品はどこかが違う、ような気がする例えば「奨励賞」の石川順恵さんは緑のトーンに走るぐにょぐにょが目に優しく心に厳しい。やっぱり「奨励賞」の平町公さんは流れる河と滝のパースがもう無茶苦茶でよくぞ1枚の画面に収めたってな力技、でもって滝を上る何やら不思議な人物に世界を俯瞰する中で見えた奇跡の姿にピクリと心を刺激される。やっぱり「奨励賞」の高柳美里さんも白い平面に描かれた細い波のような戦の重なりが不安定ながら落ちつくって不思議なイメージ。人間が安寧のなかに流転へと憧れる存在だから、なのかもなあ。

 賞こそ入っていなかったけど個人的に気に入ったのが是枝開さんって人のロールシャッハみたいな中西夏之さんみたいなホワッと淡い色が白地に踊る絵画群。色目が良いのか見ているととても心がスッキリ涼しくなる。あと福士朋子さんて人の作品も目についたかな。やなぎみわさんと落合多武さんを覗けば実はまだまだ知らないアーティストばかりで、これだけの人材がいるなら日本のアートも安心じゃん、と思ったけれどここでデビューできたからといって一生をアートで食べられるほど日本の環境は素晴らしくはない、というか今後ますます酷くなる。でもきっかけを得た人たちが例えば福田さんのように、あるいは村上さんのように日本どころか世界すら、相手に活躍できる可能性だけはあるわけだから、こっちは応援するけれど、そっちも頑張っておもねらず凛然として作品を作っていって頂きたい。

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