太郎千恵蔵展
展覧会名:太郎千恵蔵展
会場:小山登美夫ギャラリー、第一生命南ギャラリー
日時:1999年10月23日、10月28日
入場料:無料



 97年に「キリン・アートスペース」で見た展覧会「ロボット・ラヴ」は、タイトルどおりに首のない動き回るドレスを着せられた人形とか、瘤のある一色で塗られた兎だかカタツムリだかの人形とか、敷かれたLDだか何だかの立体作品がいっぱいあって、壁の絵の方にはあまり目がいかなかった。

 先入観では、「セーラームーン」とかを作品世界に取り込む、流行りの「オタクアート」「サブカルアート」の人かと思っていたけれど、小山登美夫ギャラリーと、第一生命南ギャラリーに展示された新作を含めた平面作品ばかりを改めて見ると、モチーフにサブカルのイメージを表面上は取り入れておらず、また筆によって塗り重ねられた絵の具の質感が直に伝わる、イラストっぽさの微塵もない、まさに「アート」と呼ぶしかな絵画作品を描く人だったったということがよく分かる。

 分かりやすさでは1番右翼に当たるだろう、ロボットが画面に大きく描かれた絵でも、塗られた絵の具の下に別の図が透けて見えていて、単なるノスタルジックなモチーフを描いただけという感じではない。といっても、パッと見はやっぱりロボットの絵でしかないんだけど。画廊の人の説明だと、バックの赤青緑だかのシマシマはフランク・ステラで手前のロボット、そのさらに前のオレンジだかのモワモワも、すべてが「地」じゃなく「図」なんだとか。

 この「地」と「図」の使い分けっていうのは、村上隆が講演なんかでときどき喋っていたような記憶があるけれど、記憶が最近1時間しか持たないから内容までは覚えていない。聞いてなるほどと思えるほどの鑑識眼もないから「へー、そうなの」としか思えない無教養さがちょっと悔しいが、塗り重ねられながらも決して厳密じゃない透け具合が醸し出すのは、平面であっても多層的立体的な雰囲気がそこに存在してるということ、なんでパッと見ふーんと感心し、次に目をそらさずにしばらく眺めて塗り具合に掠れ具合といったタッチから、作家の意図を引きずり出してみては如何だろう。

 空港を舞台に異様な目玉とかエイリアンが出現したシリーズは、そのシチュエーションを同じ空間でのリアルタイムなスナップと見ると、なかなかにホラー的な戦慄が走る。羽田空港の目玉な絵は手前にある巨大な目玉が、バックにいるアーティストの家族らしい母子をちゃんと見おろしていたりする、捻れた空間表現に気分を波立たされる。関西空港のエイリアンは、エイリアンが可愛すぎて不気味さよりも滑稽さが先に立ったが、フォーカスのぴたりあったエイリアンに比べて、ベタベタっと描かれた背景を薄目にしたり遠目でようやく関西空港と分かる塗り分け方なんかを見ると、コミカルだったりブキミだったりするモチーフと、パブリックな空間の対比によって平面上にリズムってーかズレを生じさせて目を奪い、眺めさせた上に考えさせる時間軸がそこに生じている、ような気がしただけで、そんな個人の勝手な思いこみなど無縁に単純に「面白いね」で見ても、存分に楽しめるだろう。

 第一生命南ギャラリーで同時開催の展覧会の方には、太郎千恵蔵の名前を一気にメジャーに(僕的に、って意味)した「セーラームーン」を織り込んだ作品が置いてあって、こちらはこちらで単にサブカルのイコンを取り込み芸術の世界とのズレを喚起させ、見る者の心を引きつけるという単純であざとい手法というより、純然と異なるモチーフを併存させることによって、見ている人間の気持ちに波を生じさせ、この世界そのものをも含めて虚実ないまぜとなったものだと認識させるような仕掛けになっているような気がする。バックにうっすらと写っているのはモネの「睡蓮」にも似た葉っぱや花、その上の出現した球体からギューンと伸びた「チビうさ」の顔の輝く瞳が、奇妙な世界からさらに奇妙な世界をジッと見据える。

 大作の「四月のドラゴン」(イースト・エイジアン・センチメンタル)も同じく美少女キャラを上部に配して手前にドラゴンらしき生物を置いたファンタジックな絵。太陽ともおぼしき位置より炎を放つ美少女の顔が世界を驚きに包み込む。「セーラームーン」を織り込んだ絵は、今はもう描いていないだけに、歴史の残るだろう2点を見られたのは心から嬉しい。なんてことを言って自分のアートな気分を正当化したところで、小山登美夫ギャラリーの受付にあるカラーポジには、一時期結構描いていた「セラムン」絵を描がたくさんあって、これに見るだに背筋がピクつく感覚というのは、やはり自分の中にあのアニメーションが遺伝子レベルで擦り込まれ、あからさまであっても或いは加工して単なお団子頭だけであっても、ビクビク反応してしまうから、なんだろう。ウランちゃんとバナナと何やら鳥らしきものを積み重ねた絵には全然反応しないのとは違って。


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