マーク・ロスコ展
展覧会名:マーク・ロスコ展
会場:東京都現代美術館
日時:1996年3月10日
入場料:1500(企画2展共通)円



 名前は聞いたことがあるけれど、どんな作品を描いているのか知らない。あるいは作品は見たことがあるけれど、誰が描いたものなのか思い出せない。マーク・ロスコは僕にとってそんな画家のひとりだった。

 東京都現代美術館で開かれた「マーク・ロスコ展」で、ようやく結びつけることが出来たマーク・ロスコの名前と作品を、多分これからも忘れることはないだろう。鮮明な印象の作品群は、同時に開かれていた別の展覧会に出展されていた、何ら感慨を呼び起こすことのなかった、日本の抽象画家の作品群とは、天と地ほどの差があった。

 平面を2色とか3色に塗分けた作品が、おそらくはマーク・ロスコの代表作なのだろう。もちろんこの展覧会にも、そうした作品が数多く出展されていたが、むしろ興味深かったのは、そうした作品へと至る過程で、マーク・ロスコが描いて来た作品の数々だった。何しろ人間が描かれている。建物も描かれている。物体が描かれている。色使いにこそ、淡いトーンで晩年を予想させるものがあるが、具象と抽象という決定的な違いが、初期と晩年の作品には厳然として存在している。

 展覧会は、こうした変遷の模様を見る人に感じさせるように、編年方式による展示がなされている。だんだんと形が崩れて、色だけへと移っていった様子が、第1室、第2室、第3室でうかがえる。やがて色数がぐんと少なくなり、カンバスの上部と下部を違う色で塗分けただけの構図の、「ロスコ・スタイル」ともいうべき作品が登場してくる。この間約20年。模索と葛藤の果てにたどり着いたシンプルな世界は、シンプルさゆえに純粋で清冽な印象を見る者に与える。

 体調を崩し、紙にアクリル絵の具で描くようになった作品が、最晩年になって登場する。油絵の具のどっしりとした印象から、透き通った印象へと変わったこれらの作品を前にして、ようやく絵を対峙しても、呑み込まれるような感じを受けないようになった。圧倒するような重苦しさがなくなり、空気に色を、風を、音を感じさせるようなさわやかさが出てきた。しかし画家本人の苦しみは、そんな絵を描いていた時が、最高潮だったのだろう。体調不良が続くなか、マーク・ロスコは66で自殺する。

 ジーンズ姿のエキゾチックな顔立ちをした美人がいたが、髪を縛った妖しい風体の男と2人連れだったので、歯がみする(ぎりぎりぎりぎり)。


奇想展覧会へ戻る
リウイチのホームページへ戻る