森村泰昌写真展
展覧会名:森村泰昌写真展
会場:川崎市市民ミュージアム
日時:2002年4月27日
入場料:700円



 森村泰昌の展覧会だったら過去にも「原美術館」とか「横浜美術館」で見たとこがあって、女優でもレンブラントでもなりきりってみせてやろうとする自意識が強くにじみ出ているそれらの作品に、シンディ・シャーマンの女性がさまざまなシーンにはめ困れている女性になりきって、そのはめ込まれ様を告発してみせる作品とも、オタク少女の傾向を抽出して普遍的なイメージへと還元してみせた森万里子の作品とも違った”才”を感じた記憶がある。

 だから「川崎市市民ミュージアム」で始まった「森村泰昌写真展 女優家Mの物語[M式ジオラマ(25m)付き]」でも、「女優家」なんてあんまり聞かない言葉を持ち出して「女優」になりきる専門家、という自らの意識を前面に押し出して来た覚悟が存分に現れた作品を、楽しませてくれるだろうという思い出が行く前はあった。

 結果、見ることができた作品のうち、女優になって撮った写真を70点ばかり並べた展示については、内容はと言えば迫力だったら前に「横浜美術館」で見た個展の方がカラー写真とか多かった分、濃かった印象があるし、質だったら「原美術館」で見たレンブラントといった泰西名画に入り込む作品が「らしく」て良かったと気がする。

 わざわざ見に行かなくっても、朝日新聞社刊「女優家Mの物語」でも読んでいれば腹8分。どう化け気っているんだろうか、という辺りが関心のメインになってる作品だから、リアルなプリントの写真集で見るのとは違った質感奥行きを楽しむ一般の写真展とか、物量なり大きさなりで常に見る側を圧倒する荒木経惟さんの写真展ほどには現場へと足を運ぶ意味が薄い。

 ただしかし、今回の個展はどちらかといえばそーした「女優」した写真はおまけみたいなもので、メインとなっているのは最初の部屋にある、湾曲したガラスケース内の実に25メートルにも渡って転じされた「泰昌変身コレクション」の数々。貸してくれるカセットレコーダーから流れる作家本人の解説によれば、自分の部屋を撮った写真を飾ったゾーンから左へとプラスチックの暖簾を潜ってきらびやかな「女優」の世界へと向かう森村泰昌の歴程が、変身に使った数々のギミックに衣装なんかでもって綴られていて、バックに掲げられた写真なんかと対比させながら、これをこう着てこう身につけた結果がああなのか、といったことを実感できる。

 とにもかくにもよくぞ集めた、という感じで例えばタイのダンサーが頭に載せているパゴダのような形をした被り物とか、金色でチラチラとした胸飾りなんかはタイに行った時に買ったものみたいだし、巨大な花輪は開店祝いなんかに寄せられる花輪の材料を集めて作ったものだとか。一方でゴツい自転車は父親が飲料を運ぶために使っていた業務用の自転車で、古今の東西から集めた品々を駆使して世界と作ろうとする、アーティストの強い意識がそこに垣間見える。

 オードリー・ヘップバーンにビビアン・リーにライザ・ミネリにエリザベス・テイラーなんかに扮したシリーズを並べたゾーンに至っては、そこで使われた衣装もさることながら女優を目指した時に買っただろー靴が実に100足も並べられていて、それぞれが「ラガーフェルド」だったり「シャルル・ジョルダン」だったり他にも有名ブランドの靴がズラリで、芸術のためにはやっぱりここまでしなければいけないんだろうか、一体幾らかけたんだろうか、これで作品から得られたお金に見合ってるんだろうか、なんて疑問と感嘆を同時に抱く。イメルダ夫人には及ばないけどコレクションではアート界でトップだろう、それも男女を問わず。

 最後の部屋でこのジオラマを使ったフィルム「夢の部屋」が上映されていて、ズラリ並べられた衣装を左右にカメラが映していく間に次第に中身が加わっていって、それぞれが仏像のような合掌ほかのポーズや動きを見せるようになっていく、そんな映像を部屋の中央で見ていた作家本人が、衣服を脱ぎ捨てウィンドーへと向かって手を差し伸べ、体を這わせていく場面が映し出される。

 その描写はおそらくは、自分とは違った存在への変身への願望なり、自分の内側に眠る内的な欲求の解放なり、こことは違う場所への飛翔なんかを現していて、見ているうちに作家本人ともどもぐいぐいと画面へと引き込まれる。そしてふたたび戻ってジオラマを見た時に、同じようにウィンドーへと手を差し伸べ、中へと入り込みたい気持ちが巻き起こってくる。もっとも同じ場所には、森村泰昌本人から型取りされた人形が立っていて、同じ行動はさせてくれない。独り占めしていやがる、なんて印象もふと受けたけど、そもそもが個展なんだかし森村の作品なんだから、観客はそんな彼の心理を伺い行動を想像することを通して、関節的に体験するより他にないんだろう。悔しいけれど仕方がない。

 ジオラマには市民ミュージアムが所蔵している動物の剥製とか、古い家具とかも使われていたりして、半円のガラスケースとこーした品物があって始めて成立した展示ってゆーかインスタレーションだと言えそう。女優シリーズの写真は数合わせのおまけとして、ジオラマの展示にそれと裏腹の関係にある映像作品を見るだけでも、現地へと足を運ぶ甲斐はあるかもしれない。


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