麦秋
ばく-しゅう 【麦秋】
麦の熟する頃。初夏の頃。むぎあき。むぎのあき。[季]夏。会社に向かういつもの道が、いつもより少しだけ混んでいて、迂回ではまった見慣れない道が、麦畑に通じていた。天にむかってまっすぐ伸びた麦の穂が、気持ちよさそうに風に吹かれていたよ。
麦秋、っていう季節なんだ。
その気になってみると、ぼくの住んでいるところの周りには麦畑がいっぱいあって、今まで全然気にもしなかったけど、ぼくがいつもお昼ご飯を食べる、会社のリフレッシュルームの大きい窓から見えるところにも、麦畑が広がっていたよ。
上から見下ろす麦畑は、これまたここら辺に多い芝生のはたけみたいだけれど、風が吹くとざざぁっ、っていう波が半円状に広がるんだよ。それはたとえば、国立競技場のウェイヴみたいなんだけど、もっと整然としていて、もっと劇的で、なんて言うか、きれいなんだ。いつもは上からじゃ見られない、麦の葉っぱの裏っかわを、風がまくって見せてくれるからね。
知ってる? 麦の葉っぱの裏っかわは、表とはまた全然違ういろで、だからほんと、半円状の帯は、ミステリーサークルみたいに不思議な眺めなんだ。稲の穂みたいに、重くたれることのない、まっすぐに天をむいた穂が、日毎に蒼から黄色に変わっていくよ。
今日はどんな色だろう、って、ぼくの、朝とお昼の密かな楽しみなんだ。いろんな生き物がこれからの季節を楽しみにしているときに、ひとあしはやく実りの季節を迎える麦。だからこの季節の「秋」を独占したって、いいよね。
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