まあるい、虹


 ちょっと長めの連休を北海道で満喫して、4時頃の飛行機に乗ったんだ。千歳から伊丹行き。
 前の日の雨が嘘みたいに、すっかりいいお天気でね。早めにチェックインして窓側の席を取ったんだけど、その窓からずうっと、下界の様子が見えてたよ。千歳から海まで広がる、大部分は耕し中で、ちょっとだけ緑色の畑とか、広い海に、頼りなげに浮かんでいるタンカーとか。日本地図ではおなじみの形だけど、名前は忘れちゃった津軽海峡の半島とか。
 海峡渡ったから(って渡ってないけど)もう本州なんだろうけど、やまが連なっていてね、これが山脈っていうんだ、って妙に納得したりして。
 その山脈の、上の三割ほどが、白い。雪の冠。いや、この表現は正確じゃないな。山脈にはいろんな高さの山があるからね、それぞれの山の三割に雪が残っているんじゃなくって、雪の残っている高さは決まっているんだ。雪と地肌の境界線の高さが決まっていて、だから小さい山にはちょっとしか雪がない。この境界線が、きちんと等高線を成しているのが飛行機の上からだとよく解るんだよ。
 この雪の残り方もそうだけど、桜の開花とか、森林限界といわれている山肌の植物相とか。自然界の境界って、測ったように一様だよね。限界まで我慢して、一斉に主役を草花に明け渡す木々とか、春の訪れを一斉に祝う桜とか。みんな必死にがんばって生きてるんだろうね。
 ちなみに札幌の桜は、いろんな種類があるのかどうか、バラバラに咲いていたけれどもね。

 それからね、行きの飛行機では気がつかなかったけど、ビールも出るんだね、この路線。行きは朝イチだったからなかったのかな。
 気圧の関係で泡アワなのかと思った缶ビールもおいしく飲んで、ぼんやり外を見ていると、どんどん雲が多くなってきた。そう、関西は曇りなんだよね、しゅん。
 いつも不思議なんだけど、雲も同じ高さに並ぶよね。もこもこした雲が、ちょうど飛行機のすぐしたに、同じ高さで並んでいるのは、まるで水面に浮かんだ綿菓子。ってそんな場面は見たことがないんだけれどもね。
 飛行機の影が映るその綿菓子の群れを見るとも無しに眺めていたんだけどね。

 目を疑ったよ。

 ちょうど日の差し込むのとは逆の窓側にいたんだけれども、ちょうど飛行機の影のあるあたりに、虹が見えるんだよ。
 虹って、まあるいんだけれども、半分だよね、普通。地平線や、地面に遮られて半分しか見えない。ところが、空に出来る虹は遮る地平線がないからね、まあるいんだ。360度。しかもよく目をこらすと、七色の光の輪のその外側に、さらに淡い七色の光の輪。
 よく逆光で太陽を見ると、六角形の光の結晶が見えるじゃない。そういうのかと思ったんだけどね。何度目をこすっても、見る位置を変えてもやっぱりあるんだ、虹。ちょうどもこもこ雲と飛行機の影の境目くらいでね。きれいだったな。レインでもなければボウ(弓)でもないんだけどね。
 写真とりたいな、って思ったんだけどね。悔しいことにデジカメはおっきい鞄に入れて上の棚に置いちゃった。悔しいな。ディバックは足下に置いてあったからね、悔しさ倍増。棚を開けてカメラ取ろうかとも思ったんだけどね、目を離した隙に虹がいなくなっちゃうのが怖くて、目に焼き付ける方を選んだよ。だからこの文章は、僕の頭に焼き付いた虹をもう一回や着付ける印画紙なんだよね。

 もうずっとにらめっこ状態だったんだけどね、虹はずっと続くって訳にはいかなくって、いつの間にかフェードアウトしちゃったんだけどね。
 すっかり虹の消えた雲の絨毯から、視線を前の方に移したらね、これまた。
 さっきもいったけど、同じ高さに並んでいる雲はまるで水面に浮かぶ綿菓子。たまには切れ間っていうモノもあるんだけど、無意識のうちに雲の切れ間には水面があるんだ、って思うよね、だって水面に浮かんだ綿菓子なんだから。
 ところがね、視界の前方にある雲の切れ間は、ただの穴でね、そこから覗けたのは、もうちょっと下に、これまた同じ高さで並ぶもこもこ雲。
 当然水面があると思った視線の先にね、すぐそこにある雲の絨毯と同じ絨毯がもう一個あって。しかもどっから光が差し込むのか知らないけれど、すぐそこの雲と同じように輝いていて。
 それはまるで、合わせ鏡。二枚の鏡をあわせると、同じ景色がちょっとずつ小さくなりながらひたすら並ぶよね、それと同じような感覚で、くらっとめまいがしたよ。
 もちろんアクリルの窓越しなんだけど、自然が作る万華鏡。

 明るいうちからビールを飲んで、いつもは観られないとびっきりのショーを特等席で楽しんで。空を飛ぶって、おもしろいよね。

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