“チェンジリング” ★★★
Changeling
(2008年アメリカ映画)

監督・音楽:クリント・イーストウッド
脚本:J・マイケル・ストラジンスキー

出演:
アンジェリーナ・ジョリー
、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン、コルム・フィオール、ジェイソン・バトラー・ハーナー

 

凄い! これは凄い! 何とも凄い映画があったものだ、と思う。

1928年、ロサンゼルス郊外、シングルマザーの家庭。
母親であるクリスティン・コリンズが電話会社の同僚からのSOSを断りきれず休日出勤して帰宅すると、一人で留守番をしていた筈の9歳の息子=ウォルターが姿を消していた。心配と悲嘆に明け暮れるクリスティン、でも警察の反応は冷たい。
その5ヵ月後、イリノイ州でウォルターが見つかったという警察からの知らせを受け彼女が駅に駆けつけると、大勢の中姿を見せた少年は、ウォルターとは全くの別人だった。

それから後、まるで信じられないようなことが繰り返されるのです。
ウォルターではないと訴えるクリスティンに対して、警察は彼こそウォルターに間違いないと強引にその抗議を抑えこもうとするのです。それも、本物にしろ偽者にしろ子供が出てきたんだから母親ならそれでいいじゃないか、何故満足できないんだ、いい加減にしろ、と言うが如き態度。
観ている側でさえも呆然としてしまう警察の振舞い。何という倣岸、何という不遜なのでしょうか。人間がこんな態度をとれるものなのか。
それでも必死に警察への抗議を内に堪え、ウォルター捜索への協力を求め続けるクリスティンに担当の警部がとった行動は・・・・・。
冒頭、教会で聴衆相手にコリンズ夫人支援の演説をする牧師が、一転警察への攻撃を口にし始め、何と攻撃的・政治的な牧師かと嫌悪感を抱いたのですが、それがまさかそのまま事実であり、正当な訴えだったとは。
本映画は、1920年代のロサンゼルスで実際に起きた事件をモデルにしており、実際にロサンゼルス警察は斯くも堕落し、非道な行動を行なっていたというのですから、その事実に愕然とする余り、声も出ません。

見どころは、愛する息子をなりふり構わず探し求めてやまない母親の姿であり、警察による非道な扱いの後、彼女が強い女性に様がわりしていく姿です。
本ストーリィに描かれている、微力な市民対絶大な権力を振るう警察という構図だけでなく、男性対女性という構図でもあります。
当時、女性は男性と対等な社会人として認められていなかったのでしょうか。
男は冷静な判断ができるのに、女は感情的で、状況を理解した行動がまるでできないといった侮蔑的なセリフが、幾度もあの傲慢な担当警部の口から飛び出します。

余計な脚色など一切なく(それも脚色かもしれませんが)、出来事だけをありのままに積み重ね、進めていくといった展開。
それが何とも観ている側を圧倒するのです。最初から最後まで圧倒されっぱなし、しかもどんどん圧倒する力は大きくなり、まさに息をつくことも出来ないというくらい。感動なんて生易しいものではありません。ただ、ただ、圧倒されるばかり。
そして映画が終わった時には圧倒され尽くして、座席で暫し呆然としたまま。

監督・音楽のクリント・イーストウッドも凄いですが、これまでのアクションものとうって変わって、愛する息子を思う母親の強い愛情、艱難を得て強い女性となった主人公の姿を遺憾なく演じたアンジェリーナ・ジョリーも凄い。本作品は彼女の代表作となるのではないでしょうか。
見逃すべからずと言いたい傑作。お薦めです。

2009.02.21

       


  

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