“稲 妻” ★★☆
(1952年日本映画)

監督:成瀬巳喜男
原作:林芙美子
脚本:田中澄江
出演:高峰秀子、
三浦光子、村田知英子、香川京子、根上淳、小沢栄、浦辺粂子
上映時間:93分

      

林芙美子作品の映画化。
高峰秀子が演じる主人公は、それぞれ父親が異なるという二人の姉と一人の兄をもつ末娘で、都内観光バスのガイドとして働いている清子。
この姉兄がとても金に汚く人間的にもだらしない。長姉は自分が関わりのある男との縁談を末妹の清子に押し付け、利益を得ようとしている魂胆が見え見え。一方その夫といえば、盛んに事業話を語るがいつもホラに等しい。兄は戦争による傷心を理由に何の職にもついておらず、母親に縋り付いているだけ。次姉は人は良いものの、夫に女と子を外に作られた挙句急死され、最後は姉と男を取りあう始末。
母、姉、その夫、兄と、皆が次姉の元に入る保険金を当てにして、少しでも分け前をもらいたいと露骨に口に出す様は真に目を覆いたくなる程。金に群がる人間とは何と醜いものか、と呻きたくなります。そんな家族に囲まれながらもただ一人、しっかりと自分の道を歩んでいこうとする若い女性の姿を高峰秀子が清々しく演じています。

最後、清子は自分一人の意思で家を出て世田谷に下宿しますが、実家のあるごみごみした下町と比較して、世田谷の住宅地は何と閑静で、下宿先の未亡人、隣に住む若い兄妹の何と品の良いことか。その対照がくっきりと描かれています。

昭和20年代、皆が貧しかった頃のことだからという気もしますが、本質的な問題は現代だからといって変わるところはないのでしょう。
邪と正、醜さと清らかさ、暗澹と希望、それらが共に盛り込まれた作品。
家族に絶望感を抱きながらも平常それを見せず、しっかりと人間を見つめて生きていこうと決心している様子の主人公像に清新な魅力を感じます。
高峰秀子さんのエッセイを読むと、高峰さん自身の家族関係も本物語の家族と変わるところはなかったのではないか。主人公である清子の姿は、そのまま高峰秀子さん自身の姿と重なります。

本作品を見ていて、高峰秀子さんという人は立ち姿がとても美しい女優だなと感じます。
なお、主人公がバスガイドという設定であるため、冒頭、当時の銀座の街並みをバスの車窓から眺めることができます。昭和20年代後半の銀座、こんな様子だったのだとという興味あり。

2012.02.12

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