“パッチギ!” ★★★
(2004年日本映画)

監督:井筒和幸
原案:松山猛
脚本:羽原大介、井筒和幸
出演:塩谷瞬、高岡蒼佑、沢尻エリカ、楊原京子、尾上寛之、真木よう子

 

1968年の京都を舞台にした朝鮮高校生と日本人学生の争いを背景に、恋や友情や哀しみを描く青春群像。
ちょっとした日本版ロミオとジュリエット風です。
単なる青春ストーリィに終わらないのは、祖国を離され辛いけれど日本で生活していくほかない朝鮮の人々と祖国(朝鮮)分断の哀しみがふつふつと胸に伝わってくるからです。

東高校2年生の松山康介は、朝鮮高校とのサッカー親善試合の申込書を持たされて朝鮮高校へ出向きます。そこで康介は、音楽教室でイムジン河を演奏していた部員の一人、フルートを吹く女子高生キョンジャに一目惚れしてしまう。
愛の力は強し、康介はイムジン河を覚え朝鮮語も勉強します。それはキョンジャと親しくなるための入り口ではあったけれど、それを通じて康介は朝鮮の人々が日本で暮す経緯や哀しみ、そしてまた祖国である朝鮮分断の哀しみを知ることになります。
一方、キョンジャの兄で朝鮮高校の番長格であるアンソンは、日々日本人学生らとの闘争を繰り返していて、それは次第にエスカレートしていく。

朝鮮の人々の哀しみを直視し、そのうえで哀しんでいるだけでなくこれからの未来を築いていこう、日本人と朝鮮人の間にある壁も乗り越えようという願いが、「イムジン河」の唄に籠められていると思うのです。
終盤に流れるイムジン河の唄は、何度繰返し聞いてもその度に胸熱くならずにはいられないでしょう。
高校生や中学生にも是非観て欲しい、感動的な青春ドラマです。

なお、私自身との関わりから言うと、ザ・フォーク・クルセイダーズの唄はとても懐かしい。「イムジン河」の他に「悲しくてやりきれない」「あの素晴らしい愛をもう一度」も作品中で歌われます。ただ、彼らの全盛期は私が中学生の時。「イムジン河」の歌の意味もまるで知ってはいませんでした。
高校生の頃、クラスで朝鮮高校との争いは時々耳にしていました。ただそれは学校あげてというようなことはなく、一部の乱暴な生徒が朝鮮高校の生徒とやり合っているというだけのことで、要は不良同士の喧嘩ごとという程度の認識しかありませんでした。当時、本作品で描かれたような面があるなんて、深く考えたこともありません。おそらく、私以外の大抵の生徒がそんな認識だったと思います。同じ高校の中には中国人の先輩もいましたし、そもそも朝鮮人だからといって差別しようという気持ち自体特に無かったから。
しかし、差別意識がなかったから良いとは今ではとても思えません。知らなかったということ自体が問題ではないかと思うのです。そのひとつの原因が、まず歴史の授業でそうした現代史をきちんと教えないまま、いつもその前で授業が終わってしまうというところに在るのは言うを待たないでしょう。
そうしたところにも、結局日本人が太平洋戦争前後のきちんとした歴史認識から逃げていたと思わざるを得ないのです。
そうした意味でも、本作品のもつ意味は大きいと思うのです。こうした映画が作られること、それは作品の終盤で「イムジン河」の演奏を無理やり押し通すディレクターの存在と同様、素晴らしいことです。

※題名の“パッチギ”とは、ハングル語で「突き破る、乗り越える」という意味だそうです。
 また、「あの素晴らしい愛をもう一度」は厳密に言うとフォークルの唄ではなく、解散後にメンバー3人の内の2人、北山修と加藤和彦がコンビを組んでヒットさせた曲で、私が高校1年の頃。

2005.08.28

 
   


  

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