“ドライブ・マイ・カー ★★★
(2021年日本映画)

監督:濱口竜介
原作:村上春樹(短編小説集「女のいない男たち」)
脚本:濱口竜介、大江崇允
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか、岡田将生、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、アン・フェテ、ペリー・ディゾン、安部聡子

  

カンヌ映画祭で脚本賞を受賞、アカデミー賞でも作品賞はじめ4部門でノミネートされたという映画。これはもう、観に行くしかありません。
・・・と思った人が多かったのでしょう、珍しく観客が多く混んでいました。

村上春樹さんの短篇が原作とのことですが、私は村上春樹作品を殆ど読んでいないため、どういうメッセージを伝えようとする作家なのか、その判断はつきません。したがって、原作のことは気にせず、ひとつの映画作品として観ました。

主人公の西島秀俊演じる家福悠介は、舞台俳優兼演出家。幼くして娘を失なったため、脚本家である妻の音と2人暮らし。お互いに愛し合っているが、音、夫の不在時に男を家に引き入れていることがあるらしい。
ある日「今晩話がしたい」と音から言われた悠介、帰宅すると音はくも膜下出血で倒れていてそのまま亡くなってしまう。
喪失感を抱えたままの悠介は2年後、広島の演劇祭で上演する「ワーニャ伯父さん」の演出を頼まれ、愛車で広島に赴きます。
しかし、主宰者側の強い要請で、滞在中は愛車の運転をあてがわれたドライバーに委ねることになります。
専属ドライバーとなるのは、無口で無表情な若い女性=渡利みさき。

オーディションに応募してきた、また悠介が選んだ役者たちの国籍は様々。言葉の違いをそのままに舞台は演じられます(手話者も一人)。
その中に、かつて音から紹介されたことのある若い役者=高槻耕史もいて。

ストーリィ運びの上手さに唸らされます。スムーズでどこにも切れ目というものが感じられない。そのため、3時間という上演時間の長さがまるで苦にならず、長いという感じは全くありませんでした。
本作から感じることは、人と人が繋がることの難しさ。主人公の悠介は、妻亡き後ずっとその思い、後悔を抱えたまま。
そしてそれは、ドライバーのみさきにも共通すること。
車好きという点で2人は共通しますが、ある意味車に拘るところは、人と真に関わることを拒絶する姿勢でもある、と感じられます。

冒頭で演じられる芝居はベケット「ゴドーを待ちながら」ですが、広島に舞台が移ってからはチェーホフ「ワーニャ伯父さん」の稽古とともにストーリィは進みます。
生きることの辛さ、寂しさは「ワーニャ伯父さん」の内容にも通じること。

西島秀俊は当然のこととして、孤独さを漂わせる女性ドライバーを演じる三浦透子が秀逸。また、上演に関わる韓国人夫婦の姿が良かったです

作品の質が極めて高く、カンヌ映画祭脚本賞受賞、アカデミー賞作品賞ノミネートも至極当然と思います。 観ることができて良かった。

※最後のエピローグ場面、クリント・イーストウッド監督・主演の「グラン・トリノ」に似た安らぎがありました。

2022.02.11

               


  

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