アイザック・ウォルトン著作のページ


Izaak Walton 英国人。鉄商として財産を築くが6人の子供と妻のすべてを亡くし、家庭的には恵まれなかった人物。

 


 

●「釣魚大全」●  ★★       訳・解説:立松和平
 
原題:
"The Compleat Angler or The contemplative Man's Recreation"




1653年発表

1996年08月
小学館刊
(1553円+税)

 

1996/10/01

 

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本書は、歴史的名著として知られる思索書。釣り師が語る釣りとは何ぞや、という会話の中に、人生の深い経験と知識を織り込めた一冊です。

革命が勃発し、チャールズ国王が処刑されるという騒然とした時代にあって刊行された書だけに、静かに人生に思いを馳せようとする著者の姿勢が強く印象に残ります。
本来ゆっくり楽しみながら読むべき作品なのでしょうが、つい読み急いでしまう。したがって、立松和平氏の言うような、魚の表情までも楽しむ、という境地には到底至りませんでした。釣りに興味が無いということも、おそらく無縁ではないでしょう。
とは言え、本書に共感を覚えることは、沢山あります。

ウォルトンのモットーは、「ただ謙虚に穏やかに満ち足りた気持ちで過ごすこと人こそが、幸いな人なのです。穏やかな気持ちでいれば、神も喜んでくださり、自分も幸せになれるというわけです」という言葉に象徴されます。そして、それを実践している人こそが釣り人なのだと、語るのです。
まあ、当時釣りのような趣味をもつ人は、ある程度裕福で、教育もあった人であった筈。ですから、本書中、古書や詩文が折に触れ紹介されています。まさに至福と言うべき世界。
だからと言って、本書の内容が当時の資産階級の人だけに当てはまること、ということでは決してありません。現代においてもそれは通じる真理でしょう。要は、気持ちの持ち方次第。仏教に借りて言えば、小欲知足ということ。そして、それを幸せだと思って、あくせくしないことです。
なお、3ヵ月間何も食べない魚がいるとか、泥の中から魚が生まれる、釣針も時間が経てば水の中で溶けてなくなってしまう、等の記述には流石に驚きますが、 340年前という時代差を考えれば仕方ないこと。

何が大切か、何が幸せかを、教えてくれるという面では、本書は少しも古書ではありません。  

 


  

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