シルヴィア・ナサー著作のページ


Sylvia Nasar 1947年ドイツ・バイエルン生。幼少時に渡米し、ニューヨーク・ワシントンDC等で育つ。カリフォルニア州アンティオク大学文学部卒業後、エコノミストとして働く。後、ニューヨーク大学経済学部で修士課程を修了、ジャーナリストとして活躍。「ニューヨーク・タイムズ」の記者として経済記事を担当していた94年、ノーベル経済学賞の取材を通じてジョン・F・ナッシュと知り合い、4年間をかけて「ビューティフル・マインド」を執筆。

 


 

●「ビューティフル・マインド−天才数学者の絶望と奇跡−」● ★☆  
 
原題:"A Beautiful Mind"       訳:塩川優
 ピュリッツァ賞(伝記部門)最終候補、全米批評家協会(伝記部門)大賞他、受賞多数




2002年3月
新潮社刊
(2600円+税)

2013年11月
新潮文庫化

 

2002/04/23

  

amazon.co.jp

本書は、1994年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカの数学者ジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアの伝記です。同名の映画化作品もアカデミー賞4部門を受賞し、話題になりました。
何故ナッシュが注目されたかというと、20代にして天才数学者の名を高めながら、30年以上にも亘り妄想型精神分裂症に苦しみ、その後奇跡的な快復を遂げたばかりか、ノーベル経済学賞を受賞するといった、ドラマチックな人生を送った人物だからです。

題名からすると、美談ストーリィのように感じられますが、それは違います。
まず、ナッシュという人物。努力型ではなく天才型であり、その分高慢、自分勝手、というところが多分にあります。とくに、長男およびその母親(結局結婚せず)に対する態度は、不道徳、無責任であり、さらに非人間的とも批難したい程です。
概ね、家族に対する彼の態度は、(発病前から)とても夫あるいは父親の責任を果たしていたと言えるものではありません。
それにも拘らず、“プリンストンの幽霊”とまで言われたナッシュが快復するまでに至れたのは、精神病院に彼を置き捨てることなく、天才的な数学者としての能力を惜しんで擁護し続けた、同僚、家族らがいたからこそ、と言えます。ナッシュの自由気侭にさせていた、彼らの温かさがなければ、奇跡的な快復はなかったろうと、語られています。

本書は、精神病を患った人間が自然に快復するという、奇跡かつ苦闘の歴史、として読むべきでしょう。
ただし、本書はかなり分厚く、おまけに数学理論のことが常に語られますので、読むには正直言って骨が折れます。しかし、それだけの力作であることに間違いありません。


ジョン・フォーブス・ナッシュ(1928〜)
経済学、生物学、政治学等幅広い分野に多大な影響を及ぼした天才数学者。若き日の絶頂を境に、30年以上に渡り精神病に苦しむ。しかし、奇跡的な快復を遂げ、1994年ノーベル経済学賞を受賞。

 


   

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