| 
  
 2018年発行
 2019年08月海と月社
 (1800円+税)
 
 2019/11/28
 
 amazon.co.jp
 
 | アリバイもあり、犯人ではないという証拠があるにも関わらず、検事によって隠蔽され、個人的な恨みから偽証され、身に覚えのない強盗殺人の罪で死刑宣告を受けた筆者による回想録。
 黒人に対する人種差別の根強いアラバマ州で母親と一緒に暮らしていた筆者は1986年、29歳の時にいきなり強盗殺人の罪で逮捕され、「おまえの仕業じゃないと思ってる。だが、そんなことはどうでもいいんだ」という警官の言葉どおり、凶悪犯罪人と決めつけられ、貧乏であるが故にまともな弁護士による弁護を受けられず、死刑宣告を受け、死刑囚監房に投獄されます。
 公正な司法を実現するため活動している弁護士ブライアン・スティーヴンソンと遂に出会い、再審理のための支援をようやく得ることができたにもかかわらず、誤りを認めようとしないアラバマ州裁判所、検事局の頑なな抵抗により、実際に釈放されるまで15年という時間を要する。結果、独房生活は30年という長さ。
 
 余りに非道、過酷。黒人相手なら何をしても良い、というのがアラバマ州の考えなのか。無罪と分かっていながら凶悪犯人として死刑宣告を下す、先進国でありながら、この黒人差別の実態には呆れ果てるを通り越し、驚愕するほかありません。
 
 それに対して素晴らしいのは、筆者の人間性。
 絶望して自暴自棄になり、自分に対して不当な措置をとった人間たちを恨み、深く憎悪しても不思議ないというのに、冷静に自分を取り巻く状況を認識し、恨むより赦すという道を選びます。
 そして印象深いのはそのユーモア感覚です。
 そうした人間性は、筆者の格調高い文章からも感じられること。
 
 また、筆者がそうした人間性を維持し続けていられたのは、幼馴染であるレスターが30年間にわたり面会し続け、彼のことを忘れていない、信じ続けていると励ましてくれたこと、筆者の母親による、どんなことがあっても自分という人間を損なってはいけなという教えがあったからこそでしょう。
 
 小説であったとしても感動尽きない出来事ですが、これは本当にあったことなのです。それも30年間という長さに亘る。
 無実であることを認めてもらおうと諦めずに闘い続けた、黒人男性の魂の記録と言って良いノンフィクション。
 そこには絶望と感動と類まれな人間性があり、そしてある意味、スリリングでさえあります。
 
 是非読むべき、一冊です。お薦め。
 
 序.胸に迫る、唯一無二の物語(弁護士ブライアン・スティーブンソン)
 1.死刑を科しうる犯罪/2.全米代表選手/3.二年間の試乗/4.冷蔵室の殺し屋/5.事前に計画した犯行/6.嘘いつわりのない真実/7.有罪、有罪、有罪/8.だんまりを続ける/9.上訴/10.<死の部隊>/11.死ぬのを待つ/12.エリザベス女王/13.モンスターじゃない/14.愛を知らない者たち/15.山にのぼりて告げよ/16.裸にされる/17.神がつかわした最高の弁護士/18.銃弾の鑑定/19.空いてゆく椅子/20.反対意見/21.かれらは木曜日にわれわれを殺す/22.すべての人に正義を/23.それでも、陽は輝く/24.監房のドアを叩く音/後記.一人ひとりの名前に祈りを捧げる/謝辞
 |