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「風よ僕らの前髪を The Wind Blowing Through Our Sorrow」 ★★ | |
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弁護士の夫=立原恭吾が散歩中に公園で殺害された事件を調べてほしいと、伯母の高子から依頼された若林悠紀。 高子は、実孫で養子の志史に疑いを感じている。ついては犯人が志史ではあり得ないということを証明してほしいと。 悠紀、かつて志史の家庭教師をしていた時期がある。また、ある事情から最近まで探偵事務所でバイトをしていた。そんな経験を見込まれたらしい。 それから悠紀は、志史のアリバイ証言をした女性、さらに志史の中高時代の同級生たちに話を聞いて回ります。 そこから浮かびあがってきたのは、小暮理都(りつ)という、志史と似た怜悧な冷たさを感じさせる少年の存在。彼もまた志史と同様に複雑な家庭環境を持っていた。 ミステリ小説ですが、事件の真相は最初の方ですぐ、多分こうだろうと推測がつきます。 しかし、何故事件が起こされるに至ったのか、どうやって行ったのか、悠紀の調査はそれを探り出すためのものとなります。 若林悠紀は主人公というより、むしろこのストーリィの語り手と言って良い。 しかも、事件の背景を順々に深堀りしていく構成は、探偵事務所でバイト経験があるという悠紀の設定が如何にも相応しい。 次第に明らかになっていく事件の真相は、悠紀の、読者の想像を遥かに超えるものであった、という展開が、何より秀逸です。 ミステリ小説としては珍しい、ちょっと難しい構成。途中で綻びが生じても不思議なかったと思うのですが、弥生さん、揺るぎなく見事に描き通しています。その筆力を評価したい。 1.残像/2.洋館/3.聖域/4.少女/5.旋律/6.傷跡/7.寓話/8.玻璃窓/9.記念樹/10.天秤 |