山崎ナオコーラ作品のページ No.3



21.美しい距離

22.母ではなくて、親になる

23.偽姉妹

24.趣味で腹いっぱい

25.リボンの男

26.肉体のジェンダーを笑うな


【作家歴】、人のセックスを笑うな、浮世でランチ、カツラ美容室別室、論理と感性は相反しない、長い終わりが始まる、手、男と点と線、モサ、ここに消えない会話がある、あたしはビー玉

 → 山崎ナオコーラ作品のページ No.1


この世は二人組だけではできあがらない、男友だちを作ろう、ニキの屈辱、私の中の男の子、昼田とハッコウ、太陽がもったいない、ボーイミーツガールの極端なもの、可愛い世の中、反人生、ネンレイズム/開かれた食器棚

 → 山崎ナオコーラ作品のページ No.2

  


       

21.
「美しい距離 ★★        島清恋愛文学賞


美しい距離

2016年07月
文芸春秋刊

(1350円+税)

2020年01月
文春文庫


2016/07/31


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癌で余命僅かという40代の妻、妻の入院している病院へ足繁く通う夫。そうした2人の姿から描き出す、生と死の考察。

夫婦の片方が癌を患い、残された方がその余命を見守るという光景は、今やそう特別なものではないし、誰にしろ何時起きても不思議ないことだと思います。
それゆえに、本作は“小説”という域を超えて、誰に何時生じても不思議ではない仮想ドキュメント、という印象を受けます。

入院している病室に顔を出す夫と迎える妻の間でいつも交わされる「来たよ」「来たか」という言葉は、まるで戦友同士のやり取りのように響きます。病が闘いなら、それは何ら不思議ないことでしょう。
子供のいない夫婦、妻が逝った後はさぞ孤独な思いを抱えることになるでしょうけれど、そうした夫側だけの思いは本作では語られることはありません。

妻の両親の問題、夫が勤める生保会社での介護休暇・時短勤務制度の問題、サンドイッチ店を営んでいた妻において仕事先からの見舞い問題、そして妻の葬儀での問題、現実的な様々な問題が本作において描き出されます。

最後、妻が死ぬ病因であった癌に対する夫の言葉は、とても印象的でした。そういう考え方もあるのか、と。
本書は、忘れ難い一冊。

         

22.

「母ではなくて、親になる ★★


母ではなくて、親になる

2017年06月
河出書房新社

(1400円+税)

2020年03月
河出文庫



2017/07/09



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35歳で授かった第一子は流産。その後、半年間にわたる不妊治療を試した後、36歳にて再度妊娠。前置胎盤だったことから37週で帝王切開。
陣痛を味わうことなく、出産というより手術を受けたという印象だが、赤ん坊が生まれた喜びを思えば、そんなことは気にならないとのこと。

それから赤ん坊が1歳になるまでの出産・子育てエッセイ。
題名の意味が気になりますが、世間が定型化している「母親らしさ」「母親なら」といった押しつけに捕らわれず、自分らしく子育てをすればそれで良い、という気構えからのようです。

町の書店員であり低給与だというご主人にも遠慮なく子育てを分担してもらい、仕事もしながら子育てに励んでいる山崎さんの姿は、どこかで無理をしているということがなく、とても自然体であるように感じます。
結構、理想的な母親像というインプットに悩んでいる新米母親も多くいるのではないでしょうか。そうした方たちに、是非お薦めしたい一冊です。

山崎さんが抱えているいろいろな問題も折に触れ、語られます。
作品の売れ行きが低下傾向にあり、収入も減少傾向、今後に不安あり。
そして赤ん坊が1歳近くなれば“保活”問題も。

本書からは、赤ん坊を育てる、育っていく様子が喜びをもって語られています。
我が息子や娘が赤ん坊だった頃を思い出して懐かしさを覚えることも度々(ただし、子育てあまり分担していなかったなぁと反省するところ大です)。

             

23.
「偽姉妹(にせしまい) ★★


偽姉妹

2018年06月
中央公論新社

(1700円+税)



2018/07/05



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昔ながらの結婚や血縁という家族の枠にとらわれない、新たな“家族”の姿、在り様を描き出そうとする作品が最近は増えていると思いますが、本作もそれらに連なる一冊。

主人公の
松波正子はバツイチの35歳、幼い息子の由紀夫あり。
その正子、壁のない人間関係を築ける人になりたいと、宝くじで得た3億円を使って、壁のない家
<屋根だけの家>を建てて暮らしています。
出産前に離婚が決まった正子を心配したやってきて以来、今は共に独身である姉=
衿子と妹=園子も2階・3階に同居状態。
ところが、身内だからなのか何かとお互いの関係に気を遣ってしまう衿子と園子といるより、親しい友人である40代の
百夜、20代のあぐりと一緒にいる方が余っ程気楽で楽しいと気付きます。
結婚や離婚ができるのなら、姉妹だって自ら選んでいいはずと、正子は血の繋がる姉妹の衿子と園子に出て行ってもらい、百夜とあぐりと新たな姉妹関係を結び、共同生活を始めます。
即ち、
“偽姉妹”という次第。

決まりきった形に囚われる必要はないよなと思うものの、そう簡単に是非を決めつけて良いものか、とも思います。
とりあえず賛否を保留して読み進みましたが、最後が快い。
結末の締め方次第で読後感はがらりと変わる得る、という実証例のようなエピローグでした。
そう、結果がどうであったかが、結局はその是非を決めるのでしょうから。

どう生きるのが自分にとって幸せなのか。その幸せを手に入れるためには、勇気をもって踏み出すこと、お互いに繋がり合える相手を見つけることもまた重要、と感じさせられるストーリィでした。
最後における3人+由紀夫の姿は、実に楽しそうで、生き生きとしていると感じられます。ある意味、夢の実現ですね。


1.君と老後を/2.屋根だけの家/3.ヒエラルキーの下の方にいる人は本当に不幸せなのか/4.掃除をする権利/5.姉妹を選ぶ/6.金と空間は無駄に使え/7.雨に濡れず、風にも吹かれず、外が見たい/8.穴だらけのドア/9.店に成長する家/10.純粋な人間関係

               

24.
「趣味で腹いっぱい ★★


趣味で腹いっぱい

2019年02月
河出書房新社

(1550円+税)



2019/03/10



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趣味をテーマにした、軽い連作ストーリィと思っていたのですが、然に非ず。
結構、人生観を左右するかもしれない、仲良し夫婦の深い会話があります。

働かざる者食うべからずと父親から教え込まれてきた
小太郎は、高卒で銀行員。仕事をすることこそ人生、という価値観。
一方、妻の
鞠子は、したいことをすれば良いという両親の下、大学院で平安文学を勉強していたという経歴。

仕事に邁進する小太郎の傍ら、鞠子はいろいろな趣味を見つけたいと、絵手紙、家庭菜園、俳句、小説、散歩といろいろなことに手を広げていきます。
その一方、小太郎も影響されて・・・をやり出しますが、そこはそれ、真剣かつプロを目指す気持ちと、妻とは対照的。

仕事をすることだけがエラいのか? そう問われれば今では、決してそうではないという答えが返ってくることでしょう。
本作は、そんな旧式の価値観を問い直そうとする内容になっています。

余暇の時間潰しにやるものが趣味かと言えば、決してそんなことはないでしょう。
我が身を振り返ると、読書の楽しみがあったからこそ、仕事上の辛いこともやり過ごせてこれた気がします。
仕事は、自分の思うにまかせないこともありますし、運不運もあり。でも趣味は、自分でやりたいかどうかだけですから、自分を保つことに役立ちます。

小太郎と鞠子の経緯、その後に下した結論は、いくら小説とはいえ順調に行きすぎとは思うものの、ずいぶん遠いところまで、来たものだよなぁ。(笑)

1.趣味の発見/2.二人の道のり/3.絵手紙/4.家庭菜園/5.俳句/6.小説/7.散歩/8.単身赴趣味を希望す鞠子/9.再び絵手紙

             

25.
「リボンの男 ★★


リボンの男

2020年12月
河出書房新社

(1350円+税)



2020/03/08



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妻のみどりは書店員、息子のタロウは幼稚園児、そして主人公である小野常雄(愛称:妹子)は専業主夫。

お互い35歳の時に結婚相談所の仲介で知り合い、結婚。
常雄が中古書店のバイト、みどりは書店の店長とあって年収差は歴然。タロウの誕生を機に、必然的に常雄が仕事を辞めて専業主夫になった次第。
家事、子育て、少しも苦になりませんが、時々
「時給かなりマイナスの男」と自虐してしまう。
しかし、タロウは毎日父親と楽しそうですし、みどりは働き甲斐があるとまるで気にしていない。

中編といっても良い長さの作品ですが、内容は濃い。
ストーリィとしては、
<ヒモ>ではなく<リボンの男>、何の引け目を覚えることはないと常雄が得心するまで。

夫婦の形はそれぞれ。専業主夫だって良いじゃないかと思いますが、ちょっと考えればその奥があることに気づきます。
主婦なら普通、主夫が特別という問題ではなく、主婦(主夫)仕事もれっきとした経済活動、金を稼いでないからといって何の引け目をもつ必要はない、というメッセージを感じます。

なお、といっても世間の目は保守的。理屈で分かっていても主夫として平然としていられるようになるまでは、まだまだ時間がかかるのだろうなぁと思います。

                  

26.
「肉体のジェンダーを笑うな ★☆


肉体のジェンダーを笑うな

2020年11月
集英社

(1600円+税)



2020/11/30



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題名から分かる通り、一般的に認識されている精神的なところから来るジェンダーではなく、肉体的なところに現れるジェンダーというのが、本作の設定。

誤った、あるいは不適切な性別意識、思い込みをユーモラスなストーリィで正す、というのがテーマでしょう。

「父乳の夢」:子供の頃から父親になるのが夢だった哲夫、育児を手伝う中、男性でも医学的処置を受ければ母乳ならぬ父乳を出すことができると知り、早速処理を受けます。
その結果、我が子に父乳をあげるという喜びを知るのですが、母親である妻の
今日子に対抗心を抱くようにまでなるのですから、面白い。
なお、父乳、SF発想かと思いきや、本当に可能なのですね。初めて知りました。

「笑顔と筋肉ロボット」:実際の性差に囚われていたからこそのストーリィでしょうねぇ。女性が目覚めると、男性は自分の存在価値を失うような気がして焦り、抵抗する、という心理は解りますねぇ。

「キラキラPMS(または、波乗り太郎)」太郎、本で学んだ知識から、配偶者であるに対しても、自分は何でも理解していると自慢風でしたが、実際に自分がそうなってみれば、如何にそれが大変なことだったかと初めて気づく、というストーリィ。そこへ至るまでの展開が、前半は嫌味、後半はそれみたことかという組み立てが、実にユーモラス。

※なお、新型コロナ感染が(私が読んだ小説の中では)、初めてストーリィ中に取り上げられていました。

父乳の夢/笑顔と筋肉ロボット/キラキラPMS(または、波乗り太郎)/顔が財布

   

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