山崎マキコ作品のページ


1967年福島県生。明治大学農学部在学中に書いた「健康ソフトハウス物語」にてライターとしてデビュー。以後、パソコン雑誌を中心に執筆活動を展開。2002年 Web連載当時から人気を博した小説「マリモ」にて注目され、次いで03年「さよなら、スナフキン」にて高い評価を得る。他に「恋愛音痴」等の作品あり。

 
1.マリモ

2.さよなら、スナフキン

3.声だけが耳に残る

4.ためらいもイエス

5.盆栽マイフェアレディ

 


   

1.

●「マリモ−酒漬けOL物語−」● ★★

  

  
2002年04月
PHP研究所刊

2005年03月
新潮文庫

(552円+税)

 

2005/03/21

題名とその副題からして、コミカルなOL物語と想像しがちですが、とんでもない、相当に切ないストーリィなのです。
本書は山崎さんの処女作であると同時に、その後のさよなら、スナフキン」「声だけが耳に残るにも繋がっていく作品です。

主人公は食品会社に勤めるOL、大山田マリモ
このマリモ、普通のOLと違うのは、ちょっとストレスを感じるとすぐ酒を飲みに行きたがり、飲むと必ず意識を失うのが常、という点。
しかし、そんな飲み癖の悪さは、マリモが心の底に抱えた罪悪感によるものらしい。子供の頃両親のどちらからも邪魔者扱いされたことが、マリモをして自分の存在に自信がもてない原因となっているようです。
会社で一生懸命頑張ろうとする程、マリモと周囲のミゾは広がっていく。そのやるせなさを吹っ切ろうと酔っ払わずにいられないし、その一方で酒漬けになることでダメ人間という刻印を自分自身に押し続けている。そんなにまでして生きているマリモという女性が、とても切ない。
そんなマリモにも彼女を励ましてくれる坂上君という同僚がいますが、マリモにはその励ましに応えることもできない。結局追い詰められた彼女は、失意のまま高校時代恩師を訪ねていく他なくなります。
本書は、マリモの“魂の遍歴”と言うべきストーリィです。

荒削りな印象を受けますが、若い女性のもがき苦しむ胸の内を余さず描いた小説として、注目に値する作品。
このマリモの抱えた切なさは、きっとマリモに限ったことではないのでしょう。

第一部・彼の見た空/第二部・先生とわたし

 

2.

●「さよなら、スナフキン」● ★★

  

  
2003年07月
新潮社刊

(1500円+税)

2006年05月
新潮文庫化

 

2003/09/14

自分の居場所を、自分の価値を見出せないでいる、実質3浪の女子大生、大瀬崎亜紀・22歳が主人公。
アパートに引篭りとなりそうなところを奮い立たせ、バイトを探そうとする向上心まではなんとかある。しかし、頭が悪いうえに要領まで悪く、そのうえ社会常識も欠けている亜紀は、読者でさえさじを投げたくなる主人公です。
そんな亜紀が見つけたバイト先は、独立して間もないPC系の編集プロダクション。そのシャチョーは29歳の、自信家。
亜紀が望んでいたのは、自分より広い世界を知っていて、自分の才能を見つけてくれる“すなふきん”のような存在。
馬鹿にされつつ、便利に、都合よく使いまくられても、亜紀は忠義よろしく、会社に泊まりこんでまで、給料を約半分に落とされても、全身全霊でシャチョーの期待に応えようとします。
そんな亜紀が、自分の身の丈にあった生活をすれば良いんだと、漸く自覚するまでを描くストーリィ。

幾度も亜紀に呆れつつ、阿呆らしくなりながらも、懸命に頑張ろうとする亜紀の姿は、現代社会において他人事ではないのかもしれません。
他人との距離感を正しく把握できないという点は、亜紀だけでなく、他の登場人物にも共通する問題と言えます。
亜紀の成長は、自立しえたと言うには物足りませんが、作者である山崎マキコさんの経歴をだぶらせつつ読み進むにつれ、いつしか愛おしさを感じているところが、本作品のミソ。

  

3.

●「声だけが耳に残る」● ★★

  

  
2004年02月
中央公論新社

(1600円+税)

 

2004/07/31

本書の主人公は椎貝加奈子、26歳、無職。
かつて恋愛ゲームの脚本を書いて脚光を浴びたが、ゲーム会社に利用され、使い捨てられた以後、無気力のままその日暮らしをしている。
冒頭、加奈子が調教(SMプレイ)される場面から始まるので、そこまで落ちたのかと思うと、世間に相容れない自分を忘れていられる分、ホッと息つく時間であるらしい。
能天気なのか、それとも底の底まで落ちて開き直ってしまったのか、というのがこの主人公。
調教されたり、レイプされたりしても、どこかあっけらかんと自分自身を眺めている。自分をワシ、ワシと言い、イデーっとか。色気どころか、まるで女っ気がない。調教のご主人様とのやり取りだけでなく、主人公の言葉には笑ってしまうことが多い。椎貝は、ことさらに自分を貶めようとしているのか。
そんな彼女は、精神的な傷を負った人達のサークルに出て、自分の無気力の原因が“AC”という症状だと知らされる。そして、同じように社会不適応者である青年と友達になる。

細部はすっとばしても、どんどん先を読みたい小説がありますけれど、本書はそんな小説のひとつ。
言うなればさよなら、スナフキンの先にある作品です。努力し、裏切られ、世間の片隅でうめきながらも、何とか自分の生きる道を見つけようとしている女の子の物語。
涙ぐましく、また愛おしい。本作品のミソもそこにあります。

  

4.

●「ためらいもイエス」● ★★☆

  

  
2004年04月
文芸春秋刊

(1700円+税)

2007年12月
文春文庫化

  

2005/04/02

 

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とにかく面白くて、読み出したらすぐ止まらなくなりました。
本書の主人公・三田村奈津美、好きだなぁ。大好きです。
こんな風に感じること、そうはありません。

これまでの山崎作品の主人公は、生きることにどこかシンドサを抱えた女性ばかりでしたが、本書の奈津美はちょっと違う。
抱えているといえば多少抱えているのですが、それを吹き飛ばすような明るさ、エネルギッシュなところがあります。そして、彼女には周囲と相当に感覚のズレがあるという、滑稽さがあるのです。その辺り、姫野カオルコさんの主人公にも共通する要素で、笑ってしまわずにはいられないところ。

主人公・三田村奈津美は、特許翻訳の仕事一筋に生きる地味なワーキングガール・28歳。恋愛には縁がないと思い込んでいるところがあり、恋愛経験なし、未だバージン。
そんな奈津美が、母親の押し付けにふと気が向いて見合いに応じる。それと時期を同じくして、奈津美を“姐さん”と慕う後輩の青ちゃん(青木まあ子)が、奈津美のために合コンを仕組んだばかりか、奈津美を強引に磨き上げます。
それからあれよあれよと、見合い相手のギンポ君とは付き合いが進むし、会社の同僚からは急にモテ始めるし、あれよあれよと生活が急転していきます。
とにかく、女28歳奈津美の急転ぶりとフツー人との感覚ズレの大きさが、面白くて仕方ないのです。そして、そんな奈津美に精一杯、応援旗を振りたくなる。そんな楽しさのある作品。

いいですよぉ、この主人公。是非好きになってください。

  

5.

●「盆栽マイフェアレディ」● 

  

  
2008年06月
幻冬舎刊

(1400円+税)

 

2008/08/24

 

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つい先輩の松本に誘われて繭子が足を踏み入れてしまったのは、盆栽職人の道。しかしこの道、即ち貧乏ということでもある。
そんな繭子の前に現れたのは高野という、やたら金持ちの男性。繭子に誘いをかけてくる高野につい好意を感じたら、あれよあれよという間に繭子は愛人道を励むことに。
平日は貧乏な盆栽職人を続けながら、休日は高野の傍でゴージャスな美女に変身。
しかし、そんな相反する二重生活をいつまでも続けられる訳もなく、やがて繭子はどちらの道を歩むのか、選択を迫られることになります。
果たして繭子は、貧乏な盆栽職人の道を目指すのか、それとも愛人道を極めるのか。

繭子の本心が金銭目的ではなく、ただ高野を喜ばそうと健気に振る舞っているだけと判っていても、結果的に金に釣られるようにして愛人道に励んでいる様子はなぁ〜、心持ち良くないんですよ。
それでも本作品に注目したい点がひとつ。それは題名にある「マイフェアレディ」。
「マイフェアレディ」と言えば、もちろんオードリー・ヘップバーン主演で映画化にもなったミュージカルの傑作にして、その原作はB・ショー「ピグマリオン
この「ピグマリオン」の結末と本作品との結末の違いが、本作品の見処だと思う次第。
人に依存しなければ生活していけなくなったイライザと、自立の道を歩もうとする繭子の違い、それは当時と現在の女性を囲む状況の違いにも通じていて、比較してみて初めて面白いと感じられます。

なお、繭子の先輩で同じ盆栽職人である松本慎一。単に頭が固いだけの男と思っていたのですが、実は芯が通っていてなかなかいいじゃないですか。彼の人物像の変化も楽しめるところ。

  


   

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