山本 弘作品のページ No.2



11.翼を持つ少女
−BISビブリオバトル部 No.1−

12.幽霊なんて怖くない−BISビブリオバトル部 No.2−

13.怪奇探偵リジー&クリスタル

14.世界が終わる前に−BISビブリオバトル部 No.3−

15.君の知らない方程式−BISビブリオバトル部 No.4−

16.プラスチックの恋人


【作家歴】、アイの物語、MM9、詩羽のいる街、地球移動作戦、去年はいい年になるだろう、MM9−invasion−、トワイライト・テールズ、
MM9−destruction−、僕の光輝く世界、プロジェクトぴあの

 山本弘作品のページ No.1

  


    

11.

「翼を持つ少女−BISビブリオバトル部− ★★☆


翼を持つ少女

2014年12月
東京創元社刊
(1900円+税)

2016年04月
創元推理文庫化
(上下)



2015/01/29



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好きな本を紹介し合って聴衆の票を競う“ビブリオバトル”なるものを題材とした学園ストーリィ。
副題の冒頭「
BIS」は、主人公たちが通う自由な雰囲気の中高一貫の私立校の名前。同校ビブリオバトル部が本書の舞台。

そのビブリオバトル部員の一人である埋火武人、図書館で同級生の女子と遭遇し、たまたま帰りの電車も一緒になります。何か話題でもと彼女が借出した本について訊いたところ、大のSF小説ファンだったらしく、一度話しだしたらもう口が止まらずといった具合で武人は呆気に取られます。地味でまるで目立たない存在であったその女子が伏木空。いつも一人でいて、彼女のことを知る同級生がいなかったことから、女子仲間で「フシギちゃん」と呼ばれる存在。
武人の紹介で伏木空もビブリオバトル部に入部するのですが、さて・・・・。

とにかく楽しい。前半では数々のSF名作の他、私にとっても思い出深いSF作品の話が伏木空の口からボンボン飛び出します。E・R・バローズE・E・スミス等々、懐かしくてたまらず、つい興奮してしまいます。
そして本書から感じるのは、語ることの楽しさ、それも好きな本について遠慮なく語れる訳ですから、面白くないはずがありません。読書が趣味という点で共通していても、読む傾向が異なれば話が弾むという風には中々ならないもの。それが彼らの間では熱く語られ、丁々発止のやり取りもあり、止むことがないのですから、楽しいのも当然のこと。

小説作品として格別優れた作品という訳ではありませんが、この堪らない楽しさがある故に、★2.5 評価。
なお、ただのエンターテインメント小説ではありません。SFとは決して絵空事ではなく、リアルな小説では書けない事実を描き出すものだと、SF小説への熱い愛が語られているのですから。
また、終盤でビブリオバトルの審判役を務めた教師のひと言も、現在の国際情勢に照らして注目に値する指摘です。

SF小説ファンのみならず、本について熱く語りたいという思いを抱いている方たちにお薦め。

プロローグ/1.「エドモンド・ハミルトンは健全です」/2.「一条さんの心理描写だけでご飯何杯もいただけます!」/3.「なぜモナ・リザが名画と呼ばれているか、知ってるか?」/4.「あなたは空を飛べなくなった人だったんですね」/5.「確かに、燃えるシチュエーションではありますね」/6.「みんなの反対を押し切って核ミサイルを発射してしまったんです」/7.「きっと、彼の翼はとても大きくて・・・」/エピローグ

             

12.
「幽霊なんて怖くない−BISビブリオバトル部− ★☆


幽霊なんて怖くない

2015年06月
東京創元社刊
(1600円+税)

2017年02月
創元推理文庫化



2015/07/21



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好きな本を紹介し合って聴衆の票を競うビブリオバトルを題材とした“BIS ビブリオバトル部”シリーズ、第2弾。

前作は
ビブリオバトルなるものの物珍しさ、勝利を競うという展開にスリリングなものがあって興奮する面白さだったのですが、第2弾目ともなると流石に新鮮な驚きというものは無し。
ストーリィとしても、前半は埋火家でのBB部の夏合宿、後半は八俣図書館での模範ブリオバトルの開催といった内容で、これぞという展開は特にありません。
語り手は前巻どおり、
伏木空埋火武人が代わる代わる務めます。
シリーズ化という流れの中で、歩調を整える為の巻、という印象です。

ただし、本巻におけるブリオバトルのテーマは
<戦争>
BB部5人がそれぞれ、そのキャラクターを発揮して各自のお薦め本について熱く語ります。
この部分、戦争を知らない若い人たちにも戦争について考えてもらいたいというメッセージが伝わってきて、その点では評価したいところです。

一方、
「幽霊なんて怖くない」という題名、それに相応しい場面がなくはないのですが、これこそ主ストーリィと思い込んでしまうとすっぽかされたと感じかねません。ご注意の程。

※よくもまぁ、これだけいろいろなフィクション、ノンフクション作品が登場するものだと感心します。一部、題名を知る作品もありますが、主人公たちが取り上げた6冊、どれも読んだことがない作品ばかりで、ちょっと悔しく思う処あり。


プロローグ/1.「少しでもお祖父さんの気持ちに近づけるんじゃないかって」/2.「だから実在の人間で掛け算しないでください」/3.「もし幽霊もいるなら私のところに来なさい!」/4.「大和が沈んだ時、何人死んだか知ってるか?」/5.「だからこそ現実にしたいじゃない。本当はきれいごとがいいんだもん」/エピローグ

                  

13.
「怪奇探偵リジー&クリスタル ★☆
 The Paranomal Detectives Lizzie&Crystal


怪奇探偵リジー&クリスタル

2015年12月
角川書店刊
(1800円+税)



2016/01/26



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1938年の米国ロサンゼルスを舞台にした探偵もの連作。
美人でまだ若い女性の
私立探偵エリザベス(リジー)・コルトと少女助手のクリスタル・ナイトのコンビが奇怪な事件の解決に活躍するというストーリィ。
“怪奇探偵”とはどういう意味かというと、2人が遭遇する事件がいずれも奇怪なものばかりということもあるのですが、リジーとクリスタルの2人自体が奇怪、ということも示している題名です。

「まっぷたつの美女」:金持ちの女性を縦に真っ二つにして殺すという事件が発生。リジーが犯人を突き止めます。
「二千七百秒の牢獄」:後年、幻の特撮映画となった「豹人の女王」に関わる事件。何とまぁ・・・。
「ペンドラゴンの瓶」:1617年の英国と1938年の現在米国にまたがる事件。リジーの謎を明らかにする篇でもあります。
 ※また、後年有名なSF作家となる少年もゲスト出演。
「軽はずみな旅行者」:ある特殊な事情を抱えているらしい旅行者からリジーが依頼を受けます。SF的な篇。
「異空の凶獣」:これはSFホラーか? クリスタルの謎が明らかにされる篇。

猟奇殺人、ホラー、オカルト、SFと、何でもアリのストーリィてんこ盛りという風です。そうした趣向は、如何にも1930年代の米国の風潮に似つかわしい。
現に作者の山本弘さん、基本は“エロとグロ”、徹底的に面白いB級作品を目指したのだそうです。
毎回2人のヒロインがどちらか(あるいは両方)が必ず脱ぐ!という展開も、勿論その延長線上にあるノリでしょう。
そんな言葉の通り、B級ならではの面白さが炸裂しています。

※個人的に嬉しかったのは、
E・R・バローズE・E・スミス作品が話題に上り、「類猿人ターザン」(映画化初作品、私は観たことがあるのです)や、ロン・チャーニー・ジュニアのことまで取沙汰されていること。いや〜楽しかったです。

1.まっぷたつの美女/2.二千七百秒の牢獄/3.ペンドラゴンの瓶/4.軽はずみな旅行者/5.異空の凶獣

   

14.
「世界が終わる前に−BISビブリオバトル部− ★☆


世界が終わる前に

2016年02月
東京創元社刊
(1800円+税)

2019年01月
創元推理文庫化



2016/03/27



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好きな本を紹介し合って聴衆の票を競うビブリオバトルを題材としたBIS ビブリオバトル部”シリーズ、第3弾。

これまでの2巻は、
美心国際学園(BIS) ビブリオバトル部が中心だったため、伏木空が中心となりSF話題が多かったのですが、本書では真鶴高校ミステリ研究会との交流ということもあってミステリが中心。
さらに
真鶴高校ミステリ研究会の個性的な部長=早乙女寿美歌がビブオバトル部の皆を引っ張り回す、という展開です。
ビブオバトル場面ももちろんあるのですが、前2作のような本格的な試合ではなくてお試しという程度なので、本ストーリィの中にあっては添え物という印象です。

冒頭、番外編である
「空の夏休み」は、空とミーナに頼まれ、東京ビッグサイトで行われる世界最大というコミケの手伝いに駆り出されます。寿美歌と出会えば、教師の朝日奈とも出会い、思わぬ模擬ビブリオバトル。

さて本編、ビブリオバトルは行われないしマンネリ化したのかぁと思われましたが、そうした印象を見事にひっくり返されたのが終盤。
要は、寿美歌自身にミステリがあり、それを仕掛けたのも寿美歌だったということらしい(どうもミステリの主役になるというのが願望だったらしい)。

さて本書中、SF・ミステリを問わず、傑作についてはエッセイで語られるより小説ストーリィにて語られる方が楽しい、という語りが出てきますが、それこそ本シリーズの意味&魅力といって間違いないでしょう。


番外編:空の夏休み
プロローグ/1.「人殺しなんて一生に一度あるかないかの大イベントだぞ」/2.「それをボクは"スケールが大きい"と表現する」/3.「人は桜の枝の先に咲き乱れる花にばかり注目する」/4.「だからこそ、自分の内面を守るために武装する」/5.「諸君、ご清聴、感謝する」/6.「だってそんなの、伏線なかったじゃない!」/エピローグ

       

15.

「君の知らない方程式−BISビブリオバトル部− ★★


君の知らない方程式

2017年08月
東京創元社刊

(1800円+税)



2017/09/17



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シリーズ第4弾。
4作目ともなると“ビブリオバトル”ももう新鮮な驚きがあるものでもなくなっていて、すっかりマンネリ化したなぁというのが第一印象。
しかしその冒頭、驚くべき事態が起こります。
2学年下の
輿水銀から告白された伏木空、驚くままについ「はい」と承諾してしまったことから、埋火武人を含めた3人の関係が微妙に・・・・。
一方の武人、空と付き合っているんですと銀から宣言されて思わず動揺、自分もまた空を好きだったのではないかとようやく気付いた次第。
そしてまた、空も銀と武人の間で心揺れ・・・。

そんな空がバイトする蕎麦屋に、中学時代に空をイジメていた連中が現れ、そこに行き遭った銀と武人は・・・。

このままではどうもならないと、銀が言い出し、空を賭けて2人で秘密の勝負をすることに・・・。
いやいや、それ間違っているでしょ、空の気持ちを無視しているのですから。男という人種は勝負や対決という物事が好きなんですかねぇ・・・。本好きには似合わない気がしますけど。
しかし、空が面白かろう筈がありません。
武人と銀の対決に、空が2人との対決を仕掛け、さらにビブリオバトル部の皆々もそれに加わり・・・というのが本作におけるビブリオバトルの本舞台。

それはそれで収まり、では次作にはどう興味を引っ張るの?と思ったら、エピローグでちゃんと用意されていました。新たな挑戦者が。本巻で充分逞しくなった空がさらなる活躍と対決シーンを見せるだろうより次作の方が楽しみかも。(笑)

※本書で銀が読んだことのあるラノベの一冊なのですが、そんなSFが実際にあるなんて、と思わず絶句。


プロローグ/1.「エッチなの好きだから! 純潔じゃないから!」/2.「本格的なキスしてたんだー、こいつらーっ!」/3.「俺の彼女だ! 文句があるか!」/4.「空さんの裸が見たいです!」/5.「この世に魔法はないんです」/6.「決着は、私がつけます」/エピローグ

         

16.

「プラスチックの恋人 ★★


プラスチックの恋人

2017年12月
早川書房刊

(1800円+税)



2018/01/30



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物理の天才=結城ぴあの“ピアノ・ドライブ”を発明した後、2040年代という近未来が舞台。
この未来社会では、オルタテック社が開発したセックス用アンドロイド
“オルタマシン”が既に実用化されていた。しかし、1回の利用料金はサラリーマン月収の半分近いという高額。それでも実際のセックスより素晴らしいと一部では大好評。

近未来社会にセックス用アンドロイドが登場するという設定はとくに驚くようなことではなく、むしろ必然的に登場する筈のものと考えるのが自然でしょう。
ですから、それだけではストーリィにならないという訳で、本作で賛否両論の強く戦わされるのは、
マイナー(少年少女型)・オルタマシンというタイプ。
児童虐待そのものである、いやいやこれは人間ではなく機械に過ぎない、等々と。

主人公となるのはフリーライターの
長谷部美里(みさと)、28歳。懇意であるウェブマガジンの女性編集者から、半ば強制的にマイナー・オルタマシンの取材を求められます。もちろんマシンと実際にセックス体験することが前提という訳で、美里は「ミーフ」という名の少年オルタマシン(設定12歳)と出会います。

一応SFストーリィですが、本質はむしろ性的を含む児童虐待問題なのではないか、と思います。
それと併せ、オルタマシンに人間のような感情はあるのか、という美里の視点が加えられているのも面白い点。

読者の好み次第によるかと思いますが、私としては未来社会におけるアンドロイドへの興味と、この問題への大いなる関心により十分楽しめた作品です。


プロローグ/1.「発射台ごと吹き飛ぶかもね」/2.マイナー・オルタマシン/3.キャッスル訪問/4.緑色の髪の少年/5.<私たち>/6.七転八倒/7.マシンを愛する者たち/8.黒マカロンの告白/9.決心が鈍らないうちに/10.二度目の逢瀬/11.落下する月/12.セレブの邸宅/13.失われたもの/14.メンテナンス・ルーム/15.破局/16.ミーフの真実/エピローグ

    

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