山本悦子作品のページ


1961年愛知県半田市生、現在も半田市居住。元小中学校教員。97年「ぼくとカジババのめだまやき戦争」にて作家デビュー。「グッバイドール」にて第12回月刊MOE童話大賞童話賞、「WA・O・N 夏の日のトランペット」にて第7回新北陸児童文学賞、2017年「神隠しの教室」にて第55回野間児童文芸賞を受賞。


1.
夜間中学へようこそ

2.神隠しの教室

3.今、空に翼広げて

 


                   

1.

「夜間中学へようこそ ★★☆


夜間中学へようこそ

2016年05月
岩崎書店刊

(1500円+税)



2017/02/10



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沢田優菜、13歳。めでたく中学校へ進学。
すると76歳の祖母
サチが、私も中学校へ入学することになったと突然に言い出し、皆びっくり。ただし、それは夜間中学校。

じつはサチ、子供の頃小学校にまともに通うことができず、今でも漢字の読み書きができず、息子のケンジや孫の優菜の名前も漢字が分らないのだと初めて家族に打ち明けます。
その面でずっとサチを補ってくれていた祖父が亡くなり、自分で何とかしようと決めたのだという。
ところがサチ、通い始めてすぐ、帰宅途中に階段を踏み外して足を捻挫してしまいます。
言わんこっちゃないと元から否定的だった父親の言葉に反発し、優菜は自分がサチの送り迎えをすると宣言します。
そうした事情から、優菜もまた祖母と一緒に夜間中学へ通うことになるのですが、そこには優菜のまるで知らない世界が開けていた・・・。

祖母の同級生は、80歳過ぎの男性、17歳の女性、16歳の少年と幅広く、それぞれの事情で夜間中学に通っている。
また他の日本語学級には、様々な国から日本にやって来た外国人が日本語を学ぶため通ってきています。
年齢、国籍、さらに各人が抱えている事情も様々。それでもどの人も学ぶ姿はとても真剣なもの。
祖母と一緒に通う優菜も彼らに仲間として受け入れられ、夜間中学にすっかり馴染んでいきますが、そのおかげで優菜は多くのことを学び、体験していきます。
しかし、それは優菜だけに留まりません。読み手もまた優菜と一緒にこの夜間中学に通い、そこに通う生徒たちと交流している気持ちになります。
何と貴重で、何と素晴らしい体験であることでしょうか。
優菜のことがとても羨ましくなるくらいです。

当たり前だと思っていたことが実は当たり前とは限らないのであると知って初めて、学べることの幸せ、学ぶことの素晴らしさに気付くことができるのでしょう。
自分もまた新中学生である優菜の視点から描いている点がとても好い。
読了後はまるで得したような、幸せな気分です。児童向け作品ですけれど、是非お薦めしたい一冊!


1.おばあちゃんの宣言/2.思わぬアクシデント/3.夜間中学へ/4.夜の船/5.幸せな中学生/6.昼間の顔/7.サイトウカズマ/8.爆発/9.喧嘩のあとは/10.松本さんを訪ねて/11.夜間中学マジック/12.同級生/13.バレーボール大会/14.さよなら、夜間中学

               

2.

「神隠しの教室 ★★☆         野間児童文芸賞


神隠しの教室

2016年10月
童心社刊

(1600円+税)



2017/12/22



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授業中に保健室へ行こうとしただけなのに、加奈が気づくと、教室どころか学校中が空っぽ。一体、何が起きたのか。
この不思議な事態の仲間となったのは、
聖哉(6年)、加奈とバネッサ(5年)、亮太(4年)、みはる(1年)という計5人の小学生たち。
とにかくこの異常事態の中でモノを確保しなくてはと、5人のサバイバルを掛けた試行錯誤が始まります。
そして気づいたのは、これは以前聞いたことのある
“神隠し”、“もうひとつの学校”ではないか、ということ。

元の世界では、学校から子供たちが突然姿を消し、そのまま未だに発見されないということで大騒ぎ。
そんな中、養護教諭である
小島早苗はふと、自分が小学生の頃に行ったことのある“もうひとつの学校”に子供たちがいるのではないかと思い当たります。

ファンタジー、サバイバル的冒険、スリルという面白さをたっぷり楽しめるのですが、肝心なことは、何故彼らが“もうひとつの学校”に入り込んでしまったのか。そして、どうやったら元の学校に戻ることが出来るのか、ということ。
そこから、5人にはある共通項があること、そして彼ら各々の胸の内には切ない思いがあることが明らかになっていきます。

5人は決して危険な場所に行っている訳ではなかった。
子供たちを優しく見守ってくれる存在がもしあったら、何と安心でき、子供たちにとっては嬉しいことでしょうか。
面白さ、感動、読み応えともにたっぷりな佳作。
最後、5人の子供たちそれぞれに、よく頑張ったと称えたい気持ちになります。
児童文学の逸品と言って間違いなし。是非、お薦め!


1.始まり/2.五人だけ?/3.いなくなった子どもたち/4.あるものとないもの/5.子どもたちはどこに/6.バチがあたった?/7.子どもたちのいない朝/8.食べ物探し/9.ここはどこ?/10.テレビの向こう/11.欠席者/12.神隠し/13.助けられるのはだれ?/14.パンを食べたのは/15.告白/16.早苗の過去/17.いなくなった聖哉/18.届いたメッセージ/19.帰る方法/20.もう一人の体験者/21.みはるの秘密/22.聖哉がいる!/23.言わなくていいのに/24.五日目の朝/25.必要なこと/26.みはるの母/27.してほしいこと/28.それぞれの家を訪ねて/29.最後の朝/30.とぎれたメッセージ/31.子どもたちを迎えに/32.帰れない/33.聖哉/34.目を覚まして/35.聖哉の母/36.ありがとう

                 

3.
「今、空に翼広げて ★★★


今、空に翼広げ

2019年10月
講談社

(1500円+税)



2019/11/30



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小学校の通学班(双葉町三班)、一年生から六年生までの6人。6人に何か共通点がある訳でもなく、ただ近所だから、という繋がり。
班長は6年生で優等生の
里奈。副班長は同じく6年、ブラジル人のパウロ。4年の圭太はズケズケした物言いをする、空気を読まない男の子。2年のティアラ(美愛姫)は外人っぽい名前ですけどれっきとした日本人。
そして、「さ」行がまだちゃんと言えない1年生の
つばさ(山下翼)と、主人公である5年生の原田真紀

そのつばさ、台風で早く下校した日に家が留守だったため、真紀が家に招き入れ世話をしたところ、それ以来つばさはすっかり真紀に懐いてしまう。そのため、何かと真紀も登校班の時だけでなく、つばさの言動が気になるようになり・・・・。

登校班で一緒といっても、それぞれに家庭事情も性格も異なります。しかし、つばさの状況は何と言っても特別。
つばさのことを心配する真紀に引っ張られ、他の子どもたちも次第につばさの問題に関わっていくようになります。

他所の家のことに口を挟まないほうがいい、という真紀の母親の言葉は一般的には正解でしょう。でも、いつもそれが正しいという訳ではない。
真紀たち子供たちの行動は、ある意味子供の本分を超えたものでしょう。でも、知らんぷりせず、自分たちのできる範囲で、仲間たちが協力し合ってつばさを助けよう、大事にしようという行動はとても尊いと思います。お薦め!
 
※後半に登場する
セイコさん、ちょっとマツコ・デラックスをイメージさせられるキャラクターですが貴重な役回りです。拍手。

読了後、本書の題名がじわじわと胸の内に温かく広がってくる気がします。題名、皆に対する、祈りの言葉、ですよね。

1.原田真紀・5年−つばさ係/2.岡崎圭太・4年−ハニキヌキセヌ男/3.原田真紀・5年−万年四位/4.更科里奈・6年−通学班班長/5.原田真紀・5年−口は災いの元/6.ダ・シルバ・パウロ・6年−クールなヒーロー/7.原田真紀・5年−好きの魔法にかかってる/8.岡崎圭太・4年−知らないほうがよかったのに/9.更科里奈・6年−「お手本さん」の本当の姿/10.原田真紀・5年−言葉の力

 


   

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