山田詠美作品のページ


明治大学文学部中退。大学在学中に漫画家としてデビュー。その後、小説家に転じ、1985年「ベッドタイムアイズ」にて文藝賞、87年「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」にて直木賞、89年「風葬の教室」にて平林たい子文学賞、91年「トラッシュ」にて女流文学賞、96年「
アニマル・ロジック」にて泉鏡花賞、2000年「A2Z」にて読売文学賞、2012年「ジェントルマン」にて第65回野間文芸賞を受賞。


1.
ご新規熱血ポンちゃん

2.風味絶佳

 


  

1.

●「ご新規熱血ポンちゃん」● ★☆




2004年11月
新潮社刊

(1300円+税)

2007年05月
新潮文庫化


2005/12/31

ちょっと恐そうなイメージがあって、今まで手を出してこなかった山田詠美作品。
「風味絶佳」の評判が良いので読みたいと思ったのですが、図書館では貸出中。ちょうど本書があったので借り出し、まずは本書で山田詠美さんを知っておこうと読み出した次第。

冒頭からアップテンポで始まったエッセイにちょっと驚かされました。
ポン、ポン、ポンと、休むことなく言葉が飛び出してくる感じ。
「ポンちゃん」シリーズのエッセイはもう何冊も刊行されているようですけれど、「ポンちゃん」という呼び名はここから生じているのでしょうか。
臆面なく本音でものを言い、人に遠慮することなく、またセックスについても避けて通らない、という饒舌風。

高樹のぶ子氏を主にした筒井康隆氏とのやり取りには、思わず笑ってしまいました。作家幾人かの素顔にも触れられたことは楽しかった。

  

2.

●「風味絶佳」● ★★




2005年05月
文芸春秋刊
(1229円+税)

2008年05月
文春文庫化

  

2006/01/25

「日頃から、肉体の技術をなりわいとする人々に敬意を払って来た。(中略)職人の域に踏み込もうとする人々から滲む風味を、私だけの言葉で小説世界に埋め込みたいと願った」というのが、「あとがき」における詠美さんの弁。
その言葉どおり、本書収録の6篇はいずれも肉体労働に従事する人たちを恋愛の当事者として描くラブ・ストーリィ。どこか和んでいられるような雰囲気がとても心地良い短篇集です。

和むような雰囲気は、主人公たちがいずれも等身大の恋をしている所為ではないか。
肉体を使っての仕事はできることに限りがありますけれど、どの人物も自分のできることをきちんと果たしている、という充足感を持っているようです。そこには肉体労働者という僻みなどどこにも見当たりません。だからこそ気持ち良い。
(もっとも、冒頭「トマト」の主人公にはちょっと頼りないところがありますが。)
登場人物の仕事は、とび職、ごみ収集の作業員、ガソリンスタンドの店員、引越業者、汚水層等の清掃業者、葬祭場(焼き場)の職員と、多岐に亘っています。いろいろな職業で働く人たちの姿を見るのも楽しいし、するべき仕事を着実に果たしているという姿は清々しくもあります。それに加えての恋愛風味。味わい深さはもうたっぷりです。

本書中で私が一番好きなのは「夕餉」。味気ない夫婦生活+義父母との同居生活を飛び出し、ごみ収集時に知り合った作業員と同棲する美々という女性が主人公。自分にできることは、彼の血や肉になるおいしい料理を作ること。ひたすら一生懸命に料理することが、彼女にとって最大の自分にできることなのでしょう。料理という味わいが加わっているからこそ、特に楽しいと感じる一篇。
「風味絶佳」という笑うに笑えないラブ・ストーリィもあれば、巣籠りするような温もりある「アトリエ」、主人公に思わず同情したくなる「春眠」と、ストーリィも実に多彩な味わいあり。十分楽しめます。

間食/夕餉/風味絶佳/海の庭/アトリエ/春眠

 


   

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